289 / 607
第七章 天竜国編
第42話 聖樹様の導き
しおりを挟むギルド本部から瞬間移動した俺たち四人は、森の中に立っていた。
俺の肩に乗っている白猫ブランがミーミーと鳴く。今までに無かった鳴き方だ。ブランも聖樹様の力を感じているのだろう。
それは心が落ちつく、温かい波動のようなものだった。
「おい、ボー、その聖樹様ってのは、どこだい?」
しかし、ちょっと鈍感な者もいるようだ。
「あー、加藤、お前の目の前だよ」
「目の前ったって、森しか見えないぞ」
聖樹様のお姿はギルド本部の窓からも見えていたんだが、加藤はそれに気づかなかったようだ。
「加藤……」
畑山さんが、目を見開いて前方を指さしている。
「え?
そっち?
でもそっちにも森しかないぞ」
あまりに巨大な聖樹様の幹は、ただの背景にしか見えないらしい。しょうがないから、俺が上を指さした。
加藤がいぶかし気に空を見あげる。
「な、な、なんだあれはっ!」
まあ、最初目にしたら驚くよね。空の大部分を覆っているのが聖樹様の枝だから。
舞子は、膝まずき何か祈っているようだ。聖女をして敬虔な気持ちにさせる何かが、聖樹様の周囲には漂っていた。
『よく来たな、シロー』
人の声に比べ、非常にゆっくりした聖樹様の念話が頭に入ってくる。以前来た時、聖樹様には点をつけさせてもらってるからね。
『ご無沙汰しておりました』
『竜の里で、我が子供たちが世話をかけたな。
礼を言うぞ』
『いえ、こちらが神樹様にお世話になりました』
『かの地の神樹から、言伝(ことづて)は聞いておるな?』
『はい』
『竜族に伝わる秘宝は持ってきておるな?』
『はい、持ってきております』
俺は、間違ってたらどうしようかと思い、ドキドキした。宝物庫の目ぼしいものは一揃え持ってきてるんだけどね。
点収納から、黄金色に輝くスモモくらいの玉を三つ手のひらに出す。
俺はそれを、聖樹様の方へ捧げるように持ちあげた。
『よかろう。
点の子よ、我とその三人も繋いでくれるか』
『(^▽^)/ 分かったー』
て、点ちゃん、いくら何でも聖樹様には敬語を使おうよ。
『(?ω?) 敬語って何ー?』
いや、もういいです。
『(^▽^) 付けたよー』
『勇者、聖騎士、聖女に覚醒した者よ。
我が声が、届いておるか?』
「ボー、このゆっくりした声は?」
「加藤、頭が高いぞ。
聖樹様のお声だ」
「へへーっ!」
加藤が平伏する。この勇者、チョロイな。
でも、近くでこのお姿を見せられたら無理もないか。
『お主ら三人も、我らの運命をになっておる』
えっ! 加藤たちも、聖樹様、神樹様と係わりがあったの!?
『お互いがお互いを補いあい、前に進め』
お互いに助けあえってことだな、きっと。
『はい、聖樹様』
『お言葉通りに』
『へへーっ!』
畑山さん、舞子、加藤がそれぞれ、お言葉に答える。
『シローに力を与えるゆえ、お主らもそれを使うがよい』
『『『ありがとうございます』』』
三人が念話の声を合わせる。
『史郎よ、宝玉を顔の前に掲げよ』
俺は言われるまま、宝玉を載せた両手を、顔の前まで持ってきた。
周囲にじんわりと力が満ちる気配がすると、手の上にある宝玉が光を放ちはじめる。
その光は黄金色で、まるで宝玉が空間そのものに、にじんで溶けこんでいくような錯覚を覚えた。
三つの玉が浮きあがると、ゆっくり回転をはじめる。
回転が速くなり、その円が小さくなる。
玉は、お互いが重なりあうほどに近づいても、回転をやめなかった。
玉が一つになったと思った瞬間、それは光の矢となり、俺の額に突きささった。
◇
「ボー、大丈夫か?
おい、ボー!」
遠くで加藤の声が聞こえる。
それがだんだん大きくなると、意識が戻った。
「おっ!
目が覚めたか。
何があったか覚えてるか?
光がお前の頭にぶち当たったと思ったら、突然倒れたんだ」
あれは夢ではなかったのか。
聖樹様に念話で呼びかけたが、お返事がない。きっとさっきの技で、お力を使いはたされたのだろう。しばらくは、お話しになれないはずだ。
光に驚いて肩から飛びおりていた子猫ブランが、ふたたび俺の肩に跳びのった。
「ボー、ここは大丈夫?」
畑山さんが、自分の額を指で押さえる。
彼女が押さえた辺りに触れると、何か硬いものがある。それは、少し熱をもっているように思えた。
「史郎君、本当に大丈夫?
おでこに金色のホクロができてるよ」
舞子の言葉を聞き、俺は慌てて白銀のパレットを作り、それを薄い「枯れクズ」と合わせる。二枚の接触面に、「付与 融合」を施すと、即席の鏡ができあがった。
自分の顔を映してみる。
舞子が言うとおり、額の中央辺りにゴマ粒よりすこし大きな、金色のホクロができている。指で触ってみると、硬く、押さえてもびくともしないから、奥にもそれが広がっているのだろう。
これ、大丈夫なんだろうか。聖樹様が関わったからには、万が一にも間違えはないよね。
点ちゃん、これが何なのか分かる?
『(Pω・) 材質は、あの金色をした三つの玉と同じものですね』
目を閉じ、額のホクロに意識を集中させる。
何か前方の暗闇にひらひらした布のようなものが現れた。
布の数は、6枚。近いものと遠いものがあり、よく見ると、絵の様なものが見える。一枚の布に意識を集中すると、その絵が浮かびあがってくる。
それが何かに気づいたとたん、聖樹様のなさりたかったことが分かった。そして、自分が何を与えられたかも。
「史郎君、史郎君、大丈夫?」
黙りこんだ俺に、心配顔の舞子がかがみこむ。
俺がぱっと視線を上げると、舞子は、なぜか赤くしたその顔を遠ざけた。
「ちょっと待ってね」
点ちゃんと俺は、何ができるようになったか検証していた。
頭の中はフル回転してるけれど、黙ってるから、ぼーっとしてるように見えるだろうね。
どうだい、点ちゃん。
『(^▽^) 実験は成功です』
じゃ、さっそく使ってみるかな。
「加藤、畑山さん、舞子。
ちょっと来てくれ」
三人が地面に座りこんだ俺の周りに集まる。
「聖樹様から、ある力を授かった」
俺の言い方がいつになく真面目なものなので、みんながはっとした顔をする。
「それは、世界を渡る力だ」
「「「えっ!」」」
これは、さすがに驚くよね。
「ということは、ボー、あんたは自由に異世界を行き来できるってこと?」
畑山さんは理解が早い。
「正確に言うと、今まで訪れたことがある世界の、訪れたことがある場所に行けるという能力だね」
「ふえ~、とんでもねえな。
聖樹様、ぱねー」
加藤のその言葉、聖樹様に聞かれなきゃいいけど。
「史郎君、地球にも帰れるの?」
舞子は驚きで元々くりっとした目が大きくなっている。
「ああ、帰れると思うよ」
「でも、それ、危なくないの?」
さすが女王様、畑山女史は油断しない。
「さっき、俺、ちょっとぼーっとしてたでしょ」
「ええ、あんたらしい顔をしてたわね」
どんな顔だ?
「とにかく、その間に点ちゃんと力を検証してたんだ」
「じゃ、安全そうなのね」
「うん、点ちゃんはそう言ってる」
聖樹様プラス点ちゃんとなると、信頼度は抜群だ。
「三人はどうする?
俺はこれからすぐに地球に戻るよ。
聖樹様が、それを望んでおられるようだから」
「そうなの?
うーん、どうしようかしら……」
さすがに畑山さんは悩んでるな。女王として、国の仕事があるからね。
「俺は四人で帰るべきだと考えてる。
聖樹様が俺たちを集めたのは、そういうことだと思う」
「なるほど、ボーの言うことには一理あるな。
俺は帰るぜ。
かあちゃんに、握り飯のお礼言ってないからな」
おいおい、ここに来て加藤の判断基準はおにぎりですか。
「舞子はどうする?」
「私、帰る」
舞子は、前から心を決めていたようだ。
「ボー、アリストに戻れるのは確実なのね」
「ああ、畑山さん、俺はそう思ってる」
「よし決めた。
四人で帰るわよ。
そうと決まったら、加藤、さっさと準備なさい」
「えっ!?
準備?
でも、準備っていっても……」
「察しが悪いわね。
心の準備よ、心の。
ボー、一気にやっちゃって」
なんか、虫歯を抜くみたいになってないか?
「じゃ、とりあえず、様式美を守って四人で手を繋ぐか」
俺、舞子、加藤、畑山さんが、それぞれ隣の手を取る。
「では行くよ。
地球に着くまでは、念のため、手は離さないように」
「うん」
「いいわよ」
「よっしゃ!」
「ミーッ」
最後にブランの肉球を、俺たちが重ねた手の上に置いた。
俺は、額のホクロに意識を集めると、浮かび上がった布に故郷の風景が映ったものを選ぶ。
白猫を肩に乗せた俺は、聖樹様にお礼の念話を送ってから、世界間転移の魔法を発動した。
-------------------------------------------------------------------
ポータルズ 第7シーズン「天竜国編」終了
ポータルズ 第8シーズン「地球訪問編」に続く
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる