ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第十章 奴隷世界スレッジ編

第35話 人族の王国(2)

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 ここは、スレッジ世界、人族が住むヒュッパス大陸。
 ガーベル新皇帝として最初の仕事は、国を挙げての就任式だった。
 二十余りの政治区を始め、十余りの自治区からも、祝賀のために要人が帝都を訪れていた。ドワーフ国王都のそれにも負けない規模の武闘場は、そういった人々はもちろん着飾った貴族でごったがえしていた。

 今日は、祝賀を祝う武闘も予定されており、裕福な国民は、非常に高価な入場券を買い、時を今かと観客席で待っていた。

「下々は、ご苦労な事ですな」

 彼の片腕でもあり、クーデターの共同立案者でもあるブカレー公爵が唇の片端をきゅと上げる。
 歪んだ顔に浮かぶ笑いには、心底この場に来ている者たちを馬鹿にする気持ちが込められていた。

「だから、ヤツらは、ヤツらなのだ」

 今日の催しには、多数の国民が手弁当で参加していた。
 国を盛りげようというキャッチフレーズの元、集められた人々は、自分が政府首脳部にいいように使われていると気づいていない。

「奴隷は命令せぬと働かぬが、こやつらは自分から働くからの」

 武闘場への入場チケットや周囲の店舗は、このイベントに合わせ特別に料金が上乗せされているが、それはそのまま国庫、つまりガーベルの懐に入ることになっている。
 そして、その富を使い、貴族、配下にクーデターでの功績に見合った褒美が渡されることになっている。

 支配するガーベルから見れば、自分はビタ一文払わず、それを国民や貴族に負担させることができる。その上、この行事自体から莫大な収益を得ることができるのだから、笑いが止まらない。
 
 これからの事を考えれば、富はいくらでも必要だからな。
 ガーベルには、すでに輝かしい未来の設計図が、ありありと見えていた。

「ところで、例の計画はどういたしますか?」

「そうだな。
 まず、ドワーフ皇国と正式な同盟を結んでからになるな」

「いよいよで、ございますなあ」

「ああ、この世界でくすぶっていた我が帝国は、これからポータルズ世界群制覇への第一歩を踏みだすことになる」

「心が踊りますな!」

「わははは、そのとおりだな!
 だが、まずは『巨人の里』を手に入れねばな」

「そうです。
 まずは、あそこにある神樹とドラゴナイトを手に入れませんと、何も始まりませぬ」

「ドワーフ皇国をソラルが支配した今、『巨人の里』を守ろうなどという者は、いないからな。
 ブカレー、あやつらは、どうしている?」

「神樹が手に入り次第、魔道武器の製作に取りかかる準備ができております」

「よかろう。
 引きつづきソチに任せるぞ」

「ははっ」

 ◇

 その頃、ガーベル新皇帝に「あやつら」と呼ばれた男たちは、帝都にある研究施設に集められていた。
 
「ケーシー様、新国王は、本当に約束を守ってくれるでしょうか」

「……何とも言えないな。
 私たちには、技術くらいしか渡せるものがない。
 もし、十分な研究成果をあげなければ、遠からず処分されるだろう」

「そ、そんな……」

 学園都市世界から逃げてきた賢人ケーシーは、何でも論理的に考える習慣が身に着いているから、あまり良いとは言えない自分たちの状況を、冷静に分析することができた。

「おい、そんなことになったら、俺たちもお役御免になるんじゃないか?」

 不安そうな顔をしているのは、ビガという竜人族の男だ。彼は、竜人世界から追放の形で獣人世界に放りだされていたのをハンターに捕えられた。
 この「ハンター」と言う言葉は、スレッジ世界から獣人世界へ、あるいは他のポータル世界へ、奴隷や闘士を求めて旅をする者を指す。

「とにかく、当面は、協力して目の前の事に当たらねばなるまい」

 このグループの実質的なリーダーであるケーシーが結論づける。

「はい、そうですね」
「ああ、そうだな」

 浮かない顔の面々が、ケーシーの言葉に同意する。
 ケーシーは、鍋の外に逃れ、かえって直火に焼かれることになった魚のような心境だった。
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