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第28話 Walk This Way
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――応接室にて、サトシとミコトとの対面での話し合いが終了。カナは、ミコトを元いた部屋に戻し、カナは自分の部屋に戻る。
サトシはというと、ウェアウルフと化したアサトに担がれ、自室に押し込まれた。
サトシを部屋に押し込んだあと、アサトは元の姿に戻ると、執務室に向かった。
「ウラト様、セントウダとミコトを面会させた件についてですが――」
アサトは、応接室で起こったことを報告した。
「うむ。ご苦労であった」
他人事か? アサトはウラトの返答をそう感じてしまう。
「……ウラト様。何故、セントウダとミコトを会わせたのでしょうか……」
こうなることはわかっていただろう。なぜ、あえてミコトを危険な目に合わせるのだろうか。アサトはウラトの考えがわからない。
「わだかまりが残っている状況なのは良くないだろう。どこかで解消せねばならん」
やはり、他人事なのか? むしろ、面白がってないか……? アサトはますますわからなくなった。
「差し出がましいようで申し訳ありませんが、お考えが皆目見当もつかないで……いや、決して私はウラト様のお考えに口を挟むことは……」
ウラトの考えを知りたかったが、どう尋ねればいいのかわからない。アサトは口ごもった。
「そういえば、お前はサトシに犬呼ばわりされたとこぼしておったことがあったな」
アサトは気まずそうにしている。それを尻目に、ウラトは話を切り替えた。
「はあ」
何故、今その話をするのか? アサトは面食らう。
「……お前は余が憎くないのか?」
「滅相もない! そんな事は、考えたこともありません」
アサトは首を横に振った。そもそも何故急にそんな事を言い出したのだろうか。まさか、ウェアウルフ化したことを咎めているとでもいうのか。
アサトは身構える。だが、アサトの予想に反して、ウラトは滅入っているように見えた。
「お前の曽祖父であるトモオをウェアウルフにしたのは余だ。余のせいでお前ら大神家のものは犬になったんだぞ」
ウラトは呟くように、アサトに語りかけた。
「……ウラト様」
ウラトは神妙な面持ちでアサトを見つめる。どう答えたらいいのだろうか。アサトはわからない。
アサトは物心ついた時から、ウラトに忠誠を誓うように、と言い含められて育ってきた。
それもあるのだが、尊大なようでいて人一倍思慮深い方だ。時折ついていけないところがあるのはともかく。
だからこそ忠誠を誓うと決めたのだ。これは紛れもなく、アサトの意思であった。
「そういえば、セントウダとミコトの話がまだ終わっていなかったな」
ウラトはそれとなく話を戻す。先程の神妙な面持ちとは一転、楽しげな様子になった。
アサトは忠誠を誓うと決めた矢先に、気まぐれに付き合わされるという試練を受ける。
話を戻したということは、一応気にかけはいるのだろう。アサトは好意的に解釈するように務めた。
「ミコトの方は、セントウダと接触するような事はしないでしょう。問題は、セントウダの方です。奴は、何をしでかすか、まるで読めません」
「ほほう」
アサトは困惑気味に報告する。それに対し、ウラトは淡々と相槌を打った。
「セントウダが、ミコトに対して何を考えてるのかわからん、という事だな。それは、余の方で確認するとしよう。で、他には?」
「他には、ですか。セントウダは血の涙を流していました」
「そうなのか?」
ウラトは前のめりになる。
「セントウダをここに連れて来た時は、血の涙を流していなかったと記憶しています。ここ数日で体質変化が進んだものかと」
「はははは!」
ウラトは笑いだす。アサトは思わずびくりとなる。
「アサト。今すぐ、セントウダをここに連れてこい。それにしても、体質変化か。こいつは面白くなってきたぞ」
ウラトは片微笑んだ。
「セントウダ、ウラト様が貴様に会いたいと言っている」
アサトはセントウダの元を訪れた。ウラトから「連れてこい」と言われたからである。
「ご主人様のお使いにやってきたというわけね。ご苦労さま、ワンちゃん」
サトシは意地悪く応答した。
「貴様、自分の立場をわかっているのか」
アサトはサトシを睨みつけた。
「そっちこそ、わかってんの?」
負けじとサトシもアサトを睨み返す。
「……まぁ、いいや。ここで痛い思いをしてもつまんないもんね。ハイハイ、行きますよっと」
サトシはアサトについて行くことにした。
「セントウダを連れてきたか。アサト、下がってくれ」
アサトは一礼した後、執務室を出た。サトシはウラトと二人きりになる。
「で、僕になんの用?」
「うむ。余はミコトの話がしたいのだ」
「は? あんたとミコト君は関係ないでしょ」
サトシは苛立ち紛れに答えた。
「いや、ただミコトの話がしたいだけだ。正確に言えば、貴様がどう思っているのかが知りたい」
「だったら、尚のこと関係ないでしょう」
サトシは苛立ちを隠せない。
「そうカリカリするでない。そうだな。貴様は自分の話をしてたな。余が自分の話をせぬというのは、無作法というもの。長くなるが、よろしいか?」
「イハラ様のお話ですか。では、拝聴させていただきます」
サトシは、顔に薄ら笑いを浮かべながら返した。
それを聞いたウラトは、エリと、そして無名経典の話を始めた――。
「とすると、ミドリ製薬にちょっかい出してたのは、全部妹さんの為、てこと?」
ウラトの話を一通り聞いていたサトシは口を出す。
「まぁ、そうだな」
ウラトは否定しなかった。
「へー」
サトシは感心したような素振りを見せる。
「でも、僕とイハラ様じゃ、やってる事がまるっきり違いますよ。イハラ様は愛する人を守る為に人を殺す。だけど、僕は愛する人を殺してしまった」
サトシの話を聞いたウラトは、しばし考え込む。しばしの間を置くと 、口を開いた。
「いや、余でも勢い余って殺す事があるかもしれない。あってはならないことなのは言うまでもないが。
それにしても、以前、貴様の話を聞いた時、他人とは思えなかったぞ」
ウラトはにこやかな顔になる。
「僕なんかにお世辞言ってどうするの」
「お世辞ではないぞ。心の底からそう思ったんだ」
それを聞いたサトシの顔は引きつっていた。
「まさか僕に気があるとか……そういうオチはないよね?」
「傷心のものに漬け込むようなあくどい真似はせんぞ。まぁ、話だけなら聞いてやれんでもないが」
ウラトは不敵に笑う。
「話だけならって……下心のあるやつが言う台詞なんですけど」
サトシは苦笑いした。
***
問題は解決が見えてきたが、それでもカナはサトシが気になって仕方がない。
そういうわけで、カナは度々サトシの様子を見ている。見ていて感じたのは、どうやら最近ウラトとやり取りをすることが多くなった、ということだ。
ウラトと関係を築くことはいい。ただ、ウラトは目的の為なら手段を選ばない闇の支配者だ。カナは一抹の不安を覚えた。
「私は、どうすればいいのかしら……」
研究所に潜入した時は、サトシの――厳密に言えばジェイの――確保、という目的があった。
だが、今回は何も起こっていない。根拠はカナの漠然とした不安感だけだ。これだけでは行動の起こしようがない。オマケに、何だかんだいってカナに良くしてくれた者たちを敵に回すかもしれないのだ。カナの焦燥感は、募るばかりである。
「……もしかして、『無名経典を使え』ということなの?」
座して待てば事態は悪化するかもしれない。どっちにせよ、無名経典を使うことは避けられないのだ。
しかし、使えば使ったで事態は悪化するかもしれない。なにより、エリが無事ですむだろうか。
もっとも、エリの方は覚悟ができているようだが――。
「神様、私はどうすればいいんですか……」
カナは神に祈った。
***
『イハラ様。やっぱりミコト君の事が気になります』
サトシはウラトのスマホにメッセージを送った。最近サトシは、ウラトとのやり取りにスマホを使っている。ウラト曰く、「これでも余は忙しいので、今後はスマホでやり取りをしたい」という申し出があったためだ。
『ミコトをどうしたいんだ?』
しばらくして、ウラトから返事が来る。
『ミコト君をどうしたいというか、いつまでここにいるのかなと思いまして』
サトシは返事を受け、メッセージを返す。
『なんでミコトが余の元にいるのかわかっているのか?』
『わかっています』
サトシは少し間をおいて、メッセージを返した。
『ならば、お前はやるべき事をやるべきであろう。直接手助けはできんが、協力なら惜しまぬ』
『イハラ様。僕のやるべき事とはなんでしょうか?』
『わざわざ尋ねるか。お前がいちばんわかっておろう』
サトシはウラトからのメッセージを確認する。新規のメッセージが来ないことを確認すると、ベッドの上にスマホを置く。
ドンッ!
サトシは壁を殴る。部屋に鈍い音が響いた。
「あのアマ! 僕を鉄砲玉にする気か!
大体何が『危ないから保護してる』だ! 人質にしてるんだろうが!」
何時になく、サトシは苛立っていた。
『サトシ。鉄砲玉ってなんだ』
サトシが喚き散らしてるそのとき、ジェイが話しかける。
「黙れー!!」
サトシはジェイに怒りをぶつけた。
『サトシ。なんでそんなに興奮しているんだ。私まで落ち着かない』
「呑気でいいなお前!」
『こうやってサトシと話したの、初めてだ。いままでは無視されていた』
ジェイは感慨深そうにしている。
このまま、ああだこうだいっても埒が明かない。サトシは気持ちを落ち着かせようと、ひと呼吸置いた。
「この場にいる話し相手が、お前しかいないからね……」
ひと呼吸置いたからか、サトシは幾分か冷静になった。
「ところでさ、お前。僕の意識がない間に、過去のことを話してたらしいじゃない。宿主になってるのに僕だけ知らないっていうの、おかしいんだけど。僕にも話してよ。昔の話」
先程まで、存在そのものを否定したい相手だった。けれど、こうしてやり取りしているうちに、興味が湧いてきた。だから昔の話をせがんだというわけである。
『どこから話せばいいんだ』
「生まれてから、ここに来るようになったとこまで、かな?」
『わかった』
ジェイは自分の過去について、話を始めた――。
「……お前の方が悲惨じゃないか! 虫のくせに!」
サトシはジェイの話に聞き入っていた。目に血が滲んでいる。
『虫ってなんだ』
「お前のことだよ!」
『虫は一般名詞だ。個体名を指すには不適切ではないか』
「いちいちうるさいんだよ、お前は」
ジェイは異を唱えたが、サトシは聞き入れない。
「まあ、いいや。僕はお前に話したいことがあるんだよ」
『なんだ』
「……僕は今からミドリ製薬にカチコミ……乗り込みに行きます」
こういうサトシだったが、話している途中、声が段々とトーンダウンしていった。
『そうか』
「僕は社長を始末します。でも、そうのこのこ姿を見せないでしょう。なので、大勢の人が死ぬことになるかと」
『わかった』
「大勢の人が死ぬ」と聞いても、ジェイの返事は素っ気ないものだった。
「……何か言うことないの?」
『サトシが決めたことだ。異を唱える理由がない』
「多くの人を殺すことになるんだけど……」
『カナはその中に入っているのか』
「なんでここでコフタさんの話を……ああ」
サトシは先程、ジェイがしていた話を思い出した。
「入ってないけど……」
『では、止める理由はない』
「なんなんだ! どいつもこいつも! わかったよ! 行くよ! 行けばいいんだろ!!」
サトシはベッドの上に置いたスマホを拾い上げ、懐にしまった。
サトシはというと、ウェアウルフと化したアサトに担がれ、自室に押し込まれた。
サトシを部屋に押し込んだあと、アサトは元の姿に戻ると、執務室に向かった。
「ウラト様、セントウダとミコトを面会させた件についてですが――」
アサトは、応接室で起こったことを報告した。
「うむ。ご苦労であった」
他人事か? アサトはウラトの返答をそう感じてしまう。
「……ウラト様。何故、セントウダとミコトを会わせたのでしょうか……」
こうなることはわかっていただろう。なぜ、あえてミコトを危険な目に合わせるのだろうか。アサトはウラトの考えがわからない。
「わだかまりが残っている状況なのは良くないだろう。どこかで解消せねばならん」
やはり、他人事なのか? むしろ、面白がってないか……? アサトはますますわからなくなった。
「差し出がましいようで申し訳ありませんが、お考えが皆目見当もつかないで……いや、決して私はウラト様のお考えに口を挟むことは……」
ウラトの考えを知りたかったが、どう尋ねればいいのかわからない。アサトは口ごもった。
「そういえば、お前はサトシに犬呼ばわりされたとこぼしておったことがあったな」
アサトは気まずそうにしている。それを尻目に、ウラトは話を切り替えた。
「はあ」
何故、今その話をするのか? アサトは面食らう。
「……お前は余が憎くないのか?」
「滅相もない! そんな事は、考えたこともありません」
アサトは首を横に振った。そもそも何故急にそんな事を言い出したのだろうか。まさか、ウェアウルフ化したことを咎めているとでもいうのか。
アサトは身構える。だが、アサトの予想に反して、ウラトは滅入っているように見えた。
「お前の曽祖父であるトモオをウェアウルフにしたのは余だ。余のせいでお前ら大神家のものは犬になったんだぞ」
ウラトは呟くように、アサトに語りかけた。
「……ウラト様」
ウラトは神妙な面持ちでアサトを見つめる。どう答えたらいいのだろうか。アサトはわからない。
アサトは物心ついた時から、ウラトに忠誠を誓うように、と言い含められて育ってきた。
それもあるのだが、尊大なようでいて人一倍思慮深い方だ。時折ついていけないところがあるのはともかく。
だからこそ忠誠を誓うと決めたのだ。これは紛れもなく、アサトの意思であった。
「そういえば、セントウダとミコトの話がまだ終わっていなかったな」
ウラトはそれとなく話を戻す。先程の神妙な面持ちとは一転、楽しげな様子になった。
アサトは忠誠を誓うと決めた矢先に、気まぐれに付き合わされるという試練を受ける。
話を戻したということは、一応気にかけはいるのだろう。アサトは好意的に解釈するように務めた。
「ミコトの方は、セントウダと接触するような事はしないでしょう。問題は、セントウダの方です。奴は、何をしでかすか、まるで読めません」
「ほほう」
アサトは困惑気味に報告する。それに対し、ウラトは淡々と相槌を打った。
「セントウダが、ミコトに対して何を考えてるのかわからん、という事だな。それは、余の方で確認するとしよう。で、他には?」
「他には、ですか。セントウダは血の涙を流していました」
「そうなのか?」
ウラトは前のめりになる。
「セントウダをここに連れて来た時は、血の涙を流していなかったと記憶しています。ここ数日で体質変化が進んだものかと」
「はははは!」
ウラトは笑いだす。アサトは思わずびくりとなる。
「アサト。今すぐ、セントウダをここに連れてこい。それにしても、体質変化か。こいつは面白くなってきたぞ」
ウラトは片微笑んだ。
「セントウダ、ウラト様が貴様に会いたいと言っている」
アサトはセントウダの元を訪れた。ウラトから「連れてこい」と言われたからである。
「ご主人様のお使いにやってきたというわけね。ご苦労さま、ワンちゃん」
サトシは意地悪く応答した。
「貴様、自分の立場をわかっているのか」
アサトはサトシを睨みつけた。
「そっちこそ、わかってんの?」
負けじとサトシもアサトを睨み返す。
「……まぁ、いいや。ここで痛い思いをしてもつまんないもんね。ハイハイ、行きますよっと」
サトシはアサトについて行くことにした。
「セントウダを連れてきたか。アサト、下がってくれ」
アサトは一礼した後、執務室を出た。サトシはウラトと二人きりになる。
「で、僕になんの用?」
「うむ。余はミコトの話がしたいのだ」
「は? あんたとミコト君は関係ないでしょ」
サトシは苛立ち紛れに答えた。
「いや、ただミコトの話がしたいだけだ。正確に言えば、貴様がどう思っているのかが知りたい」
「だったら、尚のこと関係ないでしょう」
サトシは苛立ちを隠せない。
「そうカリカリするでない。そうだな。貴様は自分の話をしてたな。余が自分の話をせぬというのは、無作法というもの。長くなるが、よろしいか?」
「イハラ様のお話ですか。では、拝聴させていただきます」
サトシは、顔に薄ら笑いを浮かべながら返した。
それを聞いたウラトは、エリと、そして無名経典の話を始めた――。
「とすると、ミドリ製薬にちょっかい出してたのは、全部妹さんの為、てこと?」
ウラトの話を一通り聞いていたサトシは口を出す。
「まぁ、そうだな」
ウラトは否定しなかった。
「へー」
サトシは感心したような素振りを見せる。
「でも、僕とイハラ様じゃ、やってる事がまるっきり違いますよ。イハラ様は愛する人を守る為に人を殺す。だけど、僕は愛する人を殺してしまった」
サトシの話を聞いたウラトは、しばし考え込む。しばしの間を置くと 、口を開いた。
「いや、余でも勢い余って殺す事があるかもしれない。あってはならないことなのは言うまでもないが。
それにしても、以前、貴様の話を聞いた時、他人とは思えなかったぞ」
ウラトはにこやかな顔になる。
「僕なんかにお世辞言ってどうするの」
「お世辞ではないぞ。心の底からそう思ったんだ」
それを聞いたサトシの顔は引きつっていた。
「まさか僕に気があるとか……そういうオチはないよね?」
「傷心のものに漬け込むようなあくどい真似はせんぞ。まぁ、話だけなら聞いてやれんでもないが」
ウラトは不敵に笑う。
「話だけならって……下心のあるやつが言う台詞なんですけど」
サトシは苦笑いした。
***
問題は解決が見えてきたが、それでもカナはサトシが気になって仕方がない。
そういうわけで、カナは度々サトシの様子を見ている。見ていて感じたのは、どうやら最近ウラトとやり取りをすることが多くなった、ということだ。
ウラトと関係を築くことはいい。ただ、ウラトは目的の為なら手段を選ばない闇の支配者だ。カナは一抹の不安を覚えた。
「私は、どうすればいいのかしら……」
研究所に潜入した時は、サトシの――厳密に言えばジェイの――確保、という目的があった。
だが、今回は何も起こっていない。根拠はカナの漠然とした不安感だけだ。これだけでは行動の起こしようがない。オマケに、何だかんだいってカナに良くしてくれた者たちを敵に回すかもしれないのだ。カナの焦燥感は、募るばかりである。
「……もしかして、『無名経典を使え』ということなの?」
座して待てば事態は悪化するかもしれない。どっちにせよ、無名経典を使うことは避けられないのだ。
しかし、使えば使ったで事態は悪化するかもしれない。なにより、エリが無事ですむだろうか。
もっとも、エリの方は覚悟ができているようだが――。
「神様、私はどうすればいいんですか……」
カナは神に祈った。
***
『イハラ様。やっぱりミコト君の事が気になります』
サトシはウラトのスマホにメッセージを送った。最近サトシは、ウラトとのやり取りにスマホを使っている。ウラト曰く、「これでも余は忙しいので、今後はスマホでやり取りをしたい」という申し出があったためだ。
『ミコトをどうしたいんだ?』
しばらくして、ウラトから返事が来る。
『ミコト君をどうしたいというか、いつまでここにいるのかなと思いまして』
サトシは返事を受け、メッセージを返す。
『なんでミコトが余の元にいるのかわかっているのか?』
『わかっています』
サトシは少し間をおいて、メッセージを返した。
『ならば、お前はやるべき事をやるべきであろう。直接手助けはできんが、協力なら惜しまぬ』
『イハラ様。僕のやるべき事とはなんでしょうか?』
『わざわざ尋ねるか。お前がいちばんわかっておろう』
サトシはウラトからのメッセージを確認する。新規のメッセージが来ないことを確認すると、ベッドの上にスマホを置く。
ドンッ!
サトシは壁を殴る。部屋に鈍い音が響いた。
「あのアマ! 僕を鉄砲玉にする気か!
大体何が『危ないから保護してる』だ! 人質にしてるんだろうが!」
何時になく、サトシは苛立っていた。
『サトシ。鉄砲玉ってなんだ』
サトシが喚き散らしてるそのとき、ジェイが話しかける。
「黙れー!!」
サトシはジェイに怒りをぶつけた。
『サトシ。なんでそんなに興奮しているんだ。私まで落ち着かない』
「呑気でいいなお前!」
『こうやってサトシと話したの、初めてだ。いままでは無視されていた』
ジェイは感慨深そうにしている。
このまま、ああだこうだいっても埒が明かない。サトシは気持ちを落ち着かせようと、ひと呼吸置いた。
「この場にいる話し相手が、お前しかいないからね……」
ひと呼吸置いたからか、サトシは幾分か冷静になった。
「ところでさ、お前。僕の意識がない間に、過去のことを話してたらしいじゃない。宿主になってるのに僕だけ知らないっていうの、おかしいんだけど。僕にも話してよ。昔の話」
先程まで、存在そのものを否定したい相手だった。けれど、こうしてやり取りしているうちに、興味が湧いてきた。だから昔の話をせがんだというわけである。
『どこから話せばいいんだ』
「生まれてから、ここに来るようになったとこまで、かな?」
『わかった』
ジェイは自分の過去について、話を始めた――。
「……お前の方が悲惨じゃないか! 虫のくせに!」
サトシはジェイの話に聞き入っていた。目に血が滲んでいる。
『虫ってなんだ』
「お前のことだよ!」
『虫は一般名詞だ。個体名を指すには不適切ではないか』
「いちいちうるさいんだよ、お前は」
ジェイは異を唱えたが、サトシは聞き入れない。
「まあ、いいや。僕はお前に話したいことがあるんだよ」
『なんだ』
「……僕は今からミドリ製薬にカチコミ……乗り込みに行きます」
こういうサトシだったが、話している途中、声が段々とトーンダウンしていった。
『そうか』
「僕は社長を始末します。でも、そうのこのこ姿を見せないでしょう。なので、大勢の人が死ぬことになるかと」
『わかった』
「大勢の人が死ぬ」と聞いても、ジェイの返事は素っ気ないものだった。
「……何か言うことないの?」
『サトシが決めたことだ。異を唱える理由がない』
「多くの人を殺すことになるんだけど……」
『カナはその中に入っているのか』
「なんでここでコフタさんの話を……ああ」
サトシは先程、ジェイがしていた話を思い出した。
「入ってないけど……」
『では、止める理由はない』
「なんなんだ! どいつもこいつも! わかったよ! 行くよ! 行けばいいんだろ!!」
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