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第八章 地球訪問編
第1話 四人の帰郷
しおりを挟むポータルズ。
そう呼ばれている世界群。
ここでは各世界がポータルと呼ばれる門で繋がっている。
ゲートとも呼ばれるこの門は、通過したものを異世界へと運ぶ。
この門には、様々な種類がある。
最も多いのが、特定の世界へ飛ぶもの。
このタイプは、向こうに行った後、こちらに帰ってこられる利便性から、商業活動や外交をはじめ、一般市民の行き来にも使われる。
国は通行料を徴収することで、門の管理に充てている。
他に一方通行のポータルも存在する。
このタイプは、前述のものより利便性が劣る。僻地や山奥に存在し、きちんと管理されていない門も多い。
非合法活動する輩、盗賊や無許可奴隷商人の移動手段ともなっている。
また、まれに存在するのが、ランダムポータルと呼ばれる門である。
ある日、突然町の広場に現れることもあるし、人っ子一人いない森の奥に現れることもある。そして、長くとも1週間の後には、跡形もなく消えてしまう。
この門がどこに通じているかは、まさに神のみぞ知る。なぜなら、ランダムポータルは、ほとんどの場合、行く先が決まっていないだけでなく一方通行であるからだ。
子供が興味半分に入ることもあるが、その場合、まず帰ってくることはない。
多くの世界で、このケースは神隠しとして扱われている。
◇
ある少年がポータルを渡り、別の世界に降りたった。
少年の名は、坊野史郎(ぼうのしろう)という。
日本の片田舎に住んでいた彼は、ランダムポータルにより、異世界へと飛ばされた。
そこには、地球の中世を彷彿とさせる社会があった。
違うのは、魔術と魔獣が存在していたことである。
特別な転移を経験した者には、並外れた力が宿る。
現地では、それを覚醒と呼んでいた。
転移した四人のうち、他の三人は、それぞれ勇者、聖騎士、聖女というレア職に覚醒した。しかし、史郎だけは、魔術師という一般的な職についた。
レベルも1であったが、なにより使える魔法が「点魔法」しかなかった。この魔法は、視界に小さな点が見えるだけというもので、このことで、彼は城にいられなくなってしまう。
その後、個性的な人々との出会い、命懸けの経験、そういったものを通して、彼は少しずつ成長していった。
初め役に立たないと思っていた点魔法も、その「人格」ともいえる「点ちゃん」と出会い、少しずつ使い方が分かってきた。
それは、無限の可能性を秘めた魔法だった。
史郎はこの魔法を使い、己の欲望のまま国を戦争に追いやろうとした、国王一味を壊滅させた。
安心したのもつかの間、幼馴染でもある聖女が、一味の生き残りにさらわれ、ポータルに落とされてしまう。
聖女の行先は、獣人世界だった。
後を追いかけ、獣人世界へと渡った少年は、そこで新しい仲間と出会い、その協力で聖女を救いだすことに成功する。
しかし、その過程で、多くの獣人たちがさらわれて学園都市世界へ送られていることに気づく。
友人である勇者を追い、少年は学園都市世界へ行く。そして、勇者と力を合わせ、捕らわれていた獣人達を開放した。
ところが、秘密施設で一人の少女を見つけたことから事態は新たな展開を見せる。
その少女は、エルフの姫君だった。彼女からエルフの世界への護衛を頼まれ、少年と彼の家族はポータルを渡る。
エルフの世界で、彼らはエルフ、ダークエルフ、フェアリスに係わる多くの謎を解き、3種族の争いに終止符を打つ。
エルフ王からもらった恩賞の中には竜人世界に由縁のある宝玉が含まれていた。
そして、この貴重な宝玉を奪おうとした者が少年の仲間をさらう。仲間を救出したまではよかったが、少年はその際に宝玉が開いたポータルに巻きこまれてしまう。
ポータルによって送られた先は竜人が住む世界ドラゴニアだった。その世界を支配する暴君一味に打ち勝った少年は、後から合流した仲間と共にドラゴニアの空に浮かぶ大陸、天竜国へと向かう。
天竜国は、竜が住む世界だった。天竜と真竜を苦境から助けた少年は、聖樹の招きで再びエルファリアを訪れる。聖樹が少年に与えた能力は、世界間を渡る力という途方もないものだった。
かつて、地球から異世界に飛ばされた少年とその仲間は、この力を使い、再び地球に戻るのだった。
これは、そこから始まる物語だ。
◇
エルファリアの聖樹様に世界間移動の力をもらった史郎は、舞子、畑山、加藤の三人と共に、地球に降りたった。
「うわ、ちょっと乗り物酔いみたいになるわね」
まだ異世界転移に慣れてない畑山さんは、すこし辛そうだ。
確かに、普通のポータルにくらべ、今回使ったセルフポータルは、浮遊感が強い気がする。
ああ、セルフポータルというのは、世界間を移動する能力に付けた名前だ。
え? 俺が付けたのかって? いや、舞子が付けてくれた。彼女は、語学系教科が得意だからね。
『(*'▽')つ ご主人様は、ネーミングセンスが全くないですからねえ』
えー、点ちゃん。わざわざ傷口をえぐらなくてよろしい。
しかし、どこにいても点ちゃんの軽口は変わらないなあ。
「史郎君、寒くない?」
舞子が心配してくれる。
エルファリアを発ったのは昼間だったけれど、地球は夜だった。気温から考えて、冬か春先だろう。思ったほど寒くないのは、温かい子猫を抱いているからかもしれない。
「おい、ボー、寒いよ。
何とかしてくれ」
加藤が悲鳴を上げている。ここは建物の屋上だから、吹きさらしだってのもあるけど。
だけど、勇者が寒さに弱いってどうよ。まあ、明日朝まではここを動かないからいいか。
俺は点ちゃん1号を出し、皆をくつろぎ空間に招きいれた。
飛行機のような形をした点ちゃん1号の中は、俺好みにいろいろ手が加えてある。
お風呂もあるし、ふかふかソファーもある。
何より自立型ハンモックに特殊な苔を敷きつめた「コケット」は俺の自慢だ。
全員がソファーに沈みこむ。
「ふぁ~、生きかえるなあ」
「加藤、だらしないわよ」
「史郎君。
お茶、私が入れようか?」
「いや、舞子。
せっかくだから、帰還記念にとっておきのお茶を出すよ」
「えっ? いいの?
楽しみだわ~」
なぜ、舞子ではなく、畑山さんが答えるの。
お茶をいれるのは、いつの間にか俺の趣味になった。
異世界でずっと俺を支えてくれているルルという少女が、お茶が好きだと知ってから、暇さえあればお茶の点て方を工夫してきた。
そうしているうちに、俺自身、お茶に興味が湧いた。
「はい、どうぞ召しあがれ」
「なに、これ!
超美味しい」
女王様が、絶賛だ。
これはドラゴニアの竜王花という花をお茶にしたもので、たいへん希少なものだ。
お茶と一緒に、俺の会社、ポンポコ商会で取りあつかっている焼きたてクッキーも出しておく。
「うおっ!
このクッキー焼きたてじゃないか」
俺の魔法で作る収納箱の中は時間がコントロールできるから、ほぼ焼きたての食べ物も取りだせる。
湯気を立てるクッキーの上から、蜂蜜を垂らす。
これは、ドラゴニアの森に住む大きな蜂が生みだすもので、濃厚な味が癖になる。
「史郎君、この蜂蜜なに!
いままで食べたことないよ、こんな美味しいの」
聖女舞子も、ご満悦だ。
「どれどれ。
うわっ、うまいわーっ」
畑山さんが叫んでいるが、美少女のおばさん言葉ってなんかねえ。
「パーティ・ポンポコリンのメンバーは幸せだな。
こんな美味しいものばっかり食べられるなんて」
加藤が、うらやましそうに言う。
「史郎君、あのー、あれお願いしてもいいかな」
舞子が言っているのは、お風呂だろう。
点ちゃん1号には備えつけの風呂がある。
「でも、水着がないんじゃない?」
「うん。
でも、外のお風呂じゃないから気にしないよ」
まあ、それならいいんだが。
「えっ!
ボー、この中ってお風呂があるの?」
あー、畑山さんは、1号にお風呂がついてるの知らなかったか。
「うん、温泉風呂があるよ」
「何ですって!
早く言いなさいよ。
舞子、さあ、入るわよ!」
どこまで風呂好きなんだろう、この女王様。
こうして、地球帰還最初の夜はくつろぎ空間で過ぎていった。
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