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第九章 異世界訪問編
第12話 プリンスと先生2
しおりを挟む青いモヤモヤが見えるようになった日から、ボクの魔術練習が変わった。
先生は、風魔術、火魔術の基礎も教えてくれた。
風魔術の基礎訓練では、先生を吹きとばしちゃったし、火魔術の基礎訓練では、あやうく森が火事になるところだった。
それでも、先生は、少しもボクを叱らなかった。
むしろ、さらに熱心に、色々教えてくれようとしたくらいだ。
そして、練習を始めてから二十日目に、僕が、水、土、風、火魔術の基礎ができるようになると、先生は 舞子お姉ちゃんを連れてきた。
先生によると、お姉ちゃんは、ポータルズ世界で一番というくらい、治癒魔術が上手いんだって。
「翔太君は、もう治癒魔術を見たことがあったね」
そういえば、異世界に来たとき、ボクたちは、お城の森に出てきたんだけど、そこで舞子お姉ちゃんが、エミリーの目を治したんだった。
あの時は、エミリーの体が光って、とても綺麗だった。
エミリーの目は、地球ではどんなお医者さんでも直せなかったから、舞子お姉ちゃんにも無理じゃないかって、ちょっと思ってたんだ。
だけど、エミリーは本当に目が治っちゃった。すごいよね。
だって、お姉ちゃんが治療してすぐに見えるようになったんだよ。
あれも、やっぱり魔術だったのか。魔術って、本当にすごい。
舞子お姉ちゃんは、ボクの手をとると、火傷で水膨れしたところに、手をかざした。
森が家事になりそうになったとき、慌てて火を消そうとして火傷しちゃったんだ。
お姉ちゃんの手が白く光ると、ボクの火傷も光りだした。
白いマナのもやが、お姉ちゃんの周りにいっぱい集まってる。
今まで、こんなにマナが濃くなるのを見たことがない。
ボクの火傷は、あっという間に消えてしまった。
火傷があるときは、そこがヒリヒリしていたんだけど、その感じもなくなった。
「今、自分が受けた治療の感じを思いだして、この傷に魔術をかけてごらん」
さっき治った火傷の近くにある傷に、ボクは手を近づけてみた。
でも、手はちっとも光らなかった。
先生によると、治癒魔術は、聖魔術の一つで、この聖魔術は、水、土、風、火の魔術にくらべ、かなり難しいそうだ。
それは、そうだね。
水、土、風、火はイメージできるけど、「治す」ってイメージしにくいから。
お姉ちゃんに治してもらった感覚を忘れないように、その日のうちに何度も試したけど、結局治癒魔術は唱えられなかった。
◇
ボクは、土魔術を練習した時みたいに、またスランプになったようだ。
なぜか、水魔術なんかも、以前と比べて下手になったような気がする。
それから、四五日は、一日中治癒魔術のことを考えていたんだ。
すると、治癒魔術のヒントは意外なところからやってきた。
お屋敷の庭を歩いているとき、洗濯物を干しているメイドさん二人が会話しているのが聞こえた。
「ウチのトニーも腕白で困るわ。
いつも擦りきずだらけで帰ってくるのよ」
「でも不思議でしょ。
子供って、いつの間にか、傷が治ってるのよね」
「どうせ、また新しく傷ができるんだけどね、ホホホ」
その時、ボクはピーンと閃いたんだ。
試しに、自分の傷に手をかざしてみる。
やった、たくさん白いマナが集まってくるぞ。
ボクの手が光りだして……傷口も光ったぞ。
やった!
治ってる。
「治れ」じゃなくて、「治ってね」と思えばよかったんだね。
治癒魔術は、体にお願いする魔術だったんだ。
ボクは、すぐに先生の所に知らせに行った。
自分の足についていた小さな切り傷を、治癒魔術で治す。
魔術が成功すると、先生はものすごく喜んでくれた。
そして、ボクの成功を、すぐに舞子お姉ちゃんに知らせていた。
◇
ボーさんと約束した日が近づいた。
治癒魔術が唱えられるようになったお祝いに、先生は、ボクを遠足に連れていってくれた。
森の向こうに小さな湖があるそうで、そこまで行くことになった。
ボクと先生は、メイドさんが用意してくれたランチボックスを持って、森の中をどんどん歩いていった。
少し雲はあるけれど、空は青く、風が優しい。
ボクは楽しくて、時々、速く歩きすぎて、先生を追いぬいちゃうくらいだった。
途中、子供を連れたお母さん猪が、ボクたちに突進してきたけれど、先生は、水魔術と土魔術をうまく使ってそれを追いかえした。
子連れの動物や魔獣は、子を守ろうとして、気が荒くなっていることがあるから、気をつけるようにだって。
母親を倒してしまうと、その子も生きていけないから、自分がホントに危ないとき以外は、殺してはダメなんだ。
先生は、歩きながら、そういう事を教えてくれた。
◇
「うわーっ!!」
森から出ると、綺麗な湖が、目の前に広がっていた。
ボクは今まで、そんなに綺麗な景色を見たことが無かったから、胸がいっぱいになった。
湖は、その向こうにある山々が映って、鏡のようなんだ。
小川が湖に流れこむ辺りの岸辺に、芝生のような草が生えていたから、そこに布を敷いてランチの用意をする。
ランチボックスからは、ノリで巻いたおにぎりとお茶が出てきた。
この世界にも、お米があるんだろうな。
おにぎりは、もう言葉に出来ないくらいおいしかった。日本の食べものが、すごく食べたかったから、よけい美味しく感じられたのかな。
食べおわってランチボックスを片づけると、先生は、ボクの横に座った。
二人して、綺麗な湖を見る。
それは、本当に幸せな時間だった。
ボクは、前から聞きたかったことを先生に尋ねた。
「先生は、誰から魔術を習ったの?」
先生は、自分の手にある火傷を見せて、「治してごらん」と言った。
ボクは治癒魔術を使ってそれを治そうとしたけれど、その火傷は、ほとんど良くならなかった。
「これが治らないのはね、君の治癒魔術が不十分なせいじゃないんだ」
先生は、自分の生いたちを話してくれた。
子供の頃、両親から、無理やり魔術を教えこまれたこと。
魔力を高める薬を飲んで、体をこわしかけたこと。
その副作用で、治癒魔術が効きにくい体になったこと。
魔術師として出世するため、多くの人を傷つけたこと。
そして、とうとう、ある少年を殺してしまったこと。
先生は、淡々とそれを話してくれた。
罪を償(つぐな)うために、生きていること。
だから、家族を持つつもりはないこと。
そして、最後にこう言ったんだ。
「ショータ、魔術は、凄い力だ。
それは、君も分かっているだろう。
だけど、それを使うのは君自身なんだ。
強い力は、間違って使うと自分も人も傷つける。
私をよく見るんだ」
先生は、そう言うと、服の胸のところを開いた。
そこには、顔と同様、黒と白に分かれた体があった。
ボクは少しの間、黙っていたが、自分が思っていることを口にした。
「先生が、昔どんな人であっても、今は、素晴らしい先生です。
ボクが上達したのは、先生のおかげです。
先生、これからも、ボクに魔術を教えてください」
先生は、それを聞くと、立ちあがって水際まで歩いていった。
しばらくして、振りかえるとこう言った。
「よし、ショータ。
明日から、またビシビシしごくぞ。
シローさんが来るまでに、行けるところまで行こう」
「はい、先生!」
いつの間にか雲は無くなっていて、青い空がどこまでも広がっていた。
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