477 / 607
第十一章 ポータルズ列伝
キャロ編 第5話 ギルドの夕方~夜
しおりを挟む昨日は夕方にごたごたがあって、あまりギルドの様子を話せなくてごめんなさい。
今日は、がんばってウチを紹介するわ。
夕方になると、討伐、採集に行っていたほとんどの冒険者が帰って来て、ギルドが賑わうという話はしたわね。
その後は、食事をしたり、お酒を飲んだりすることが多いの。
ギルドの受付がある部屋があるでしょ。
そうそう、壁に依頼の紙が貼ってある部屋よ。
あの部屋にいくつか置いてある丸テーブルで、皆が食事やお酒を飲むの。
ちょっと冒険者たちの話を聞いてみましょうか。
「しかし、昨日のハゲは許せんかったよな」
「「「キャロちゃん、イジメた!」」」
「二度とあんなことがねえように、気をつけようぜ、みんな!」
「「「おー!」」」
「ところで、お隣さん。
今日の討伐はどうだった?」
「ああ、『ブレイブズ』の皆さんか。
森の中で、ゴブリンの群れと遭遇しちまってよ。
死ぬかと思ったぜ。
あんたらの方は、どうだった?」
「もうからっきしさ。
俺たちゃ、ワイバーンを探しに行ったんだが、一匹も見えねえから帰ってきたぜ。
これじゃ、大赤字だ」
食べたり、飲んだりだけではなく、パーティ同士で、その日の討伐を自慢し合ったり、情報を交換したりするのよ。
これも、冒険者の大事な仕事なの。
「ワイバーンって、本当にいるのかね」
「昨日、『ハピィフェロー』がダートンまでの街道沿いで一度に三匹も見たらしいぜ」
「かーっ!
また、あいつらに先越されたか。
例のゴブリンキング討伐から、あいつら調子づいてるな」
「まったくだ、俺たち『やさしい悪魔』もあやかりたいぜ」
「そういや、例のルーキー、最近姿を見ねえけどどうしたんだ?」
「ああ、シローのことだろ?
お前らがちょうどダンジョンに遠征してた時、獣人国へ行ったぜ」
「へー、ってことは、ポータル潜ったんだな」
この世界は、他の世界と『ポータル』っていう門のようなモノで繋がってるの。
だから、それを使えば、他の世界へ移動することもできるのよ。
「ああ。
冒険者になってそうたってねえのに、すげえヤツだよな」
「確かにな。
それにヤツは、ランクが上がっても偉ぶらねえからな」
「シローのヤツ、女王陛下やリーヴァスさんとも知りあいだっていうぜ」
「雷神リーヴァスか!
凄えな。
お前ら、あの人が戦うところ見たことあるか?」
「いや。
でも、お城勤めを辞めて、ギルドで指導役をするって聞いてるぜ」
「なにっ!
