285 / 607
第七章 天竜国編
第38話 子猫の名前
しおりを挟む俺は、竜人国から天竜国に帰ってきた後は、「光る森」の仕事や真竜廟「宝の湯」のメンテナンスに時間をかけていた。
先日、竜人国の隠しポータルを開放した後、俺は獣人世界グレイルへのポータルを渡っている。出た場所は、「時の島」南部、元猿人族領にある山岳地帯だった。
そして、それだけ確認すると、すぐに再びポータルを潜り、竜人国のポータル部屋に戻った。
そのため、点魔法で作ったものが、きちんと動いているかどうか確認する作業が必要なのだ。
結果は、「付与 時間」を施したトレインシステムや倉庫のシートは問題なく動いた。試しに作っておいた、「付与 時間」が付いていないトレインは消えていた。
現場にいた竜人に尋ねると、少し動かしたとたん消えたそうだ。
点魔法については、まだ分からないことも多いが、ポータルとの関係に限れば、少しずつ分かってきた。
◇
俺は、そろそろこの世界から立ちさるべき時だと考えていた。
子竜の母親役をしているルル、コルナ、コリーダは、すぐには帰れないだろうが、俺には聖樹様からの招待がある。
竜王様とリーヴァスさんに後を任せ、一度エルファリアを訪れなければならない。俺のために竜人国に来てくれた加藤も、一旦マスケドニアに帰した方がいいだろう。
そのためには、天竜国での仕事が順調に進む必要がある。
だから、俺には珍しく、くつろぎの時間を削ってまで働いている。
『(・ω・)つ それくらい普通ですよ』
イタタタッ。点ちゃん、それはないよ。
ポルとミミに「宝の湯」のメンテナンス方法も教えたし、真竜廟滞在中の仲間が食事と飲み物に困らないよう、時限付きの「箱」も用意してある。
これには、「付与 時間」で腐らないようにした食べ物や飲み物が入れてあり、一定時間が過ぎると、箱が開くようになっている。つまり、箱自体にも「付与 時間」を施してある。
箱が開くタイミングは、六日ごとにずらしてあるから、俺がいなくても当面食料に困ることはないだろう。
試しに箱を一つ開いてみると、ミミとポルがすごく喜んだ。なぜなら、中には普段食べられないような高級食材がぎっしり詰まっていたからだ。
お菓子類も様々な種類が入れてある。リーヴァスさん用に、お酒「フェアリスの涙」も入れている。飽きがこないように、箱ごとに中身の種類を変えてある。
子竜達の食べ物は、竜王様が魔術で取りだしているから心配はない。
全ての準備が整ったところで、パーティメンバーのみんなに集まってもらった。かつて「ゆりかご」が置いてあった部屋だ。今は、俺達と子竜の居室、そして宝物置き場となっている。
点魔法で全員分の椅子を出し、テーブルを置いた。
「お兄ちゃん、今度は何を企んでるの?」
コルナは、俺が厄介事を招きいれるのを警戒しているようだ。
「心配しないで。
ちょっと俺だけ出掛けてこようと思うんだ」
「シロー、どこにですか?」
ルルは、少し不安そうだ。
「ああ、この部屋にいらっしゃった神樹様から言伝(ことづて)を頂いていてね。
聖樹様からのご招待なんだ」
「まあ!
それなら早くお応えしないと」
ルルは納得してくれたようだ。
「子竜たちのためにも、母親役の三人はあとしばらくは、ここを動けないだろう?」
ルル、コルナ、コリーダがすぐに頷く。
「そうなると、私もここで待機ですかな」
「ええ、リーヴァスさん、みんなをお願いできますか?」
「任せてください。
聖樹様のお言葉は大切にしませんと」
「パーパ、どこか行くの?」
ナルが心配そうだ。
「ああ、少しの間留守にするよ。
竜王様にいろいろ教えてもらってね。
パーパが帰ってきたら、それを見せてほしいんだ」
「うん、いっぱい習ってパーパに見せる!」
「見せるー、でもお土産もー」
「ああ、メル、お土産は、沢山持って帰るからね」
「わーい!」
「あと、この二匹の猫だけど……」
俺は、自分の肩に乗った白猫とルルの膝で丸まっている黒猫を指さした。
「こいつらの名前なんだが……」
ミミとポルが、なぜか慌てる。
「リーダー!
早まらないで!」
「シローさん、待ってください!」
なんで二人が必死になっているのか分からない。
「二人は、お兄ちゃんのネーミングセンスを恐れているのよ」
コルナがしなくていい解説をしてくれる。
「二匹の名前だが、「イヤー! やめてー!」……にしようと思う」
おい、俺の声、ミミの悲鳴で聞こえてないんじゃないか?
なんで、コリーダと子供たちを除いて耳をふさいでるんだ?
「素敵な名前ね。
なんでみんなが嫌がっているのか分からないわ」
コリーダが不思議そうだ。
まあ、彼女の前で名前をつけたの初めてだから。
「コ、コリーダさん、リーダーが付けた名前って?」
ミミが、自分の三角耳を手で押さえる準備をして尋ねる。
「白い方がブラン、黒い方がノワールだけど」
「「「えっ!」」」
ミミやポルが大きく目を見開いている。
なんでそこまで驚くの!?
『(・ω・)つ ご主人様だからでしょ』
ひどいな、点ちゃん。
「シ、シローさん、大丈夫ですか?
熱でもあるんでは?」
ポルが俺の顔を覗きこむ。
「俺、そこまでネーミングセンス無いかな?」
「「ナイナイ」」
『(ーωー)ノミノ ナイナイ』
声を揃えなくてよろしい!
こうして、史郎出発の前日は、穏やかに(?)過ぎていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる