ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第七章 天竜国編

第39話 キスと子猫

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 史郎が真竜廟を出発する朝、ルル、コルナ、コリーダが彼の所に来た。

「シロー、あの部屋でお話できますか?」

 ルルが「ゆりかご」があった部屋を指さす。

「それは、いいけど……」

 俺が何のためにと尋ねる前に、コルナが俺の手を取り、部屋に入っていく。なぜか部屋には誰もいなかった。
 いつになく片づいており、天竜族からもらった光る花も飾ってある。

「この辺でいいわね」

 コルナがやっと俺の手を放してくれる。
 彼女は、俺の目を見つめる。

「お兄ちゃん……。
 絶対無事に帰って来てね」

「分かってるよ、コルナ」

 コルナが飛びついてくる。いつもやっているハグかと思って抱きしめると、頬っぺたに温かいものが触れる。

「えへへ、初めてキスしちゃった」

 彼女はそう言うと、ふさふさしっぽをブンブン振りながら部屋から出ていった。
 呆然としていると、コリーダが入ってくる。

「シロー、あなたに言いたいことがあるの」

「あ、ああ、何だい?」

 俺は気を取りなおし、彼女の言葉に耳を傾けた。

「エルファリアにいたとき、私は生きてるってどんなことかよく分からなかったの」

 彼女の美しい瞳が涙で濡れている。

「でも、あなたと一緒にいろんなことを体験して、今は本当に生きてるって実感できるの」

 俺は、それが聞けて、とても嬉しかった。

「ありがとう」

 コリーダはそう言うと、俺の体に長い腕を巻きつけた。頬に彼女の唇が触れる。

「待ってるわ」

 俺はそう言いのこして去っていく彼女の背中を、ただ眺めていた。
 その視線を受けとめるように、ルルが部屋に入ってきた。

「ルル……」

「シロー、いつも私達を守ってくれてありがとう」

「当たり前だよ。
 家族なんだから」

「それでも……、いつも感謝しています」

「ルル、俺も君に、いつもありがとうって思ってるよ」

「だから、絶対無事に帰ってきてください」

「ああ、必ず帰ってくる」

「神樹様から頂いた、未来予知にかかわる加護のせいか、あなたの旅が困難なものになるような予感がするんです」

 俺はぎくっとした。なぜなら、同じ加護を持つ俺も、似た予感を抱いていたからだ。

「どんな時でも、絶対に無理はしないで。
 みんなが、あなたを待っています」

 俺は胸が熱くなった。

「君は俺に初めてできた本当の家族なんだ。
 必ず帰ってくるよ」

 俺たちは自然に抱きあった。ルルの唇は初めてキスをしたときと同じ香草茶の香りがした。


 ◇

 パーティメンバーの皆が手を振る前で、俺は竜人国に瞬間移動した。

 着いたのは、イオの家だ。すでに念話で連絡してあったから、ネアさん、加藤、イオ、エンデが待っていた。

「うわっ! 
 猫ちゃん、久しぶりー」

 イオが白い子猫に飛びついている。

「その子猫はブランっていう名前なんだよ」

「へへ、ブランはいい子だねー」

 白猫はイオに抱かれて目を細めている。

「ボー、その子猫ちゃんも一緒に行くのか?」

「ああ、この子が俺の側から離れないから、そうなったんだ」

「どっかで見たことがあるような気がするんだが……」

 加藤は、スライムが擬態しているコロスケという白猫を見たことがあるからね。

「気のせいだろう。
 それより、準備はできてるのか?」

「ああ、ばっちりだ」

 俺は、不安そうなエンデに話しかける。

「念話で伝えたように、今回は、俺達二人だけでアリストに行きます。
 用事を済ませたら、必ずここに迎えにきますから、それまでポンポコ商会のことよろしくお願いします」

「はい、待っています」

 エンデの視線は、加藤から離れない。

「ついでといっては何ですが、パンゲア世界でのあなたの滞在先も確保してくるつもりです」

「えっ! 
 そんなことまでしてもらっていいんですか?」

「あなたとは、これからも長い付きあいになりそうだから、気にしないでください」

「では、お言葉に甘えます」

 エンデが加藤に寄りそう。

「カトー……待っていて。
 必ず会いに行くから。」

「分かったよ。
 君も気をつけるんだよ」

 あれ? これっていつの間にか親密な関係になってないか? 
 やれやれ、加藤はこれだからなあ。

『(+ω+)つ あなたがそれを言いますか』

 ひーっ! 
 「ご主人様」から「あなた」に降格されちゃったよ。
 点ちゃん、どこがいけなかったの?

『(・ω・)つ 全てです』

 ガガーン! 
 俺、立ちなおれるんだろうか。

「お兄ちゃん、気をつけてね」

 イオちゃんの純真さが心に染みるな~。

「ああ、また竜王様に会いに行こうね」

「うん、ナルちゃんとメルちゃんにも会いたいなー」

「待っていてね」

「待ってるー」

「シローさん。
 何の関係もない私とイオに、こんなに良くしていただいて、なんとお礼を言っていいか。
 ポンポコ商会は、他の方にお任せしたほうが……」

「ネアさん。
 私の世界には『縁』という言葉があります。
 人と人とは、不思議な関係で結ばれている、そういう意味です。
 私達は、縁があったんですよ。
 ネアさん以外の人に商会を任せる気はありません」

「ありがとう……」

 ネアさんは、涙をホロホロこぼしている。イオがその背中を撫でていた。

「それから……リーヴァス様は、どうされていますか?」

 やっと涙が止まったネアさんが真剣な表情で尋ねる。

「お元気ですよ。
 竜王様のお世話をしている仲間の総責任者として活躍されています」

「そうですか……」

 ネアさんは、少し寂しそうだ。
 あー、これはあれだね。天竜国に行くときは、連れていってあげよう。
 俺は、イチャイチャが激しくなってきた加藤をエンデからひっぺがした。

「では、後の事、よろしくお願いします。
 なるべく早く帰ってきますから」

 手を振るネアさん、イオ、エンデに、手を振りかえすと、加藤の首根っこをつかまえて瞬間移動した。
 着いたのは、まっ暗な部屋だった。加藤が慌てだす。

「なんだ、何がどうなった?」

「落ちつけ、加藤」

 俺は懐から「枯れクズ」の欠片、つまり水晶灯を取りだした。その光に照らされ、部屋の壁にある二つの枠が浮かびあがる。

「あー、びっくりした。
 いきなりポータルに突入したのかと思ったぜ」

 そんなことをするのはお前だけだよ、加藤。

「じゃ、用意はいいな」

 俺が確認する。

「用意って言っても、心の用意だけだけどな」

 加藤の能天気な言葉が部屋に響いた。

 左手で白猫を抱いた俺は、右手で加藤と肩を組むと、「グレイル」と表記されたポータルに足を踏みいれた。
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