ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
545 / 607
第十二章 放浪編

第15話 酸の海

しおりを挟む

 その夜、俺は床が無く、地面がむき出しの部屋で寝た。
 森でたっぷり昼寝したので、なかなか寝つけない。
 銀仮面が用意してくれた、マットレス代わりの枯草と毛布はそのままにしておき、点収納からコケットと毛布を出す。
 サイドテーブルも出し、エルファリアのお茶を用意する。
 コケットに横になり、腰から下に毛布を掛ける。
 それを見たブランが、すぐにおヘソの辺りに上がってきて丸くなる。
 猫は沢山寝る動物だからね。本当はスライムだけど。

 食事の後で、銀仮面が話したことを考えてみる。 
 ヤツの言っていることは無茶苦茶だが、こちらが元の世界に帰りたいというのは確かだ。
 銀仮面は、もしかすると頭がイイのかもしれない。
  
 パンゲア世界、アリストでは、俺が帰ってこないから家族が心配しているはずだ。
 ナル、メル、リーヴァスさん、コルナ、コリーダ、ルル。
 家族の顔が次々と浮かんでくる。
 不幸中の幸いは、地球世界へ行きたがっていた家族を連れてこなかったことだ。もし、連れてきていたら、彼女たちもこの事態に巻きこむことになっていた。

 点ちゃん、これからどうすればいいと思う?

『(Pω・) とにかく、今のままでは、分析しようにも情報が少なすぎます』

 そうだよね。
 まずは、情報収集っていう方針でいいかな?

『(・ω・)ノ それでいきましょう』 

 了解。
 やること決めたら、なんか眠くなってきたな。

『(*ω*) 昼間、あんなに寝たのに? だいたい、ご主人様は――』

 点ちゃんのお叱りの言葉は、薄れゆく意識の中まで入ってこなかった。

 ◇

 昨日、たっぷり睡眠を取ったからか、起きるとまだ夜明け前だった。
『枯れクズ』のネックレスで周囲を照らし、テーブルの上にあるカップを手にする。
 エルファリアのお茶は、冷めても風味がよい。
 それを飲みほしてから、コケットとテーブルを点収納に一旦しまう。

 まだ寝ているブランは、左脇に抱えている。
 音を立てないように、小屋から外にでて、その周囲をとり囲む木のカーテンを抜ける。

 まだ暗い森の中は、全てが眠っていた。それは俺が好きな風景の一つだ。
 夜の森は、どの世界でも変わらないな。

 木々と交信する力を使い、開けた場所を探す。
 恐らく北だと思える方角に、森の切れ目があった。
 木々と話せるようになってから、方角が分かるようになったんだよね。
 
 北に点を飛ばし、それが森を抜けるのを待つ。
 森を抜けた場所がどうなっているか、点からの映像を受信する。
 森の向こうは草原が広がり、そのさらに北は、耕作地になっているようだ。
 
 俺は偵察に利用した点を使い、その場所へ瞬間移動で跳ぶ。
 草地に点ちゃん1号を出し、それに乗りこむ。

 はるか上空に1号を固定し、日の出を待つ。すでに空の一部が白みかけているから、間もなく夜が明けるだろう。
 さっきしまったばかりのコケットを出し、それに腰掛ける。備えつけのテーブルの上に、蜂蜜が掛かったクッキーと熱々のお茶を出す。
 日本で買ってきた砂糖、和三盆を甘味としてお茶に入れる。
 今日はたくさん動くことになりそうだから、たっぷりカロリーを取っておこう。
 
『( ̄ー ̄)つ これで昼寝してゴロゴロしたら太りますよ。大丈夫ですか?』  

 点ちゃん、その顔は疑ってる、疑ってるね。
 そんなことするわけないじゃん。
 だけど、クッキー食べたら、少し眠くなってきたな。
 起きたばかりだけど、横になってもいいよね?

『(; ・`д・´) 良いわけあるかいっ!』
 
 ◇

 やがて太陽が顔を出すと、『田園都市世界』の全貌が顕わになってくる。
 この世界は海に囲まれた比較的小さな大陸が一つだけあり、後は小さな島が散在している。
 荘厳な朝の光に照らされた海は、妙に白っぽい色をしていた。

 高度を下げ、海の水を採集する。
 海面から二十メートルほどの所から、シリンダー型にしたシールドを下ろしていく。

 それが海面に触れたとたん、巨大な触手がシリンダーを海に引きずりこんだ。
 もう少し機体を下げていたら、触手がこちらに届いていたかもしれない。
 危ないところだった。 
 触手はタコのような軟体動物のものではなく、黒い殻に覆われ、いくつも節があった。

 二つ目のシリンダーは、無事海水を採取して戻ってきた。
 点ちゃん、どうだい?

『(Pω・) ふむふむ、かなり強い酸性ですね』
 
 かなり強いってどのくらい?

『(・ω・)ノ 地球世界の基準でpH2ってところでしょうか』

 えええっ!
 ホントに強い酸性だ。
 よく生き物が棲んでるね」

『(Pω・) 恐らく長い年月をかけて、この海に順応したのでしょう』

 しかし、この海だと、『海の幸』は期待できそうにないな。
 銀仮面が、この世界は人口の割に生産力が低いと言ってたけど、あれは本当かもしれない。

 さて、お次は大陸の調査だな。
 点ちゃん、行こうか。

『く(・ω・) 了解!』  
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...