ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第七章 天竜国編

第40話 初めの四人再び1

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 加藤と俺、そして白い子猫は、竜人国のポータルから獣人世界グレイルのポータルへと出てきた。

 出てきた場所は、石造りの部屋だ。ここにも灯りは無いから、水晶灯が役にたった。部屋は狭く、冷え冷えとしており、あまり長居したい場所ではない。
 ドアの無い入り口から外にでると、これも石造りの通路が折れ曲がりながら続いている。
 一度来たことがある俺は平気だが、加藤は曲がり角が来るたびに警戒している。

「おい、なんでそんなことやってるんだ?」

「だって、なんか幽霊とか出そうじゃないか?」

 それは、お化け屋敷だろう。だいたい、幽霊を怖がる勇者ってどうよ。

「お、外だ!」

 外からの光が見えたので、加藤が走りだす。相変わらずだな、こいつは。

「あわわわわ」

 いや、アニメでは見たことあるけど、落ちそうになって手をぐるぐる回す人、初めて見たよ。
 通路からの出口は、絶壁の中ほどに開いていた。下を覗くと、かなり遠くに白い筋が見える。崖の下に川が流れているのだ。

「おいっ! 
 崖があるって何で言わなかったんだよ」

 お前が勝手に走っていったからだろう。
 俺は加藤の質問には取りあわず、点収納から二人用のボードを出した。
 崖際の壁には石の柱があり、そこに丈夫そうなロープが巻きつけてあるから、四竜社の竜人はこれを使っているのだろう。
 加藤をボードの後ろに乗せ、崖から飛びだす。

「うわっ! 
 怖っ!」
 
 慣れていないと怖いかもね。ボードを上昇させ、崖の上に出る。そこは、見渡す限り青い山脈が続いていた。
 ボードから点ちゃん1号に乗りかえる。

「あー、くつろぐわ~」

 加藤はさっそく手足を投げだし、ソファーに座っている。
 せっかくだから二人分の香草茶を入れる。
 子猫ブランには、竜人国で手に入れたミルクを出す。これは鹿のような魔獣ジジから採った鹿乳だ。
 子猫は、目を細めて鹿乳をなめている。

 俺達が香草茶を楽しんでいる間にも、点ちゃん1号は、ケーナイに近づいている。一時間ほどで、大陸を縦断し、ケーナイの上空まで来た。

 そういえば、各ポータルの入り口付近に点を設置しておけば、こういった移動の手間は省けるのか。まあ、瞬間移動ばかりでは味気ないけどね。やっぱり旅はその過程が大事だよ。

 ケーナイ郊外には聖女舞子の家がある。俺は1号をその庭に着陸させた。
 この世界に着いてすぐに念話しておいたので、舞子は屋敷の外で待っていた。彼女の斜め後ろにはピエロッティが控えている。

「史郎君、お帰り! 
 無事でよかった。
 皆には会えたんだね」

「ああ。
 それより、君が用意してくれた治癒の魔石でコルナが命拾いしたよ。
 本当にありがとう」

「えっ! 
 コルナちゃんが怪我でもしたの?」

「蜂に刺されたんだよ」

 俺は、点収納から蜂の針を取りだした。

「きゃっ! 
 なにそれ?」

「これがコルナに刺さっていた蜂の針」

「えーっ! 
 凄く大きい蜂だったんだね」

「ああ、これくらいはあったぞ」

 俺が右手の握りこぶしを見せる。

「痛かったろうね。
 魔石が効いたんならよかったけど」

「コルナはね、蜂からナルとメルを守ろうとしたそうだよ」

「ふーん……」

「舞子ちゃん、それよりボーから今回の旅の事聞いてる?」

 加藤が、口をはさむ。

「まだ詳しくは聞いてないよ」

「聖樹様ってのに会いに、エルフが住んでる世界に行くそうだよ」

「えっ!? 
 私も?」

「そうだろ、ボー」

「ああ、聖樹様からのお言葉は、俺達四人でということだった」

「聖樹様って、どんな人?」

「前に話さなかったっけ。
 とても大きな木だね」

「なんだ、女の人じゃなかったの」

「舞子、俺と加藤を一緒にしないでくれよ」

「おい、そこでなんで俺の名前が出る」

 俺達が、ワイワイやっていると、門から馬車が入ってくるのが見えた。
 客車から、ポルの母親とミミの両親が出てくる。ケーナイのギルドマスター、アンデがひらりと御者台から飛びおりる。
 舞子が四人を歓迎した。

「ようこそいらっしゃいました」

 四人は、舞子の前に膝をつく。

「聖女様、お招き頂き、恐悦至極です」

 アンデの言葉を合図に、四人が一斉に頭を下げる。
 舞子は四人を立たせると、屋敷の中に招きいれた。

 加藤と、白猫を肩に乗せた俺も、その後に続いた。

 ◇

「シロー、無事でよかったぜ」

「アンデ、ギルドがポンポコリンの助力をしてくれたそうだね。
 どうもありがとう」

「いや、みんな喜んで手伝ってくれたよ。
 なんせ、今やパーティ・ポンポコリンは、みんなの目標だからな」

「ほんと、感謝してる。
 今回はギルドには寄れないが、みんなによろしくな」

「ああ、いつでもいいから来てくれよ」

 お茶をはさんで俺とアンデが話していると、うずうずしていたポルのお母さんが話しかけてくる。

「ポルナレフは……息子は無事ですか? 
 病気になったりしてませんか? 
 みなさんのお役に立てていますか?」

「相変わらずの大活躍ですよ。
 真竜廟というダンジョンがあって、そこを攻略することになったのですが……」

 俺が、向こうでのポルとミミの活躍を話しだすと、ミミの両親もおれの側に来て熱心に聞いている。
 第三層でミミが大蛇に襲われたところでは、ミミの両親が悲鳴を上げたが、ポルがそのミミを救ったと分かると歓声が上がる。
 こうして俺は、ポルのお母さんとミミの両親に二人の活躍を伝えることが出来た。

 竜王様のお世話に係わっていることについては、ポル、ミミ、二人の安全にも係わるから絶対に口外しないよう念を押しておく。

 真竜廟の攻略に参加しなかった加藤も食いいるように俺の話を聞いていた。

 ◇

 次の日、俺は、さっそくアリストへ向け旅立った。

 グレイルに残して来た舞子は、ピエロッティとともに狐人領へ瞬間移動させてある。聖樹様がいるエルファリアへのポータルは、狐人領にあるから、そこで落ちあう手筈になっている。
 加藤は、どうしてもミツさんに会いたいというのでアリストへ同行する。
 ケーナイのポータルから、アリストの鉱山都市にあるポータルへと渡る。

 ポータルを出たところで、いつもの少年と挨拶すると、すぐに王城に瞬間移動した。
 本当はギルドにも寄りたいのだが、今回は時間が無いから諦める。
 念話で、ミツさんが軍師ショーカの屋敷にいることを確認したので、加藤はそこに瞬間移動させておいた。

 王城の貴賓室に跳ぶと、すでにお茶が用意されていた。
 それを飲んでいると、畑山さんが部屋に入ってくる。
 いつもの女王としての正装ではなく、冒険者風の服を着ている。

