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第十二章 放浪編
第26話 BBQ
しおりを挟む「ふう、思ったより大変だったね」
『(・ω・) まあ、とりあえず、こんなものでしょう』
俺と点ちゃんは、街の中心近くにある教育施設に来ている。
銀さんがこの社会を新しく変えていく、そのお手伝いをしているわけ。
俺がいるのは、教室として使われていた部屋だが、今ここには『旅立ちの森』の書庫に収められていた本が、テーブルの上に幾山かに分けて積んである。
これからの事を考え、本を分類しなおしたのだ。
そして、同じく俺と点ちゃんが用意した写真集が、山積みになっている。
写真集には、異世界で人々が生活している様子を撮った写真が貼りつけられている。銀さんは、それを教科書として使い、この世界の子供たちに、彼らがどう生きればいいか教えていくそうだ。
街の大人たち何人かと話してみたが、誰一人、この世界の現状を理解できる者はいないようだった。
彼らは簡単な言葉しか話せないから、無理もない。
人々のボウっとした表情は、彼らが受けてきた教育により、その知性を奪われた証拠に思えた。
この社会が変わっていくのは、子供たちの代からになるだろう。
『罪科者』たちの最後を映した動画も用意してあるが、この状態の彼らに見せても良い結果が出るとは限らない。銀さんがいずれ公開するかもしれないが、そこは彼女の判断に任せよう。
「シローさん、ご苦労様です」
「兄ちゃん、ご苦労様ー!」
ドアを開け、銀さんとタムが入ってくる。
「これから使いやすいように、本の分類はしておきました」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「俺がもう一度この世界に帰って来れるなら、いろんな問題も解決すると思います」
「えっ!?
どういうことでしょう?」
「まず、エネルギーの問題ですが、これはある方法で解決できる目途が立っています。
次に、ここの海には膨大な資源が眠っています。
それを使って異世界と貿易できれば、食糧問題も解決すると思います」
「ボウエキとは何でしょうか?」
「簡単に言うと、品物と品物を交換することです。
ここの海底から採れる貴重な金属は、どの世界でも欲しがるでしょう。
食料と交換すればいいのです」
例の巨大カニの甲羅を分析したら、アダマンタイトやミスリルが含まれていたのだ。それはつまり、そういった金属の鉱脈があるということだ。
「それより、今日の夕食はバーベキューにしませんか?」
「兄ちゃん、バーベキューってなんだ?
お好み焼きより、うめえのか?」
タムはすでに目を輝かせている。
「楽しみにしておくといいよ。
飛びきりの食材があるからね」
「わーい!」
よほど嬉しかったのだろう。タムは部屋を飛びだしていった。
◇
夕方前、森の小屋に帰った俺は、さっそくバーベキューの用意をしている。
点魔法で作ったアウトドア用のバーベキューコンロを小屋近くの草原に置き、火魔術で炭に火を点ける。
点収納から、ティッシュボックスくらいの大きさに切りわけた食材を取りだす。
それは、ぷるぷると弾力がある白い肉だった。
「兄ちゃん、これなに?」
タムは、口の端によだれをつけている。
「まあ、食べてからのお楽しみだよ」
醤油ベースのつけ汁を、刷毛でその肉に塗る。
コンロの上に置いたその肉は、ジューっといい音を立てた。
「うわーっ!」
「ミー!」(美味しそう!)
タムとブランが歓声を上げる。
あまり焼かないうちに、肉を裏返す。
焼けた白い肉からは、何とも言えない香ばしい匂いが立ちのぼった。
表面の焼けたところをナイフで削りとり、醤油ベースのタレにつけてから、タムの皿に載せてやる。
それにライムの絞り汁を回しかける。
「よし、いいぞ。
熱いから気をつけろよ」
タムは先が二股に分かれた木の串で肉を刺し、それにかぶりついた。
「……!」
彼は目を白黒させてるだけで、何もしゃべらない。
「おい、どうなんだ?」
「うっ、うっめーっ!
なんだこれ!
旨すぎるよっ!」
銀さんが目を細め、そんなタムの様子を見ていた。
彼女のお皿にも、削った肉を置く。
「ほんと、いい匂いがするわ」
肉を口にしたら、彼女もやはり目を白黒させた。
「なっ、なんなのこれっ!
上品で繊細な味。
美味しいなんて言葉じゃ表せないわね!」
「でしょ、俺もこの味には驚きましたよ」
俺は前もって味見しておいたからね。
ブランが、俺の頭を肉球でぺしぺし叩く。
「あ、ブラン、ごめんよ」
慌てて肉を一切れブランに渡す。
「フガフガっ!」(うまうまっ!)
ブランがこれほどがっつくのも珍しい。
俺も食べますか。
『(^▽^)/ わーい!』
俺が食べると、感覚を共有している点ちゃんも味わえるからね。
しばらく三人と一匹は、夢中で肉を口にした。
やっぱり、このお肉食べる時って、みんな無口になるんだね。
この肉最高! まさに夢の肉!
「ハァハァ、兄ちゃん、これって何の肉なの?」
息を切らす勢いで肉を食べていたタムだが、焼いていた肉が無くなると、そう訊いてきた。
「これね、『岩蟹』のお肉だよ」
海底洞窟で獲った巨大なカニに、そんな名前をつけておいた。
「イワガニ?」
「海に住んでいる生きもので、手がこんなになってる」
俺は両手をチョキの形にした。
「へえ、指が二本しかないのか」
「いや、指じゃなくてね、こうなってる」
点ちゃん収納に入れていた、巨大なカニの前足を、草の上に出してやる。
「ひゃーっ!
でっかいなあ!」
タムは、三メートルはありそうなカニの前足に恐る恐る近づく。
彼の身体より大きな爪を、指先でちょんちょんとつついている。
「すっごく硬いね。
こんなのどうやって捕まえたの?」
「俺の友人に頼んだんだよ」
「そう言えば、兄ちゃん、自分の中にトモダチがいるって言ってたよね」
「ああ、そうだよ。
遅くなったけど紹介しようか。
点ちゃん」
『(*'▽') はいはーい、タム君、点ちゃんだよー』
「あれ?
頭の中で声が聞こえる!」
「タムも、頭の中で話しかけてごらん」
「やってみる。『こんにちはー!』」
『(*'▽') はーい!』
『点ちゃんって言うの? ボクはタムです。点ちゃんがイワガニ獲ったの?』
『(*'▽') そうですよー!』
『すっごーい! 点ちゃん、強いんだね!』
『ぐ(^ω^) えへへ』
『点ちゃんさんですか? 銀と申します』
銀さんが念話に加わった。
『(^ω^) こんにちはー』
『私とタムを助けてくれてありがとう』
『(*'▽') いえいえー』
お、珍しく点ちゃんが謙遜してるな。
『(・ω・)つ ご主人様も、たまには謙遜してください』
はい、いつもお世話になっております。
心から感謝しております。
『( ̄ー ̄) なんか気持ち悪いからもういい』
ええーっ!
言われたとおりしただけなのに……。
最高の食材を使ったバーベキューは、夢のような味の記憶と、小さな心の傷を俺に残した。
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