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第七章 天竜国編

第29話 祭りの後で

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 真竜祭の後、シロー達は、竜舞台脇の建物内にある貴賓室へ通された。

 天竜達とは別室だ。 
 そこで、豪華なご馳走が振舞われた。
 俺と加藤が以前食べた、メードと言う貝も出てきた。貝殻から、貝柱を切りとり、ナルとメルの皿に置いてやる。

「しこしこして、凄く美味しい」
「じゅわーって、お汁が出てくるね」

 二人は目を輝かせている。メードは、やはり焼きたての方が美味しいから、今度二人をあの店に連れていってやろう。
 料理は大量にあり、俺達だけでは食べきれそうになかった。点収納に入れ、ネアさん達へのお土産にする。
 もちろん、「付与 時間」を使い、点収納内の時間が遅く流れるようにしてある。

 食事の後、加藤、ナル、メル、イオは瞬間移動でイオの家まで送った。
 残った俺、ミミ、ポルは、大会議室に招かれている。
 部屋の中には、十人の天竜と竜人の重鎮が集められている。一段高くなった所に天竜が座り、なぜかその横に俺達が座らされる。
 俺達の前には、四種族別に五、六人ずつの竜人が座っている。

 黒竜族、青竜族の姿もあるが、全て俺が初めて見る顔である。
 黒竜族は、このメンバーだけ俺の点魔法設定をオフにしてある。そうしとかないと彼らは俺達から30m以内に入ると気絶しちゃうからね。

 ジェラードが司会となって始まった会議では、まず、天竜国「光る森」の詳しい現状報告と大まかな役割分担がなされた。
 その後、各分担ごとに別室で細部を打ちあわせることになっている。
 天竜が十人もいるのは、「枯れクズ」の除去に詳しい者、その運搬に詳しい者、水晶灯作成に詳しい者、それぞれの専門家が来ているからだ。

 大会議室から各部屋に移る段になると、ミミとポルの所に、各種族の竜人が殺到した。

「竜王様のご様子をお聞かせください」
「真竜様はどれほどにご成長なされたのか?」

 まあ、とにかくすごい勢いだ。しかも、みんな平伏しているから、ミミとポルは戸惑うばかりだ。
 しかし、なぜか俺の近くには誰も寄ってこない。
 むしろ、こちらに怯えているようにも見える。
 どうなってるんだこれは?
 ラズローがいたのでその疑問をぶつけてみる。

「ああ、天竜様から加護をもらった方までは、彼らも理解できるのですが、竜王様と対等の友人となると、ただ畏怖の念があるだけなのでしょう」

 あー、これってまずいよね。くつろげない方向に事態が進んでるぞ。

『(/・ω・)/ だから~、そこまでしてくつろぐ必要はないのですよー』

 だけどねえ、点ちゃん……まあ、ここは何を言っても突っこまれそうなので黙っておきますがね。

 「会議」と名のつくものが自分の天敵だと確信する史郎だった。

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 次の日、史郎はジェラードから渡された封書を持ち、青竜族の役所を訪れていた。

 封書の中身が何なのかは知らない。ポンポコ商会に関係あるものだから、とにかく持っていけと言うことだった。

 以前もいた門番が、俺の姿を見るなり逃げだした。
 おいおい、それはないだろう。あなたは俺の「臭撃」に遭ってないじゃないか。

 役人が机を並べた大ホールに入っていくと、その場の空気が凍りついた。というより、皆の動きが本当にピタッと止まってしまった。
 水が滴るような音がしたので、そちらを見ると、椅子に座った青竜族の女性が泣きそうな顔をしている。
椅子の下には、広がりつつある液体が……。
 それってひどくない? 俺の姿を見ただけでお漏らしするってどうよ。

「ほう! 
 天竜祭はそのようであったか」

 声高に会話する青竜族の男性が二人、階段を降りてくる。その片方は、俺に臭い攻撃された、例のハゲおじさんだった。

「お前達、一体どうしたのじゃ……」

 そこで俺の姿に気づいたらしい。ハゲおじさんは、まっ青になると階段の下に座りこんでしまった。頭を抱え、「助けてくれ、助けてくれ」とつぶやいている。
 このままでは、らちがあかないから、点で吊りあげ、俺の前まで来てもらう。

「ひ、ひーっ」

 おいおい、そこまで怖がらなくても。

『(・ω・)ノ ご主人様ー』

 何だい、点ちゃん。

『(・ω・) この人も、竜闘に来てたから、それでじゃないの?』

 ああ、「臭撃」だけで怖がってたんじゃなかったのか。しかし、点ちゃん、あれだけの観衆の全てを分析してるなんて本当に凄いな。
 そのとき、入り口から、バタバタと足音がした。振りむくと、昨日の会議で紹介された、新しい青竜族の長だ。彼は、俺の前にさっと平伏した。

「シロー殿、この者どもが、大変な失礼をいたしました。
 ジェラード殿から、今日いらっしゃるとうかがっております。
 どうぞこちらへ」

 貴賓室に通すつもりなのだろう。俺は、その前にくつろぎを邪魔するものを撃破することにした。

「竜王様の名において命ずる」

 重々しい声でそう言い、すこしタメをいれる。もちろん、最大の効果が出るのを狙ってのことだ。

「以後、俺の前で平伏、お漏らしを禁ずる」

 できるだけ重々しく言っておいた。青竜の長が慌てて立ちあがる。俺は、ハゲおじさんを点から解放し、長の後をついていった。
 以前に通されたのとは別の貴賓室に案内される。ソファーに落ちついた俺に、長が話しかける。

「あの男をお許しください。
 彼はこの役所の長官で、シューダという男です。
 シロー殿が最初に訪れた後、なぜか彼だけ体から臭いが取れず、いつも鼻を摘まんでおりました。 
 そのため『鼻つまみ者』というあだ名まで付いてしまったのです」

 俺は、シューダという名前と『鼻つまみ者』というあだ名に、笑いをこらえるのに必死だった。なぜか、肩に乗っている白猫が、俺の頭をぺしぺし肉球で叩いている。

「ところで、ジェラード殿からは、書類をお持ちとうかがっておりますが」

「ああ、これですよ」

 俺が渡した封書を開け、それを読んだ長は、一つ頷いた。

「承りました。
 明日から取りかからせて頂きます」

 何に取りかかるのか聞くべきなのだろうが、役所に来てからのあれこれで、全てが面倒くさくなった俺は、そのままにしておいた。
 俺が長と二人で貴賓室から出てくると、机に着いていた人々が、一斉に逃げだした。
 どういうこと?

「平伏できないとなると、彼らにはああするしかなかったのでしょう」

 ああ……これではくつろぎを取りもどせないではないか。

 史郎は、遠ざかるくつろぎに、暗澹たる気持ちになるのだった。
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