俺、絶対あの人と討伐行きたいよ」
「あんたなんかじゃ、まだまだ無理よ」
「リリー、そりゃねえだろ。
こう見えて、俺、銀ランク長えんだぜ」
「私、一度リーヴァスさんが戦うところを見たことあるのよ」
「おいっ、本当か!?」
「そりゃ、凄え。
で、どうだったい、あの人の戦いは?」
「どうだったもなにも……センライ地域知ってるでしょ」
「おサルさんが、いるところだろ?」
「ホワイトエイプね。
あそこに盗賊団が現れたでしょ」
「そういや、三年程前に、そういうことがあったな」
「盗賊団のボスが騎士崩れでね。
騎士団が何度か討伐に向かったんだけど、ボスが騎士の手口をよく知ってるから、なかなか討伐できなかったのよ」
「ああ、それは俺も聞いたことあるな」
「センライの隣にタリー高原あるでしょ。
その日、私たちは、そこでコボルト討伐をして、帰る途中だったの」
部屋の皆が、リリーさんの周りに集まってきたわ。冒険者は、話し上手が多いのよ。
「森から出てホッとしたから、油断しちゃったのね。
木立に隠れてた盗賊団に囲まれちゃったのよ。
敵は二十人以上、私たちは六人でしょ。
もう絶対絶命。
死を覚悟したわ」
パーティは、最低二人から組めるけど、役割分担があるから五人以上のものが多いわね。
「せめて何人か道づれにしてやろうと、私が剣を抜いた途端、盗賊が全員地面に転がってたのよ」
「魔術かい?」
「いえ、多分近接戦闘だと思う。
リーヴァスさんが、二十人を一瞬で無力化したのよ」
「ほ、ホントかよ。
こうして直に聞いても信じられねえぜ」
「リーヴァスさんが、剣を抜くところは見なかったの?」
「それが、私が見た時には、穏やかに微笑む彼が立ってるだけだったのよ」
「ひゃー、カッコイイ!」
「あこがれちゃうな~」
「さすが『雷神リーヴァス』だな!」
その方が、十年前に迷子の私をこのギルドに紹介したの。
私がここで大事にされてるのは、そういう理由もあるかもしれないわ。
ああ、リリーさんのお話はまだ続いているわね。
「結局、私たちがしたのは、ロープで盗賊を縛るだけ。
それなのに、私たちも一緒に盗賊を討伐したってことにしてくれたのよ」
「いいなー、私もそんな目に遭ってみたい」
「馬鹿ね!
死にかけて、本当に怖かったんだから」
「じゃ、パーティ『バラの棘(とげ)』は、大儲けだったな」
「ああ、その頃は、『白いウサギ』に入ってたから。
皆、盗賊の懸賞金までもらってホクホクだったわ」
冒険者は、様々な理由で所属パーティを変えることも多いの。
ずっと一つのパーティにいる方が珍しいのよ。
「いくらくらいもらったんだ?」
「確か、一人銀貨五十枚くらいだっけ」
(作者注:銀貨五十枚=約五十万円)
「はーっ!
なんだそりゃ。
うらやましすぎるぜ」
「ああ、そん時知りあってたら、おごってもらえたのにな」
「馬鹿ね。
銀貨五十枚なんか、装備一式交換してお終いよ」
冒険者は、儲けも多いけれど、出費も多いの。
装備の費用はもちろん、そのメンテナンス、怪我をした時のポーション、宿泊代や食事代。
きちんと考えてお金を使わない人は、続けられない仕事なの。
だから、冒険者になる人は多いけれど、冒険者を続けられるのは、ほんの一握りね。
今ここで、食べたり飲んだりしているのは、その一握りの人たちってわけ。
あ、キッチンのカウンターからシェフが顔をのぞかせたわ。
「おーい、ラストオーダーだぜ」
「じゃ、おれ、この酒もう一杯」
「私も、もう一杯もらおうかな」
「俺もー」
故郷でフェアリスが造るお酒に比べると、人族のお酒は今ひとつだけど、それなりには飲めるわね。
私も時々飲むのよ?
え?
私の年?
お酒が飲める年だってことだけ教えとくわ。
「みなさん、聞いてね」
「お、キャロちゃん!」
「ギルマス!」
「昨日は、助けてくれてありがとう。
最後の一杯は、私のおごりよ」
「やったー!」
「わーい!」
「だから、キャロちゃん好きー!」
「さすが、俺の天使、キャロちゃんだぜ」
変な発言も混じってるけど、みんなが喜ぶなら安いものね。
「ギルマス、そいつら甘やかさないほうがいいですぜ」
シェフが呆れ顔で忠告してくれるの。
「シェフはひっこんでろー」
「そうだそうだー」
「へいへい、どうせもう店じまいだよ」
まあ、こういう感じでギルドの夜は更けていくの。
どうだったかしら。
ギルドの事が少しは分かってもらえたかな。
実は、ポータルズ世界のギルドにはまだまだ秘密があるのよ。
でも、それは、また別の機会に。
長いこと話を聞いてくれてありがとう。
アリストに来ることがあったら、気軽にうちのギルドに立ちよってね。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる