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第一章

いつの間にか親子

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 狼の様な獣になってから3ヶ月。人間のままなら成人できていたはずだったのに。
 川で溺れた俺は、母さんに助けられたらしい。あ、母さんと呼んでいるが血は繋がってないぞ。
 何故か物凄く世話を焼いてくれる母さんは、多分、今の俺と同じ種族なんだろう。毛色は全く違うが、もしかしたら自分の子供と勘違いしてるのかもしれない。
 この3ヶ月、母さんは俺に色々と教えてくれた。狩りの仕方に、森の走り回り方、隠れ方とか、食べちゃ駄目な植物とかも教えてくれた。
 母さんが何を喋っているかは全くわからないが、身振り手振りで教えてくれた。
 毛づくろいとか、狩りとか、生で肉を食べるとか、凄く抵抗があった。
 自分で自分の体を舐めるとかやった事ないし、狩りといったら使えるのは己の身一つ。自分の牙や爪を使って生き物を殺して食べる。最初は全然無理だった。
 でも、母さんは俺に何度でもできるまで教えた。それは何故か?できないとこの森、というか獣の世界で死ぬからだ。いわば、母さんが俺に死んでほしくないという思いからの行動。
 俺はそんな母さんに甘えてしまっていた。気づけば母さんは衰弱死していた。元々寿命が近かったらしい。死ぬ間際でさえ、母さんが、何を言っているか分からなかったが、なんとなく生きろと言われている気がした。
 俺は腹をくくった。種族がいつの間にかかわり、慣れないことしかないが、生きてやろうじゃないか。人間ではなくなっても、例え虫を食うような事になっても生きてやる。
 俺は母さんと血が繋がってないし、本当は種族だって違う。そんな俺を生かせてくれたのは母さんだ。 
 同じく血の繋がらない俺の面倒を見てくれた神父様やシスター達。 
 俺を育ててくれた皆に感謝を込めて、生き残ってやる。
 母さんが死んでから、俺は初めて自分の手で生き物の息の根を止めた。多分これは一生慣れない。
 

 でも、なんとか生きていけそうだよ。母さんありがとう。


 そんな情けない俺が、少しは母さんの息子として立派に生活していけるようになった頃。俺は嵐の中、巣穴で引きこもっていた。洞窟の中に巣穴を作っておいてよかった。嵐でもびくともしない。母さんの教えのお陰だ。ありがとう母さん。
 びちゃ、ズルッ……ベチャッ。
 な、ななな何だ!!?なんか水気のあるものを引きずってる音がする!?そんな生き物居たかこの森にぃ!!?
 そろ~り、と気配を消しながら様子を伺いに出口へ。
 ……人か?
 出口で倒れているのは人間だった。血は流れて無いな。血の匂いがしない。遭難者か?
 そろ~りと、その人間に近づいていく。
 ……なんか唸ってるな。顔色も悪い。このまま放っておいたら体温が下がり続けて死にそうだ。
 どうする?助けても起きた瞬間何をされるかわからない。剣は持ってないみたいだが、この世界には魔法が使える者がいる。……それなら、近接戦に持ち込めば勝てるか。
 今は獣とはいえ、元人間。人を見殺しにするのは良心が痛むし、神父様やシスター達、母さんに誇れる自分で俺は居たい。
 怪我はしてないみたいだし、体温さえ上がればいけるな。
 俺は出口から奥の方へ人間(多分男)を連れて行く。こっちのほうが風が吹き込まなくて温かいからな。そして獣になってから大きくなった体でそいつを包み込む。母さん直伝の毛づくろいでもふもふだぞ俺は。
「…………すぅ…すぅ…」
 そいつはさっきまで寝苦しそうだったのが嘘の様に安心した顔で寝入った。
 ……全く警戒心の欠片もないな。 
 そして俺もいつの間にか寝ていた。何かあれば起きてしまうとはいえ、俺も警戒心がないのは人の事言えないかもしれない。
 そして案の定、起きた時に見たのはびっくりした男の顔だった。
 ……顔がいいなこの男。
 外は快晴。すぐにこの男も出ていくだろう。
「……い゛っ」
 …………足を怪我してるようだな。
 …どうしたものか……。

 拝啓母さんへ
 なんとか生きていますが前途多難な気がします。この男はどうしたらいいと思いますか。
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