「ボー、お帰り」

「あれ? 
 その服装でいいの? 
 そういえば、セーラー服はどうしたの?」

 彼女は日本から転移したとき、学生服を着ていたからね。

「ああ、あれは錬金術の連中が研究させてくれって持ってっちゃった」

「そうか。
 そうそう、治癒の魔石、ありがとう。
 あれで仲間が命拾いしたよ」

「そう、役に立ったならよかったわ。
 ところで、加藤はどうしたの?」

「ああ、ちょっとマスケドニアに行ってる」

 畑山さんは、それだけで全て察したようだ。

「あいつ! 
 今に見てなさいよ」

 加藤の身に危機が迫るが、俺にはどうしようもない。

「しかし、よくレダーマンが今回の旅行を許してくれたね」

「ああ、最初は猛反対してたのよ。
 でもギルドの長だっけ、ミランダっていう人からの手紙を見た途端、豹変したのよ。 
 何が書いてあったのかしら」

 きっとその手紙でミランダさんは、聖樹様のことに触れていたのだろう。
 だいたいポータルズ世界の全ギルドを敵に回すような馬鹿な真似はできないしね。
 ノックの音がすると、そのレダーマン騎士長とハートン筆頭宮廷魔術師が入ってきた。

「シロー殿、くれぐれも我らの女王様をお願いします」
「なにがあっても、無事にお戻りください」

「ええ、任せておいてください」

 ここは、こう言うしかないだろう。

「ところで、勇者様は?」

 レダーマンがキョロキョロ見まわしている。

「ああ、もうそろそろいいかな」

 俺は点魔法を発動し、加藤を瞬間移動させた。

「あっ! なにっ!? 
 どういうこと?」

 加藤はなぜか上半身裸で、唇の周りや首筋が赤くなっている。
 俺は怖くなり、すぐに部屋から外へ出た。
 部屋の中から音が全く聞こえないのは、王城の普請がいいのか、もしかすると、防音の魔術が掛けられているからかもしれない。
 一分もせずに、レダーマンとハートンが出てくる。
 二人とも青くなり、脂汗を流している。

「シロー殿、一人だけ先に……。
 ずるいですぞ」

 ハートンが恨めしそうにこちらを見る。

「まあ、二人とも無事でよかったですね」

 それから三十分ほどして、ドアがぎいーっと開くと、つやつやした顔の畑山が出てきた。

「ボー、急ぐんでしょ。
 そろそろ行きましょうか」

 女王様は、ご機嫌の様子だ。

「ああ、分かった」

 俺は、ドアを開けて中に入る。
 部屋の中は、椅子やテーブルが倒れており、花瓶も割れている。そして、部屋の中央に加藤が大の字に横たわっていた。
 久しぶりに見たな、「大の字」

「おい、加藤。
 大丈夫か」

「ボ、ボー……お前なんてことしてくれるんだよ」

「お前がよく人の話を聞かないからだぞ。 
 俺は、一時間したら瞬間移動させるって言ってただろうが」

「いや、点魔法で俺の事を見ていれば……。
 いや、いい。
 俺が悪かった」

「お前、ひどいことになってるな」

 加藤は、髪の毛がぼさぼさで、口の周りがさっきより赤くなっており、首と胸にも赤くなった痕が沢山ついていた。

「俺、生きていく自信が無くなったよ」

 俺は吹きだしそうになるのをぐっとこらえて、こう言った。

「勇者はいつも毅然としてろよ。
『男はつらいよ』って言葉があるだろう」

「……他人事だと思って面白がってないだろうな?」

「そんなわけないだろう」

 念話を繋いでたら俺の「ぎくっ」っていうのが聞かれてたな。

「とにかく服を整えろ」

 点収納から、替えの服とズボンを出してやる。俺のだから加藤には少し小さいが、この際そんなことは言ってられない。
 加藤が着がえたので、二人して廊下に出る。そこには、窓から外を見ていて背中しか見えない畑山さんと、レダーマン、ハートンがいた。
 レダーマンが俺の耳に口を寄せる。

「あんなにご機嫌な陛下は、見たことがありません。
 一体何があったのでしょう」

 俺に聞くなよ、俺に。
 気を取りなおし、畑山さんと加藤に声を掛ける。

「じゃ、行くよ」

「ああ、いいぞ」
「ふふふ、どうぞ」

 次の瞬間、俺たち三人は、鉱山都市のポータル前にいた。

 いつもの少年はいないが、許可を出すべき女王様自身が一緒だから、ここはかまわないだろう。

 俺、加藤、畑山さんの三人は、ポータルを潜った。
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