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第四章 伊賀忍者 藤林疾風 戦国に救う者

閑話 儚き無き、戦国武将の女たち

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 戦国時代、民が虐げられた暮らしをしている時、武家や公家の女性達はどんな暮らしをしていたのだろうか。
 姫様の暮らしなら、別世界のような優雅な暮らしを送っているのではという、想像イメージを抱くかも知れないが、実は優雅とは程遠く厳しい日々を送っていた。

 戦国時代には、既に花嫁修業が存在しており「礼法」「歌学」「茶道」「書道」「芸事」などの教養を身に付け、その免状を持つことが嫁の条件になっていた。
 つまり、免状が取れないような姫君は良い嫁ぎ先を得られないのだ。
 姫君の教養資格を得るための修行は、ある意味、殿方より勉強量が多いかも知れない。

 戦国の世、武将の子女は政略結婚の道具にされ、憐れな宿命を背負って生きたのではないか、という印象だが実は違う。
 彼女達は幼い時分から、親や一家を守るために、自分がいるのだと自覚していたのだ。
 近隣の国と関係が緊迫すると、同盟の証の人質として嫁ぐ、これが政略結婚だ。
 政略結婚に選ばれるのは、彼女が外交手腕と間諜能力に優れていると信頼されたことにほかならない。

 嫁ぎ先で、実家への不信な動きがないかを探り、夫の信頼を得られず人質の肩身の狭い暮らしを余儀なくされるが、やがて子を成し奥の管理(財政、使用人の管理)に、或いは夫が出陣中には城代として、無くてはならない存在となるのだ。

 夫が戦に敗れると、姫君や女児は助けられ実家に帰されるのがこの時代の習慣だった。
 ただし、身分が有る姫君と認められた場合のみである。そうでなければ、悲惨な最後が待ち受けていた。

 そんな彼女達の行動指針は、家長制度であった。女より男、家長、嫡男、母親の正妻、側室や貴卑による序列である。
 家長である父親の生存中は、父親に従い、亡くなり息子が家長となれば、家長の息子に従うのである。



 そんな戦国時代の姫君の有名な逸話には、信長公の妹君、お市の方の逸話がある。
 嫁ぎ先の浅井家が、兄信長を裏切り奇襲すると知ったお市の方は、小豆を布で包み両端を紐で縛ったものを兄信長に届けさせた。
 それは、朝倉軍に向う織田軍を浅井軍が挟み撃ちにするという意味が込められていた。
 他からの知らせもあり、浅井家の裏切りを一早く悟った信長公は、九死に一生を得たのだが、もし、お市の方のこの知らせがなくて信長公が討ち取られていたら、歴史が大きく変わっていたことだろう。

 お市の方は兄信長亡き後、柴田勝家に嫁ぎ秀吉に負けると勝家と共に自害して果てるのだが、自分を縛る家長である信長公がいなくなって、夫である勝家を家長として、忠節を尽くしたのだと思われる。



 そしてまた戦国の世に、儚くも短い生涯を終えた女性がいる。
 その名を八重緑やえりょくという。名前から桜の散ったあとの葉桜の季節、初夏に生まれたと思われるが年齢も生誕も不明であり、ただ、死没の日が永禄8(1565)年8月27日と知れるだけである。

 その頃の美濃国の領主は、斎藤道三の孫の斎藤龍興で、重臣の討ち死にや流出で衰退の一途にあった。
 織田信長の侵攻に対処するため、中美濃では関城の長井道利、堂洞城の岸信周、加治田城の佐藤忠能が盟約を結んでいたが、内通の疑いを持たれた佐藤忠能は盟約の証として、娘の八重緑を岸方へ養女(人質)として差し出したのだ。

 だが、佐藤忠能が織田側に寝返ったと判明すると、合戦前夜に八重緑は竹槍で刺殺され加治田城や城下から見える『轟の松』に磔にされた。
 亡骸はその夜、古参家臣が忍んで奪い取り龍福寺へ葬ったと伝えられている。
 おそらく、八重緑は生きて帰れないことを知っていたのかも知れない。それでも佐藤家を守るために人質に出たのであろう。死没の年齢も不明である。
 嫁にではなく養女であり、また上に5人の兄姉がいたことから、まだ幼い年齢であったと推察される。



 武田家が織田信長によって滅ぼされた時、同盟が破られる前に、信長の長男信忠と信玄の五女松姫が婚約していたことを知っているだろうか。
 そして、武田家が滅んだ後も信忠が松姫を探し、迎えを寄越して、松姫も信忠の下へ向かったことを。
 
 しかし、戦国版のロミオとジュリエットの恋は、やはり、悲恋で終わってしまう。
 松姫が喜びを心に秘め、信忠の下へ向かう道中の間に、本能寺の変が勃発し明智光秀に攻められた信忠は、自害してこの世を去ってしまったのである。
 松姫はその年の秋、22才の若さで北条家の庇護の下で出家し、信松尼となり武田一族とともに、信忠の冥福を祈ったという。
 なお、信忠の子である三法師の母親は、唯一の側室である徳寿院(塩川長満の娘)しか考えられないのだが、それでも疑問視され、松姫ではないかとの説がある。





【 小豆の話 】

 小豆は古くから日本に自生しており、縄文時代の遺跡からも発見されている。
 そのため古くから、お手玉や楽器、波の音雨音などの擬音の発生材料、枕の詰め物など日本人の生活に関りが深い。
 食物としても種子は低脂質、高蛋白で食物繊維、ビタミンやミネラルも豊富で栄養価が高いが、唯一餡等にすると、豊富なビタミンB1が激減する。
 小豆に含まれるサポニンには、抗菌作用、溶血作用、抗炎症作用、脂質代謝改善作用などが報告されている。
 もしかしてもしかしたら、日本人の免疫力に、小豆餡が一役買っているのではないかな。
 だって、小豆餡を食べるのは、日本人が断突多いと思うから。もちろん、殺菌ではなく体内消毒の一助という意味でね。
 

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