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空知音

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第七章 天竜国編

第35話 「光る森」を救おう

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 史郎達、竜人、天竜がともに行う「光る森」救出作戦は、新しい局面を迎えた。

 1、森のはずれに竜人が生活できるキャンプをつくる。
 2、キャンプ地へ竜人を連れてくる。
 3、竜人を交えて「光る森」を調査する。
 4、「枯れクズ」保管所を整備する。
 5、「枯れクズ」運搬を開始する。
 6、「枯れクズ」加工を研究する。

という計画の内、1から4は、だいたい終了した。

 いよいよ手順5の「枯れクズ」の運搬である。計画の最も重要な部分でもある。
 その前に、まず竜人の調査隊を送りかえさなければならない。
 こちらに来た時と同様、調査隊は箱に入れ、瞬間移動させた。

 一人だけ、「もう一度、竜王様に……」と駄々をこねて箱に入らなかったジェラードは、点を付け、彼の家までそのまま瞬間移動させた。
 彼の場合、本当の目的は、竜王様ではないからね。

 調査隊帰国から一週間、今度は除去にたずさわる百名の竜人を天竜国に招きいれる。
 竜舞台に大型の箱を設置し、一度に二十名ずつ輸送した。要領が分かっているラズローとジェラードが向こうにいるので、瞬間移動は滞りなく行われた。

 前回調査に訪れた竜人十人のうち八人は、もう一度こちらに来ている。これは、「枯れクズ」除去中に起こるだろう様々な問題に対処するためだ。
 ジェラードによると、この八人は、竜人国が誇る「最高の知性」なのだそうだ。

 天竜国に着いた百人が、俺に異常なまでの尊敬を示したのには困った。俺の姿が見えると、100mほど先からでも平伏しているのだ。
 無理やり話を聞きだすと、ジェラードから「竜王様の友人に逆らうと、大蛇のエサにされる」と言われたらしい。
 くー、やってくれるぜ、白竜の若様。
 俺の弱点である「くつろぎ」を突いてくるとは。

『(・ω・) ご主人様が下らないイタズラなんかするから、そうなるんですよ』

 うう、点ちゃん、それはその通りなんだけどね……。

 「枯れクズ」除去の仕事が軌道に乗るまではくつろげない事を思い、計画のスピードを上げようと頭を絞る史郎だった。

 ◇

 史郎は、竜人キャンプ近く、「光る森」にいた。

 森の中はとても暖かい。
 天竜の長によると、森が温めた空気が天竜国の温暖な気候をもたらしているそうだ。空の上にあるのに暖かい気候が不思議だったが、それで納得できた。
 しかし、そうなると、ますます「光る森」は大事だ。

 俺の目の前では、多くの竜人が「枯れクズ」をしょいこの様なものに載せている。ある程度の量が積まれると、竜人がこれを背負い、キャンプ横にある倉庫まで運ぶ。
 倉庫がいっぱいになると、俺が点収納で空にする予定だ。

 しかし、このやり方には問題が二つあった。
  一つは「枯れクズ」回収現場がキャンプから遠ざかれば、ぐっと効率が落ちる事。  
 もう一つは、俺がこの地を離れてしまえば、「枯れクズ」の収納が出来ない事だ。

 俺は、まず一つ目の問題に対処することにした。
 畳くらいの大きさのボードを2枚作る。点魔法で作った厚さ1cmほどの板である。ボードはいつものように地面から10cmくらいのところに浮くようにできている。
 学校にある鉄棒のような形をした持ち手を点魔法で作り、「付与 融合」で片方のボードに付ける。そして、持ち手が付いた方のボードが動くと、その2mほど後ろをもう一つのボードが追いかけるよう設定した。

 持ち手が付いたボードに「枯れクズ」を載せ、進行方向に押してみる。
 「付与 重力」を施したボードは力を入れなくても滑らかに動いた。もう一枚のボードもスーッと後を着いてくる。

 問題はボードを止める時だ。操作するのが俺なら点魔法で簡単に止められるが、竜人が扱うときにはそうはいかない。
 かなりの重量が動いているわけだから、押している者が止まってもボードは慣性で動きつづけようとする。

 ちょっと考え、持ち手の下に、ボタンを付けてみた。このボタンに触れると、進行方向とは逆方向にゆっくり重力が働く。
 急停止は難しいが、ボードをゆっくり停めるくらいなら十分だ。後ろのボードにも「枯れクズ」を載せ試してみる。
 上手く動く様だ。
 俺は、竜人を集めボードの操作方法を説明した。ちなみに、平伏は禁止してある。
 みんなガチガチになって話を聞いていたが、一人の竜人が、「枯れクズ」を積んだ「トレイン」をスーッと動かすと、歓声が上がった。

 ああ、「トレイン」とは、俺がこのボードシステムに付けた名前だ。
 竜人達は、我先にトレインを試している。試したものは一様に歓声を上げている。枯れクズを背負って歩くのは、かなりきつかったようだ。
 彼らが、この二連のトレインに慣れたら、三連、四連と後ろに引くボードを増やしていく予定だ。

 人数分の2連トレインが一瞬で現れると、竜人達が呆れていた。一度作ったものは、すぐにコピーできるのが点魔法の特徴だからね。

 史郎は、一人用のボードを出すと、それに乗りキャンプ地の倉庫に向かった。
 
 ◇

 キャンプ地の倉庫は、高さが二階建ての家程度だが、広さが体育館くらいある。


 土魔術で作ったもので、中には十本の柱が二列に並んでいる。
 この柱で、貯蔵されている「枯れクズ」の量が分かるようになっている。奥から順に「枯れクズ」を収めていく仕組みだ。
 これまでは、背負子で運んでいたので、「枯れクズ」の山は一番奥の柱にも届いていなかった。

 俺が、点収納のアイデアをひねっていると、さっきまで森にいた竜人がトレインを引いて次々と帰ってきた。
 あっという間に、一番奥の区画がいっぱいになる。背負子に比べると、けた違いの効率だ。みんな、俺に気軽に挨拶していく。トレインシステムの効果が別の所にも現れたようだ。

 倉庫に施す点収納の考えが煮詰まったので、久しぶりにルルが作ってくれたランチを取りだす。「付与 時間」で、入れたてのお茶も用意し、ランチを味わう。
 懐かしい味に心が温かくなる。ここのところ、ルルは子竜にかかりっきりだったからね。最後に、俺が昔ダートンの街でお土産に買った草木染の布でランチボックスを包みなおした。

「あっ!」

 その瞬間、倉庫に施す点収納のアイデアが閃く。それは次のようなものだった。
 時間付与を施した、大きなシートを倉庫の地面に重ねる。点魔法のシートは、厚さが無いから、いくらでも重ねることが出来る。
 一定時間おきに、シートは点の上に有るものを収納する形で点に戻る。これなら、俺がいなくても、収納が続けられる。

 俺はすぐに倉庫から外に出て、地面にハンカチくらいの広さのシートを重ねて、その上に小石を置いてみた。
 今回は、点に戻るまでを1分程度に設定してある。

 キュン

 お、小石が消えた。

 もう一度同じ場所に別の小石を置く。

 キュン

 おおっ! また消えた。成功だね。
 もしかして、「付与 時間」って、凄いんじゃない?

『(+ω+) やれやれ、今頃気づいたのですかー』

 点ちゃんの呆れ声がする。でも、これは仕方ないよね。

 とりあえず「枯れクズ」除去の目処が立ち、ホッとする史郎だった。
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