ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第十一章 ポータルズ列伝

異世界通信社編(3) フランスからの招待(1)

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 帰還パーティの後、後藤と遠藤はその後片づけをしている。『ポンポコ商会』のみんなは、ここが住居である白騎士さん以外、それぞれ自宅へ帰った、  
 リーダーのシローと私は、カフェの地下にある、『異世界通信社』の社長室で、懸念の事案について話している。

「そうですか、フランス大統領からそんな話がね」

「シローは、どうしたらいいと思います?」

 私は二人だけの時に使うと決めた『シロー』という名前を使った。
 以前、彼が家族を伴い地球に帰ってきたとき、『ルル』という名の女性が、彼をそう呼んでいるのを聞いて以来そうしている、

「そうですねえ、ちょっと気にかかることもありますが。
 ここは、招待を受けておいてください」

「ええ、もうその方向で調整に入っています」

「フランスには俺が送りますから、荷物だけ用意してもらえばいいでしょう」

「もしかして、瞬間移動ですか?」

「ええ、パスポートの問題は、俺が何とかしときますから」

「そんなことができるんですか?」

「ええ、俺たちがアメリカに行くとき、そうしたことがありますから」

 そう言えば、『初めの四人』でアメリカ旅行したことがあったわね。

「では、お任せします」

「あ、そうそう、これ、お土産です」

 テーブルの上に、立方体の青い箱二つが現われる。

「こちらが、『ポンポコ商会』のみんなからのお土産で、これは俺の家族からのお土産です」

「ウチのみんなも、柳井さんに会いたがっていましたよ」

「そんな……あ、ありがとうございます」

 ◇

 リーダーが瞬間移動で部屋から姿を消すと、私は彼が座っていたソファーの背に手を当てた。
 そこに触れると、まだ彼の体温が残っていた。
 目を閉じ、その温かさを味わう。
 
 ノックがしたので、慌てて自分のデスクに戻る。

「どうぞ」

「社長、後片づけ、終わりました」

 肘の所までシャツをまくり上げた、後藤が入ってきた。

「ご苦労様」

「あっ、これ、リーダーからのお土産ですね?」

「え、ええ、そうよ」

「開けてもいいですか?」

「そうね。
 せっかくだから、遠藤も呼んできて。
 みんなで開けましょう」

 この後、社長室ではしばらく、驚きや喜びの声が続いていた。

 ◇

 フランス訪問当日、『異世界通信社』の三人は、社長室に集まった。
 現在、時刻は午後五時だが、時差の関係でフランスへ着くのは朝になるはずだ。 
 
 何も無い空間がゆらめき、肩に白い子猫を乗せたリーダーが現われる。
 彼は、いつものくすんだカーキ色の長そで長ズボンを着ている。それは冒険者用の衣装だそうだ。頭に巻いた茶色い布もいつも通りだ。

「こんにちは。
 みなさん、荷物はこれだけですか?」

「ええ、そうよ。
 リーダー、今日はお世話になります」

 私の前に置いてあった、茶色の旅行ケースが一瞬で消えた。
 後藤、遠藤の荷物も消えている。
 まだそういったことに慣れていない遠藤が、目を丸くしている。
 
「では、手を繋いでください」

 私たち三人が手を繋ぐと、リーダーが私の空いた方の手を取った。

「行きます」

 次の瞬間、私たちは、落ち着いた雰囲気の広い部屋にいた。窓の外には、ヨーロッパらしい街並みが広がっている。その中に見えるいくつかの歴史的建造物で、ここが間違いなくパリだと分かった。 
 
 窓の外を眺め、ぼーっとしている私たちをそのままにして、リーダーは室内にある電話を掛けたり、私たちの荷物を魔法の収納から出したりしていた。

 ノックの音で彼がドアを開けると、口ひげを生やした上品な初老の男性が立っていた。
 
「支配人、久しぶりです」

「おおっ!
 お久しぶりです。
 お帰りなさいませ、シロー様」

 恐らくフランス語で話しているのだろうが、私は彼の言っていることが全て理解できた。リーダーからもらった他言語理解の機能を持つ指輪のおかげだ。

「今回は、五日ほどお世話になります」

「はい、ごゆっくりなさってください。
 何かあれば直接私へご連絡を」

 支配人が、電話番号が書かれたカードを置き出ていく。
 一流ホテルの支配人がそこまで気を遣っているのにちょっと驚く。
 なんでだろう。
 
「会見は明日の夕方ですから、それまで街を見てまわりましょう」

 リーダーの言葉で、私たちは街へと出かけた。

 ◇

「ちょ、ちょっと休みませんか?」

 毎日身体を鍛えているはずの後藤が弱音を吐く。
 
「そうですね。
 お腹も空いてきましたし」

 荷物を足元に降ろし、ハンカチで額の汗を拭きながら、遠藤もそれに賛成した。

「二人とも、元気がないわねえ。
 まだ、何も見てないじゃない」

「ええっ!
 美術館三つに、お店五軒ですよ。
 何も見てないってことは――」

「そんな事では、フランスの文化が十分味わえないわよ。
 これでも、一番行きたいルーブルを我慢してるんだから」

「ははは、二人とも、こういった事に慣れてないんでしょう」

「リーダーは、疲れてない?」

「俺は、記録と買い物に忙しくて、疲れるどころじゃありませんよ」

 彼は、家族に見せるため、美術館の絵画を「点ちゃん写真」とやらに記録しているそうだ。
 高級ブランド店で、大量の買い物をしていたが、それも家族へのお土産らしい。

「ここはホテルから近いし、一旦、部屋へ戻りましょう。
 彼らも荷物から解放されたいでしょうから」

 リーダーが言っているのは、後藤と遠藤が持っている荷物のことだ。人前で荷物が消えると何かと都合が悪いので、二人が持っていたのだ。
 手に持った袋と箱で、彼らの両手は塞がっている。
 
「あら、いつの間にか荷物が増えてたのね。
 ご苦労様」

「しゃ、社長~、た、頼みますよ~」

 後藤の情けない声を聞き、ここは仕方ないと思いきった。

「分かりました。
 一度、ホテルへ戻りましょう」 
 
 ホテルに帰った私たちを、意外なお客が待っていた。

 ◇

 ホテルの玄関を潜るなり、支配人が小走りに近寄ってきて、リーダーに何か耳打ちする。
 リーダーが軽く頷くと、支配人は恭しく礼をして、受付カウンターの後ろへ消えた。 

「リーダー、何かありました?」

「柳井さん、お客さんが来てるようです。
 彼と食事になるかもしれません。
 もしかすると、午後の買い物はできないかもしれません」

「お客さん?」

 リーダーは、私の耳に口を近づけると囁いた。

「フランス大統領です」
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