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第十章 奴隷世界スレッジ編
第26話 真竜の母たち
しおりを挟む「さて、どうしますかな」
リーヴァスは、あごひげを撫でながら思案している。
ルル、コルナ、コリーダが浮足だっているから、落ちついたリーヴァスは頼もしい。
彼女たちは、実はリーヴァスが、内心では大いに焦っていると知らない。
「おじい様、私は戦闘力もありませんし、彼女たちの後が追えるとは思えません。
計画通り、エルファリアに向かい、これからに備えようと思います」
「おお!
コリーダ、よく決めたね」
リーヴァスは、コリーダの決断に感心している。
「リーヴァス様、コリーダが例のものを取ってくるなら、私も神樹様、猫賢者様に会うべきかと思います」
「それはそうだが……コルナ、頼めるかな?」
「はい、お任せください」
コルナとコリーダはお互い目を合わせ、頷きあった。
「ルルさん、ナル、メル、子竜たちを頼むわよ」
「ええ、娘たちと子竜を、お願いするわ」
二人は、ルルの方を向くと、そう口にした。
リーヴァスは、三人の強固な絆に胸を打たれたが、それを口にはしなかった。
「ええ、二人とも頼むわよ。
ナル、メルたちはもちろん、子竜たちも、さらわれた竜人も、きっとあなた方の助けが必要だから」
ルル、コルナ、コリーダの三人は、しっかりと頷いた。
「さすれば、我々は、すぐにでも、ここを発ちましょう。
三人とも、用意なさい」
「はい、おじい様」
こうして、リーヴァス率いるシローの家族が、目的にむけ行動を起こした。
◇
リーヴァスたちは、まず青竜族の役所にあるギルドに向かい、マルロー、ラズローと打ちあわせをおこなった。
それに途中から参加したジェラードが、コリーダとの同行を希望したが、マルローに却下された。
ラズローは、各部族から精鋭を選び、ルルたちの護衛にするよう申しでたが、一刻も早くという彼女たちの希望があったので、後を追う形で彼らを派遣することにした。
四竜社の地下にあるポータルから、リーヴァス、ルル、コルナ、コリーダが出発するまで、それほど時間は掛からなかった。
◇
竜人国から獣人世界に渡ったリーヴァス一行は、崖の中腹にあるポータル部屋から出ると、苦労して岩肌をよじのぼり、崖の上に出た。
そこには、ギルドから派遣された荷馬車が待っており、乗りこんだ一行を最寄りの村に連れていった。
村では、犬人のアンデと猫賢者が待っていた。
「アンデさん、今回もギルドには、お世話になりますな」
リーヴァスが、旧知の仲であるアンデに握手を求める。
「いえ。
我々は、シローに、返しきれぬほどの恩がありますから」
アンデは、そう言いながらリーヴァスの手を強く握った。
「コルナ様、こちらの準備は出来ている。ニャ」
コルナに話しかけたのは、猫賢者だ。
「賢者様、この度は、ご足労ありがとうございます」
「なんの、ワシは、まだ耄碌しておおらぬ。ニャ」
猫賢者は、比較的この村から近い所に滞在していたから、ここまで来るのに、それほど苦労はなかった。
「近くによい洞窟があったので、そこを修行場にした。ニャ」
「では、さっそくお願いします」
「コルナ殿、かなり厳しい修行になると思うが、大丈夫か。ニャ」
「ええ、覚悟はできています」
こちらでは、アンデがルルに話しかける。
「シローが使ったポータルは、すでに冒険者たちが、おおよその位置を調べてあります」
「ありがとう、アンデさん。
冒険者の方にも、お礼を言ってください」
「シローに関する依頼だと分かると、みんな喜んで手伝ってくれましたよ」
「すぐに、そこへ出発できますか?
恐らく、娘たちと子竜は、何らかの方法でシローの後を追っていると思います」
「ええ、もう出発する準備は出来ています」
「おじい様、コルナ、コリーダ。
それでは、私はナルたちを追います」
「ルルや、気をつけるんじゃよ」
「はい、おじい様」
こうして、ルルはアンデと共に、シローと娘たちを追い西へ、リーヴァスとコリーダは、エルファリアへのポータルがある狐人領に向け北東へ、コルナと猫賢者は近くの洞窟へそれぞれが向かうことになった。
◇
その頃、天竜国にある真竜廟では、再び事件が持ちあがっていた。
竜王が知らないうちに、ルル、コルナ、コリーダに育てられた六体の子竜が姿を消したのだ。
「ぬう、完全に油断しておったわ」
しかし、結界が張ってあったのだから、どうやってそれを子竜たちが潜りぬけたかが分からなかった。
彼は、ゆりかごの世話をしている天竜にそのことを念話で伝えると、ボーン・ドラゴンになってから初めてのため息をついた。
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