420 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編
第31話 選定の儀(中)
しおりを挟む一度場外へ消えた、赤い髪の竜人と巨人が、武闘場の開始線をはさんで向かいあった。
竜人の手に長剣があるから、武器を選んでいたのだろう。
『チビ、聞こえるか?』
『うん、頭の中で声がするよ』
『教えたとおり戦えば、怖くないからな』
『ほ、本当に、これ終わったら、あの蜂蜜水もらえるの?』
『ああ、いっぱい飲ませてやる』
『わーい!』
チビが気弱になっていないか、念話で確かめたが、大丈夫のようだ。
白いローブを着た審判役が、両手で持つ大きな旗を振りあげる。
皇国の紋章が描かれた白い布が翻り、武闘が始まった。
赤竜族の男が、長剣を大きく振りかぶると、いきなり切りかかった。
どちらかというと動きが遅いチビには、かわせそうにない攻撃だ。
しかし、チビは慌てず巨大な斧を手から落とすと、竜人の剣を右手で受けとめた。
ガキっ
そんな音がして、剣が止まった。
普通なら腕ごと切断されるだろうが、チビの腕は透明化した点ちゃんシールドで覆ってある。
竜人の男は、信じられないという顔をした。
チビの左手が、ひょいと竜人の胴体をつかむ。
竜人の顔が、紫色になる。
男は、握りしめているチビの手をポンポンと叩いた。
審判役が、再び大きな旗を振る。
俺が念話で指示すると、チビが右手を天に突きあげた。
うおーっという観客の歓声が、大波になり、何度も会場を洗った。
観客席のデメルが立ちあがり、地団太を踏み悔しがっているのが見えた。
後ろを見ると、シリルが飛びあがって喜んでいる。
竜人とチビが退場する。観客席に収まりきらないからだろう、チビは、場外線の外、観客席の下に敷かれた布の上に座った。
◇
白ローブの審判が再び出てくると、次の戦いの始まりを告げる。
「第二試合、デメル様竜闘士シューデ」
やはり、竜闘士のところで、すごい歓声が上がった。
「シリル様闘士カトー」
客席から、再びがっかりするような声が上がったが、わずかだが黄色い声援も聞こえた。
恐らくダレンシアの闘技場で、カトーの試合を見た女性たちだろう。
その中には、当然シリルの侍女ローリィの声もあった。
「カトー様ー、がんばってー!」
人族へ声援を送る彼女を、周囲が冷たい目で見ている。
しかし、そういった人たちの表情が、驚きに変わる。
一旦、場外へ下がった竜人と加藤が武器を持って帰ってきたからだ。
加藤は、チビが使っていた巨大な斧を両手で掲げていた。
おそらく、巨人族用に作られたであろう斧は、カトーの手に持たれると、非現実的な大きさだった。
対戦相手の竜人が驚いている。おそらく青くなっていると思われるが、青っぽい肌の色をした青竜族だから、顔色の変化は、よく分からなかった。
青竜族の男は、開始線に着く前、何かぶつぶつ唱えているようだった。体が青く光ったから、身体能力強化の魔術を、自分に掛けたのだろう。
巨大な旗が振られた瞬間、竜人は凄まじい速度で、加藤に向け突っこんだ。
彼の持つ剣が、加藤の体を二つに切りさく。
背後から、ローリィの悲鳴が聞こえた。
観客席の音がピタリと止んだ。
試合場には、竜人の背後からその首筋に大斧を沿えている、加藤の姿があった。
竜人が切ったのは、加藤が動いた後の残像だったのだ。
旗がひらめくと、会場中がどっと沸いた。
加藤が手を振ると、女性からの黄色い歓声が飛ぶ。
振りかえると、長身のローリィが、小さなシリルに抱きつき泣いていた。
俺はため息をつくと、武闘場への通路を降りた。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる