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第八章 地球訪問編
第46話 ルート66(上)
しおりを挟む俺は、ポンポコ商会支店の業務に携わるとともに、林先生が新しく受けもつ、「異世界科」の手伝いに忙しかった。
畑山さん、舞子、加藤とその家族は、着々と異世界旅行の準備を整えつつある。
畑山さんが先生になり、家族たちとエミリー、翔太君に教えていた異世界についての「授業」も終了した。
後は、十日余り後にニューヨークで予定されている行事が終われば、いつでも出発できる。
アメリカ大統領から、安全の保障が出たので、エミリーはニューヨークのハーディ邸に戻してある。
舞子は「妹」がいなくなって寂しそうだけどね。
その辺は、俺に考えがあるから。
日本は、いつの間にか、桜が咲く季節を迎えていた。
◇
俺たちが、地球世界に帰ってきたのが一月の中旬だったから、こちらでの滞在も、すでに二か月半が経過していた。
俺たち『初めの四人』は、ニューヨークへ行った時くらいしか、旅行らしい旅行もできなかったので、それを行うことにした。
イリノイ州シカゴからカリフォルニア州サンタモニカを結んでいたかつての国道、ルート66をバイクで走るというものだ。
ルート自体は、既に廃線になっていることもあり、道が全て繋がっている訳ではないが、その区間は点ちゃん1号を使えば済むので、俺たちには何の問題もない。
合計八つの州を通るこの旧道の沿線には歴史的モニュメントが多数あり、それを訪れるのも楽しみだ。
地元で桜の花が咲くのを見た次の日、『初めの四人』は、俺が点を落としておいた、サンフランシスコに瞬間移動した。
場所は、遠くにゴールデンゲートブリッジが見える丘の上だ。
人を驚かさないように、自分たちには透明化の魔術を掛けてある。
日本は朝方だったが、ここでは太陽が高く昇っていた。
点ちゃん1号で、空路南へ。二十分もかからずにロサンゼルスに到着した。
サンタモニカのルート66出発点へ向かう。そこからは、シカゴを目指すことになる。
エミリーに借りておいた、スマートフォンのマップ機能が活躍する。
人通りが無い脇道で白銀の大型バイクを出す。
加藤の後ろに畑山さん、俺の後ろに舞子が乗る。
俺たちは、点魔法で作ったヘルメットを被っている。
体温調整を点魔法で行うと旅情が削がれると思い、俺と加藤は黒革のツナギを着ている。
畑山さんと舞子は、点魔法の温度調節を選んだ。
出発地点にバイクを並べた俺と加藤は、互いの革手袋をぶつけるとスタートを切った。
日本ではあまり見ない片側四車線の道を東に向かう。
タイヤがついていない白銀のバイクに驚き立ちどまる人もいるが、思ったより注意を引いていないようなので、少し安心する。
俺が乗っているのは、加藤と同じ点ちゃん4号改だ。
最後まで難航したブレーキシステムは、進行方向の逆に重力を掛ける点の数で調節した。
ハンドルのレバーを強く引くほど多くの点が反応する。
一つ一つの点が加える重力は弱めてあるから、ゆるやかな減速もお手のものだ。
『あんたたちが、バイクバイクってうるさいから仕方なくつきあったけど、これ、気持ちいいわね』
『だろ、麗子さんが気に入ってくれると思ったんだ』
こういう時、念話は本当に便利だね。
『舞子、寒くないか?』
『ううん。
むしろ、ちょっと熱いくらい』
『それならいいんだが』
『(・ω・)つ ご主人様は、相変わらずですねえ』
えええっ! ここで点ちゃんから、突っこみですか。
地球に来てからこんなのばっかりだな。
『(・x・) ご主人様はダメダメですねえ』
あ、ダメダメミッ〇ィー顔。ええ、よくわからないけど、ダメダメで結構です。
『(*´з`) 開きなおってるよこの人』
『史郎君、どうしたの?』
舞子には、点ちゃんの声が聞こえないからね。
こうして、俺たちの「旅らしい旅」が幕を開けた。
◇
旅は順調に進んだ。
カリフォルニア州からアリゾナ州、そしてニューメキシコ州へと沿道の景色が移り変わるのが興味深い。
俺達のバイクは、速度制限が無いのでスピードはいくらでも出せるのだが、時速二百キロから三百キロくらいで運転している。
まだ改造中なので、その程度に抑えているのだ。
ニューメキシコでは、街道沿いの木陰でキャンプした。
女性二人がどうしてもと言うので、点ちゃん1号を出し、入浴してもらう。
ついでに俺たちも入浴した。
この日はテントに寝たが、最新のテントは本当に寝心地が良かった。
畑山さんと舞子はコケット、俺と加藤はダウンの寝袋で寝た。
夜、テントのキャノピーを空け、星を見ながら寝たので、朝の光で目が覚めた。
これもキャンプの醍醐味だね。
二日目は、テキサス、オクラホマ、カンザスと抜ける予定だ。
テキサスをもう少しで抜けようかという所で、昼食を取ることにした。
沿道のいかにも西部劇に出てきそうな店に入る。
ドアも、バネでギコギコする両開きのやつだ。
店内には六つテーブルがあったので、壁際のものを選んだ。
木製の丸テーブルに丸椅子があり、アリストのギルドを思いださせた。
俺たち四人が、でかいハンバーガーを食べおえ、席を立とうとしたとき、入り口から柄の悪い連中が入ってきた。
「おい、お前ら。
中国人が、誰に断って俺たちのテーブルに座ってんだ」
男は首から太いチェーンを垂らし、胸毛だらけの胸元を大きく開いている。
おいおい、それじゃ、寒いだろう。
「おい、頭に変なの巻いてる、おめえだよ。
何とか言わねえか」
俺たちの旅も、順調とばかりはいかないようだ。
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