313 / 607
第八章 地球訪問編
第24話 常識破壊1
しおりを挟む俺たち「初めの四人」と翔太君は、プレスクラブのインタビュー席に座った。
記者席から見て左から、俺、加藤、畑山さん、舞子、翔太君の順だ。
サポート役として、柳井さんが右端に座ってくれている。
後藤さんは、会場の後ろで、会見の様子を見守る。
特派員協会の進行役が、開会の辞を述べる。
「今、世間の話題を独占しているジャンプ画像の加藤少年と、彼と共に行動している三人、そして、もう一人、畑山さんの弟で、ネットアイドルとして有名な翔太君です。
今日は、加藤少年の能力の秘密に迫ろうと思います。
なぜ、他の三人と翔太君が同席しているかは、おいおい分かるでしょう。
時間が無いので、質問は各社各人一つだけでお願いします」
進行役が、手を柳井さんの方に向ける。
「それでは、『異世界通信社』柳井さん、彼らの紹介をお願いします」
「ありがとうございます。
ご紹介に上がった柳井です。
我が社が、なぜ『異世界通信社』という一風変わった名前を使っているかも、今日のインタビューで明らかになると思います。
では、まず彼らの紹介を」
柳井さんが、手で翔太君を示す。
「手前の彼は、まだ小学生ですが、『初めの四人』に最も近い人物としてこの席に座っています。
えー、『初めの四人』については、また後程説明いたします。
ネット環境を通じ、彼らの活動を支えているのが翔太君です」
記者席、特に女性から大きな拍手が上がる。
「次に、こちらから、『聖女』渡辺舞子さん。
翔太君を除く四人はある事情でしばらく行方不明になっていました。
その『初めの四人』の一人です」
「初めまして、渡辺舞子です。
よろしくお願いします」
さすがに、舞子は落ちついたものだ。
「次に、『聖騎士』畑山麗子さん。
彼女は翔太君の姉でもあります。
先ほど触れた『初めの四人』のリーダー的存在でもあります」
「ご紹介に預かりました畑山です。
今日は、よろしくお願いします」
会場から拍手が起きる。
「キレー」「ゴージャス!」など、それぞれの言語で賛辞が飛びかう。
「次は、『勇者』加藤君。
皆さん、もうジャンプ映像や、『体力測定』の新聞記事でおなじみだと思います」
「え、えーっと、加藤です。
どうも……こんちは」
こういった場に慣れていない加藤は、緊張しているようだ。
「最後に、パーティ・ポンポコリンのリーダーであり、今回、彼らがこの場に居られるようにした人物が『魔術師』坊野君です」
あちゃー、俺が最後になっちゃったよ。
まあ、その辺は柳井さんに任せてるからね。
「ご紹介にあがった、坊野です。
俺のことはシローと呼んでください」
隣の加藤が、前に置かれたペットボトルに差しこまれたストローで美味しそうに水を飲んでいる。
お前、たった今まで緊張してたんじゃないのか?
『(*'▽') 勇者ぱねー』
いや、点ちゃん。確かにそのとおりなんだけどねえ……。
進行役がマイクを持つ。
「柳井さん、ご紹介ありがとうございます。
では、彼らの希望で、最初から質問形式でインタビューを始めようと思います。
会場から拍手が上がる。
「では、質問がある方、挙手をどうぞ」
会場のほぼ全員が手を挙げている。
「では、青い服のあなた」
進行役が指したのは、鮮やかなブルーのワンピースを着た白人女性だった。
「prince、あ、いえ、翔太君は、『初めの四人』の広報係と考えていいのでしょうか。
『体力測定』では、司会をされていたようですが」
少し訛(なま)りはあるが、立派な日本語だ。
だけど、最初が翔太君への質問とはね。
彼って、どんだけ有名なの。
「ボクは『初めの四人』の友達だよ。
広報係は、そこいいる柳井さん」
女性たちから、一斉に刺すような視線が柳井さんに向かう。
柳井さんは、全く表情を動かさない。
「では、そちらの方」
進行役が、ポケットがたくさん付いたジャケットを着た丸顔の日本人男性を指す。
「えー、〇〇ニュースの神尾です。
私も、ジャンプ映像を見たのですが、どうしてもあれが本当だとは思えなくて。
何か、その証拠のようなものはありませんか?」
これには、すかさず柳井さんが、答える。
「体力テストの結果があると思うのですが。
ご覧になりましたか?」
「ええ。
しかし、全部測定不能では、どう信じていいのか……」
「神尾さんは、『体力測定』に来ていた報道関係者全てが口裏を合わせてでっち上げを書いていると思っているのですね?」
「いえ、そうは言ってません。
確実に信じられる何かが欲しいと言ってるんです」
「他の方も同じ意見でしょうか?」
これは俺の発言だ。
会場全員が大きく頷く。
「では、実際にその目で見てもらいましょうか」
記者席から見て、左側の壁が白く変わる。
この手順は、前もって打ちあわせておいた。
映しだされた映像は、加藤の『体力測定』だ。
みんな食いいるようにスクリーンを見ている。
画面上の加藤が何かするたび、会場から驚嘆の声が上がる。
最後の百メートル走が終わると、場を静寂が支配した。
ちなみに、『体力測定』放映中は、会場のカメラは映らないように細工してある。
カメラのレンズ表面に黒いシールドを張っただけなんだけどね。
スマートフォンで映像を撮ろうとした者は、それを全て壊しておいた。
しばらく時間をおいて、やっと次の質問者が立ちあがった。
「映像を見ると、余計に信じられなくなります。
やはり、これも合成画像かなにかではないのですか?」
「この世界で知られていない力の存在を、どうしても信じられないようですね。
では、実際にご自身でご体験ください」
俺が話すと、フラッシュが一斉にたかれた。
「みなさん、取材用の荷物がおありですから、カバンを持ってきていますね?」
ほとんどの者が頷く。
「では、そのカバンを膝の上に置き、口を開けておいてください」
何人かを除き、俺が言うとおりしてくれたようだ。
「では、不思議な力の一端をお見せしましょう」
また、フラッシュが連続する。
各自のカバンから、色々なモノが宙に浮きはじめた。
「な、なんだこれはっ!」
「どういうこと!」
叫んでいる者もいるが、ほとんどは目の前に浮かんだ自分の所持品を穴が開くほど見つめている。
水着の女性が表紙の雑誌がカバンから飛びだした若い記者が、慌ててそれを手で隠している。
他にも数人、手で隠している者がいるから、見られたくないものが入っていたのだろう。
浮きあがったモノが、糸で吊られていないか疑っているのだろう。その上下を手でまさぐっている者もいる。
「これで、分かってもらえましたか?」
俺がそう言うと、それぞれのモノはふわりとカバンの中に戻った。
会場がざわつき始める。それが次第に大きくなった。
中には、オフにしていたスマートフォンの電源を入れ、それで話して進行役から注意を受けている者までいる。
「さきほど質問された方、納得されましたか?」
柳井さんが、ざわつく会場に負けないようにやや大きな声で尋ねる。
「納得もなにも、なんですか、今のは!?」
「進行役の方、次の質問を受けてください」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
質問者が食いさがろうとする。
「質問は一つだけ。
私達がいる場でのルール違反は認めません」
柳井さんは、きっぱり言いきった。
「なんだよ!
『異世界通信社』さん、いい気になるなよ!」
会場から声が上がる。
「あなた、どこの会社です?」
「〇〇新聞だが……」
「以降、『異世界通信社』は、あなたの社には情報を公開しません。
あしからず。
他に、ご不満がある方は?」
会場のざわつきが次第に収まった。
柳井さんのほうを睨みつけている報道関係者も少なくない。
しかし、彼女は涼しい顔をしている。
俺は、柳井の手腕を見て、彼女が広報役になってくれて良かったと心から思うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる