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空知音

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第十二章 放浪編

第25話 旅立ちの儀

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 瞬間移動先に選んだのは、『旅立ちの森』の建物一階のロビーだ。
 その空間は誰も人がおらず、ガランとしていた。
 自分とブランに掛けた透明化はそのままにしておき、様子をうかがう。
 それほど待たず、入り口の扉が開くと、自走車が五台、前後して入ってきた。

 ロビーに停められた自走車から、銀仮面が一人ずつ降りてくる。
 その内二人が自走者の荷台から、荷車のようなものを下ろした。
 残りの三人は、別の荷台から紐で縛られた銀ちゃんとタムを下ろす。二人は気を失っているように見えた。
 銀さんは、仮面を外したままだ。

 銀仮面たちは、銀さんたち二人を荷車に載せると、入り口正面にある大きな内扉の前に並んだ。
 唐草模様のような浮彫がある内扉が、ゆっくり両側の壁に引きこまれていく。
 現れたのは、ドーム型の広い空間だった。
 
 荷車を押す銀仮面たちに続き、姿を消した俺がそこに入っていく。
 扉の内側には円形の空間が広がっており、その中央には黒く大きな半球があった。

 半球は高さが十メートル、直径が二十メートルほどありそうだった。
 一人の銀仮面がその半球に触れると、床と接する一部が手前にせり出す。
 それは、黒い巨人が吐きだす舌のように見えた。

 足音がしたので振りかえると、背後の入り口から、銀仮面たちが入ってくるところだった。
 数えてみると十四人いる。銀さんとさっきの五人を含めると、二十人の『罪科者』全員がここに集まったことになる。

 やや背が高い銀仮面がローブから白いシリンダーを取りだすと、それを銀さんの腕に当てた。

「ううう」

 荷車の上に横たわる銀さんを、銀仮面たちがとり囲む。
 一番小柄な銀仮面が、意識を取りもどしかけた銀さんに話しかける。

「四号、聞こえるか?」

「うう、ここは?」

「『旅立ちの部屋』だ」

 答えたのは、一番背が低い銀仮面だった。点ちゃんからの情報は、それが「一号」と呼ばれる銀仮面の議長だと告げていた。

 上半身を起こした銀さんが、大きな黒い半球を目にし、恐怖に顔を歪める。そして、傍らに横たわるタムに気づくと、すぐに彼を抱きおこした。

「なぜ、こんなことをした?
 仮面を外せば、掟に背いたことになるのだぞ!」

 銀さんは、議長の問いかけに応えず、タムを抱きしめたままだ。

「二号によると、誰かが書庫に侵入した形跡があった。
 侵入者は、自分の靴底の痕が、書庫に残っていたのに気づかなかったようだな。
 お前、『稀人』が書庫に侵入する手引きをしたな?
 それに、その子供は未登録だな。
 いったい、どこから連れてきた?」

 銀さんは、何も答えない。
 あちゃー、足跡でバレちゃったか。
 これは、隠れても意味がないかな。

「答えるつもりはないようだな。
 まあよい。
 お前とその子供には、今から『旅立ちの儀』を受けてもらう。 
 その内、『稀人』も捕まえて処分する」

 俺は、自分とブランに掛けた透明化の魔術を解く。
 突然目の前に姿を現した俺に、銀仮面たちがどよめき、少し後ずさった。

「こんにちは。
 まだ自己紹介もしてなかったな。
 俺はシロー。
 異世界から来た冒険者だ」

「い、一体、どういうことだっ!?
 どこから現れた!?」

 銀仮面の一人がそう叫んだ。

「あんたら、さっき、銀ちゃんとタムに『旅立ちの儀』を受けさせ処分(・・)すると言ったな?」

「そんなことが、お前に関係あるのか?」

 そう言ったのは、一際背が高い銀仮面二号だ。  

「大ありだ。
 というか、そのセリフでお前たちの嘘がバレたぞ」

「どういうことだ?」

 そう言いながら、二号はローブの中に手を忍ばせる。きっと麻酔銃を取りだすつもりなのだろう。

「お前たち、『罪科者』は、他の者に代わり罪を背負って生きているはずだよな。
 それが本当なら、『旅立ちの儀』は生きているという罪からの解放になるはずだろう?
 お前がさっき言った『処分』という言葉が、その全てを否定してるんだよ」

「う、うるさいっ!
 皆、やってしまえっ!」

 数人の銀仮面がローブから麻酔銃を取りだし、それで俺を撃つ。
 俺がゆっくり床に崩れおちると、二人の銀仮面が俺の身体を台車に載せる。
 
 銀仮面一号が黒い半球に触れると、そこから突きだした箱型のものの上部に埋めこまれたローラーが動きだす。
 それと同時に、箱型の付け根が接している部分の半球が円形に口を開ける。
 中には禍々しく揺らめく、青い光が見えた。

 台車からローラーに載せられた俺の身体が、そこへ向けゆっくり動いていく。

「これが『処分』か。
 処分した者は肥料となり、お前たちが食べる穀物を育てるのに使われるわけだな」

「な、なんだとっ!?
 お前、麻酔銃をくらって、まだ話せるのか!?」

 二号が驚きの声を上げる。 
 
「当たり前だろう、麻痺などしていないからな」

 俺は横たわった姿勢のまま右腕を上に伸ばすと、指を鳴らした。
 一瞬で俺と銀仮面二号の身体が入れかわる。  

「な、なんだっ!?」

 ローラーの上に載った銀仮面二号が叫ぶ。

「う、動けないっ!?」
「ど、どういうことだ!?」
「動けないぞ!」

 二号だけでなく、全ての銀仮面が騒ぎだす。
 その間にも、ローラーの上に載った二号の身体は、黒い半球に開いた穴に近づいていく。

「や、やめてくれっ!
 死にたくない!
 助けてく――」

 二号の身体は、穴の中で青い光に包まれた。
 動けなくなった銀仮面が、次々と宙に浮き、ローラーの上に載る。

「た、助けて――」
「や、やめてく――」
「た、頼む、欲しいものを何でも――」

 俺は、最後に一人だけ残しておいた銀仮面一号を正面から見た。
 彼の銀仮面がまっ二つに割れ、素顔が現われる。
 広い空間に、落ちた仮面が立てるカランという音が響いた。
 現れたのは、老人特有の茶色い染みがたくさん浮きでた、醜く歪んだ顔だった。

「改めてお前に尋ねよう。
 ここで行われてきた『解放の儀』は、生きながら積みかさねてきた罪から解放されるための尊い儀式だな?」

「ち、違う……。
 いえ、違います!」

「では、『解放の儀』とは何だ?」

「せ、生産力が低いこの世界で、人口をコントロールするための仕組みです」

「簡単に言えば、人々は、お前ら『罪科者』が生きのびるために利用される、人身御供だな?」

「は、はい、そうです」

「では、今度は、お前が皆のためにその身を捧げる番だ」

「そ、そんなっ!
 ほ、本当の事を話したのだぞっ!」

「ああ、ご苦労さん、これからこの世界で生きていく人たちのために利用させてもらうよ」

「く、くそうっ!
 よそ者がっ!
 お前を『解放の儀』に処してやるっ!」

 あれ、コイツ、ちょっと壊れてる?

 銀仮面一号は、わめき散らしながら、青い光の中へ消えていった。

 意識を失ったままのタム少年を抱きしめ、呆然としている銀さんに近づく。

「シロー、あなたその顔……」

 あっ、俺、またマジ顔やっちゃった?

 両手のひらで自分の顔をつるりと撫でる。 
 
「さて、要らないものは、処分しちゃおうか」

 指を一つ鳴らす。

 キュンっ

 巨大な半球状の黒い装置は、一瞬で姿を消した。
 広い円形の部屋に残ったのは、俺とタムを抱いた銀さんだけだ。

「さて、森の小屋に帰って、タムと一緒にお好み焼きでも食べましょうか」

「シロー、あなたは一体……」

 銀さんは何か尋ねたそうだったが、その後は黙ったままだった。
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