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第十一章 ポータルズ列伝
プリンスの騎士編 第5話 ギルド訪問
しおりを挟む五人の騎士とシローは、歩いてギルドまでやって来た。
普段シローだけなら十五分ほどで着くところ、一時間近く掛かった。途中、珍しいものを見つけるたび、騎士たちが足を停めていたからだ。
彼らにとっては、初めての異世界だ。地を這う虫一匹、お店で売っている品物一つ、何をとっても、もの珍しいから、これは仕方のないことだろう。
ギルドは、目抜き通りに面した、立派な木造三階建てだった。屋根の上に大きなドラゴンの風見鶏がついており、入り口の扉は開けはなたれていた。
「こんちはー!」
シローが入り口を潜ると、いくつかの丸テーブルを囲んでいた冒険者が、ガタリと椅子から立ちあがった。
「おっ、黒鉄シローだ!」
「おはよーっ!」
「おっす!」
冒険者たちから元気な挨拶が返ってくる。
「ガハハハ、来たか来たか!」
奥から熊のように大柄なベテラン冒険者マックが出てくる。
「お、おはようございます」
「「は、初めまして」」
「おはようです」
冒険者たちの勢いに押されたのか、シローの後ろからギルドに入ってきた騎士たちは、いつもより若干テンションが低い。ただ、一人だけは違ったようだ。
「冒険者たちに、愛の魔法をプリプリどーん!」
桃騎士から『愛の魔法攻撃』を受け、さすがの冒険者たちが一歩引く。
「ふふふ、楽しい方たちね」
カウンターの向こうから女性の声がするが、姿が見えない。
「ギルマス、今日は世話になります」
シローの声を受け、カウンターの横から小さな女性が顔を出す。身長が一メートルくらいしかない彼女は、緑の中折れ帽子と緑の上下を着ており、童話に描かれた妖精を思わせた。
「まあ、なんてカワイイの!」
「「So cute!」」
「可憐!」
「か~わゆいゆい♪」
キャロを目にした騎士たちのテンションがいつもに戻る。
そのキャロが、冒険者たちに声を掛けた。
「皆さん、今日は女王陛下からの依頼を受けています。
ここにいるシローの友人たちに、ギルド体験をさせて欲しいということです。
そこで初級ダンジョンに挑戦してもらおうと思います。
今回は『古の洞窟』に行きます。
お手伝いしてくださる方?」
「「「「「はいっ!」」」」」
居並ぶ冒険者の声が見事に揃った。
「……全員ですか。
ありがとうございます。
それでは、皆さん、ダンジョンに向けて装備を整えてください」
「「「「「はいっ!」」」」」
小さなギルマスは、冒険者たちにとり、尊敬すべき存在らしい。
彼らの一糸乱れぬ返事が、それを物語っていた。
地球から来た騎士たちの、「えっ! いきなりダンジョン!?」「嘘っ!」というささやき声は、冒険者たちの勢いにかき消された形だ。
準備のためだろう、冒険者たちが部屋から出ていき、後には騎士たちとシロー、マック、ギルマスのキャロだけが残った。
いや、よく見ると、壁際でもじもじしている二人の少年と一人の少女がいる。
「今日は、この『星の卵』というパーティも、皆さんとご一緒します」
キャロが三人の背中を押し、騎士たちの前に連れてくる。
「は、初めまして。
リーダーのスタンです」
「こ、こんにちは。
私、スノーです」
「ボク、リンドです」
「ガハハハ、こいつらが、昨日お前さんたちが食べたハーフラビットを森で獲ってきたんだぜ」
熊のように大きなマックが、そのごつい手で少年少女三人の頭を撫でると、彼らの上半身がぐるんぐるんと揺れた。三人は、目を白黒させている。
「じゃ、騎士の方たちは五人ともギルドに登録しますから、パーティ名とパーティリーダーを決めてください」
キャロの言葉で騎士たちが円陣を組んで話しあいを始めた。
「パーティ名はやっぱり……」
「「「「「プリンスの騎士!」」」」」
「リーダーなんて面倒臭いのは、白騎士で十分よね」
「「「「賛成ーっ!」」」」
白騎士は少し涙目になっているが、あっという間にパーティ名とリーダーが決まった。
この五人、妙なところで団結力がある。
「では、ギルド章をお渡ししますが、こちらの『冒険者入門』という本は読めないでしょうから、私が口頭で説明しますね」
でき立てのパーティ『プリンスの騎士』は、キャロの周りに集まり、真面目な顔で冒険者としての注意事項を聞いている。
三人の少年少女はシローの周りに集まり、指示を受けている。
「俺は参加しないから、三人ともマックさんの言う事をよく聞くんだよ。
先輩たちの動きをよく観察することが、冒険者として上達するコツだからね」
「「「はいっ!」」」
史郎の言葉を食いいるように聞く、冒険者になって間もない三人の目はキラキラ輝いていた。
装備を整えた冒険者が次第に集まりだし、キャロが騎士の五人に諸注意を伝えおわるころには、待合室が人で一杯になった。
「では、みなさん、気をつけてダンジョンに行ってきてください。
ダンジョン初挑戦のパーティ、『星の卵』と『プリンスの騎士』を守ってあげてくださいね」
「「「「「おおー!」」」」」
キャロの言葉に冒険者たちが気勢を上げた。
「じゃ、いっちょダンジョンまで行ってくるか!」
マックの掛け声で、みなギルドから外に出た。
一行はギルド前でパーティごとに隊列を整えると、ダンジョンに向け出発した。
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