血よりも赤い瞳

奈々野圭

文字の大きさ
29 / 40

第29話 再外出②

しおりを挟む
 翌日、智也は純を連れて家を出る。駅までの道中、お互い無言であったが、そんなことを気にしている場合ではない。歩いているうちに、駅に着いた。

 智也は改札を通過した後、足を止める。純を待つためだ。

 程なくして、智也の前にコウモリが飛んできた。この辺りにコウモリはいない。おまけに日も出ている。珍しい光景だが、誰も立ち止まるものはいない。

 コウモリは智也の目の前で、人の姿をとる。正体は、純であった。
 早朝のコウモリよりも珍しい光景だが、やはり誰も立ち止まらなかった。

 成程これが以前に言っていた変身能力か。智也は合点した。

 乗降場に向かい、乗車する。車内でも、純の存在に気をとめているものはいないように見えた。関心がないだけかもしれないが。

 周囲には純がどう見えているのか。それとも見えていないのか。智也は気もそぞろになる。

 会社に着いた智也は、純を入口付近に待たせることにした。職場にまでついてこられると困るからである。
 純は何も言わず、ただそこにつっ立っていた。

 終業時刻が来た。今日も定時で上がる。智也はタイムカードを押し、会社を出る。純は朝いたところに立っていた。

 智也は純の肩を叩く。そのついでに、飲料ゼリーを渡す。純はそれを受け取ると、蓋を開ける。智也が歩き出すと、純もあとをついて行くように歩き出した。ゼリーをすすりながら。

 歩いていくうちに、レストランが見えてきた。美咲はまだ来ていない。智也と純は、店の前に立った。
「おい。美咲が来たら、俺たちはレストランに入る。お前はここで待ってろよ」
 智也は純に言い含める。純は「わかった」と返す。

 しばらくして、美咲がやってきた。

 紺のジャケットに、デニムのスカート。インナーは白のブラウスだ。足元はスニーカーだということもある。

 ジャケットを羽織っているところから、ある程度はフォーマル感を出したいのだろうが、全体としてはカジュアルだ。
 脇に抱えた茶色のボストンバッグが、よりラフ感を出している。

「ごめんなさい。待った?」
 美咲が、はにかみながら尋ねてくる。

「ううん。俺も今来たところだよ」
 智也は笑顔で答えた。

 ボストンバッグを抱えているところを見るに、職場から着替えてきたのだろうか。

 美咲は保育士だ。仕事着のままではカジュアルすぎてしまうのだろう。それに、汚れがあったとしてもおかしくはない。
 ひとえに、レストランでディナーだからだろう。

 理由はどうあれ「わざわざ着替えてくれた」ということが嬉しいと、智也は感じていた。

 美咲は智也の方ばかり見ており、純には目をくれない。この様子を見るに、美咲には、認識阻害が効いているようだ。智也は一安心した。

「えーと、今は何時だ」
 スマホで時刻をチェックする。画面には十七時四十五分と表示されていた。

「よし、入るか」
 智也はレストランに入る。美咲もそれに続くように入室する。純はその場に残った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...