ホーリー・ドラゴン

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序章

お仕事にいきましょう(中編)

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高層ビルが建ち並ぶ都市内を、なるべく目立たないように駆けていく。
路地裏など人通りの少ない道を選んではいるものの、やはりと言うべきか2番隊の面々は目立っていた。
「やっぱり電車かバス乗ってきた方が良かったかな?」
『それはそれで目立ちますよ…囲まれて降りられなくなります』
「そうなのだ…人が多すぎて暑苦しいのだ」
「あれは、無いですね」
「もう何回乗り過ごしたことか…」
186回である。
そんなことからも彼女達の知名度と人気ぶりが伺える。
…まあ色々な尾ひれがついたことにより、彼女達が“何でもできる超人スーパーヒーロー”と誤認されていることも大きな要因だろう。
「やっぱり仕事ついでに人助けなんかするからよね…」
「良いことをしているはずなのに…解せないですね」
『確かに…漫画とかでよくある“自分は良いことをしたつもりでも相手のためにならない”とかいう展開にもなりませんしね』
「善意が善意のまま受け止められるのも、難儀なものですね」
がらりと回りの風景が変わった。
「皆、森に入ったそうなのだ!あと難しい話をしないでほしいのだ!」
それからしばらく進むと、生い茂っていた木が無くなり、開けた場所に出た。
「…みなさん、そろそろ到着です。ここは最前線から約20㎞離れていて、今回はここが我々前衛部隊の駐屯所になっています。」
『じゃあ、前衛部隊の人達はここで待機を…何かあったら無線で知らせます。』
「分かりました…どうかご無事で」
「じゃあ行くのだ!」

【森・深部】
『うわぁ…え、キモ?』
こんな言葉が自然と口から出てきた。
率直な感想だ。
なぜなら…
「なんでこんなにいるのだ!?報告と違うのだ!」
そこにいた異形の数が最早面積と比例していなかったのだ。
なにかの動物のようなものや、巨大アメーバのようなものの体色が混ざりあい見事なコントラストを…
「気持ち悪いのが…300、500、70…もうやめよう。」
「これが人だったら窒息死確定ですねぇ」
『それ以前にホラーですよ…ただでさえグロテスクで対応に困ってるのに』
「でも、狩りがいはあるのだ」
『まあいいや、じゃあ行きますか』
少し気だるげなアスカの声を皮切りに五人は飛び出した。

約1000体の異形…いつもより疲れるが倒せない相手ではなかった、はずだ
「あれ、全然死んでないのだ」
『攻撃が利いていないのでしょうか…』
「当たってはいるけど、ダメージはないってとこね」
先程から五人で広範囲に攻撃をしている。
なのに、異形はまったく減っていない。
いや、それどころかさっきと変わらぬの姿勢でたっているのだ
「それに妙ですね…ぜんぜん攻撃してこない」
『鳴き声も雄叫びも聞こえてきませんね…言語能力はないけど口はあるはずなのに、というか口しかないのに』
しばらくの思案の後、全員が同じ答えにたどり着いたようだ
「本当は…1000の異形などここに存在しない?」
「偽物なのだ?」
『その可能性は高いですね…確かめてみましょう』
そう言うと、アスカは徐に足元の小石を拾い上げた
「え、まさか…」
『でりゃあ!』
凄まじい速さで投げつけられた小石は先頭の異形の眉間(があるかは知らないが)に貫通し、地面にポトリと落ちた。
「やっぱ貫通したのだ、さわっても大丈夫なのか?」
『え、触るんですか?』
「そうなのだ、本物がいたら叩き潰すのだ」
『じゃあそれで行きましょうか』
 グロテスクな塊に突っ込んでから早十数分。
ここまででわかったことは、この異形もどきはこちらに危害を与えないこと。
霧状だが、やたらと崩れにくいこと。
そして、今まで崩した500体以上の中で本物は一体もいなかったこと。
『これ、本物いないんじゃないですか?』
「きっとそうなのだ、静かすぎるのだ!というか、はっきりいってこのまま放置してもいい気がするの「それは困るわぁ~」だ!?」
『えっ…ちょ、は?今誰か喋りました?』
「どう考えても異形のほうから声が聞こえたけど…」
『ですよねー』
「あらぁ、きづいてくれたぁ?」
すると周囲の異形が一斉に消えて
、たった一体だけがそこに立っていた。
顔に口しかないのは動物型と変わらない。
しかし、その姿形に問題があった。
なんと目の前にいるそれは人の形をしているのだ。
そして、やたら長い髪であろうものがついていた。
『今まで報告されてない異形!?』
「そうよ~ん♪あんた達が戦いはじめてからこっちは殺られっぱなしなわけ。こっちだっていつまでもやられてるわけにはいかないしねぇ、だ・か・ら進化させてもらったのよ~ん」
『させてもらった?誰に?』
「うふふ~ひみつ」
『まあいいです…倒しますから』
「あらぁん、そう?じゃあ私も…」
目の前のオカマモドキは、こちらをいらいらさせるような仕草で髪の毛を一本抜き取った。
そして、徐にそれを放り投げた。
ふわりと舞い上がったそれが、ゆっくりと落ちていく。
地面すれすれまで落ちたところで、それがいきなりはじけた。
四散した粒子は徐々にその質量を増やしていき…
いつのまにかあたりを埋め尽くすのはオカマの群れ。
『う、うわぁ』
先程とはまた別の不快感が体を駆け巡る。
そしてそれらは、あろうことか一斉にアスカ達に向かってきたのだ。
「ちょっと、前が見えないじゃない!」
最悪だ…オカマの異形が高い壁を作って迫ってきている。
しかもかなり早い。
偽物だとわかっていてもやはり不快なものだ
もうこうなったら…あれしかないだろう。
疲れるが、迷っている時間はない
『はぁ…皆~あれやるからちょっと離れて下さいな』
「え…ここでやったら私たちも吹き飛びそうなんだけど」
『すみませーん、我慢してください』
昔の記憶を呼び起こす。
頭のなかで、大好きなひとの声がした
ーまずは、少し距離をとる…味方からも敵からも
次に体勢を低くし右手を前に突きだす
目の前の標的見据えて、距離を確認しその中心に狙いを定める
『…あと約30m』
標的の進行に比例して拳に力をこめる 
ほら、光だしたでしょ?
『あと約10m…』
力が集中するのを感じるのね?
『5…4…3…2…1…』
そう、じゃあ目の前に迫った敵を…ぶちのめすのよ!
『0!断命・アルテリカ』
森のざわめきにアスカの声が重なると、拳の光が刃のように鋭く四方に広がった。

光が消えた時、残っていたのは人型に焦げた草だけだった。
数秒の凪のあと、木のざわめきがもどってきた。
『 よし、終わった…』
「おつかれなのだ~」
「それにしても、この威力で単数相手の攻撃技ねぇ…消し炭とはよく言ったものだわ」
『1回1発しか出せなくて、 燃費も使い勝手も悪いので、こういう時じゃないと使わないんですけどね』
「それに、この間言ってたじゃないですか。技名が痛いからあまり使いたくないって」
『 う、うん。なんか一族の者が技名を唱えることが、技の発動の鍵になってるらしいんですけど…』
「中二病なのだ」
『うん、もうやめようか。さあ、帰りますよ!』
そう言ってそっぽを向いてしまったアスカの顔は、真っ赤だったそうです。(レイ談)



わかったこと…アルテリオン一族は中二病。
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