ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
555 / 607
第十二章 放浪編

第25話 旅立ちの儀

しおりを挟む


 瞬間移動先に選んだのは、『旅立ちの森』の建物一階のロビーだ。
 その空間は誰も人がおらず、ガランとしていた。
 自分とブランに掛けた透明化はそのままにしておき、様子をうかがう。
 それほど待たず、入り口の扉が開くと、自走車が五台、前後して入ってきた。

 ロビーに停められた自走車から、銀仮面が一人ずつ降りてくる。
 その内二人が自走者の荷台から、荷車のようなものを下ろした。
 残りの三人は、別の荷台から紐で縛られた銀ちゃんとタムを下ろす。二人は気を失っているように見えた。
 銀さんは、仮面を外したままだ。

 銀仮面たちは、銀さんたち二人を荷車に載せると、入り口正面にある大きな内扉の前に並んだ。
 唐草模様のような浮彫がある内扉が、ゆっくり両側の壁に引きこまれていく。
 現れたのは、ドーム型の広い空間だった。
 
 荷車を押す銀仮面たちに続き、姿を消した俺がそこに入っていく。
 扉の内側には円形の空間が広がっており、その中央には黒く大きな半球があった。

 半球は高さが十メートル、直径が二十メートルほどありそうだった。
 一人の銀仮面がその半球に触れると、床と接する一部が手前にせり出す。
 それは、黒い巨人が吐きだす舌のように見えた。

 足音がしたので振りかえると、背後の入り口から、銀仮面たちが入ってくるところだった。
 数えてみると十四人いる。銀さんとさっきの五人を含めると、二十人の『罪科者』全員がここに集まったことになる。

 やや背が高い銀仮面がローブから白いシリンダーを取りだすと、それを銀さんの腕に当てた。

「ううう」

 荷車の上に横たわる銀さんを、銀仮面たちがとり囲む。
 一番小柄な銀仮面が、意識を取りもどしかけた銀さんに話しかける。

「四号、聞こえるか?」

「うう、ここは?」

「『旅立ちの部屋』だ」

 答えたのは、一番背が低い銀仮面だった。点ちゃんからの情報は、それが「一号」と呼ばれる銀仮面の議長だと告げていた。

 上半身を起こした銀さんが、大きな黒い半球を目にし、恐怖に顔を歪める。そして、傍らに横たわるタムに気づくと、すぐに彼を抱きおこした。

「なぜ、こんなことをした?
 仮面を外せば、掟に背いたことになるのだぞ!」

 銀さんは、議長の問いかけに応えず、タムを抱きしめたままだ。

「二号によると、誰かが書庫に侵入した形跡があった。
 侵入者は、自分の靴底の痕が、書庫に残っていたのに気づかなかったようだな。
 お前、『稀人』が書庫に侵入する手引きをしたな?
 それに、その子供は未登録だな。
 いったい、どこから連れてきた?」

 銀さんは、何も答えない。
 あちゃー、足跡でバレちゃったか。
 これは、隠れても意味がないかな。

「答えるつもりはないようだな。
 まあよい。
 お前とその子供には、今から『旅立ちの儀』を受けてもらう。 
 その内、『稀人』も捕まえて処分する」

 俺は、自分とブランに掛けた透明化の魔術を解く。
 突然目の前に姿を現した俺に、銀仮面たちがどよめき、少し後ずさった。

「こんにちは。
 まだ自己紹介もしてなかったな。
 俺はシロー。
 異世界から来た冒険者だ」

「い、一体、どういうことだっ!?
 どこから現れた!?」

 銀仮面の一人がそう叫んだ。

「あんたら、さっき、銀ちゃんとタムに『旅立ちの儀』を受けさせ処分(・・)すると言ったな?」

「そんなことが、お前に関係あるのか?」

 そう言ったのは、一際背が高い銀仮面二号だ。  

「大ありだ。
 というか、そのセリフでお前たちの嘘がバレたぞ」

「どういうことだ?」

 そう言いながら、二号はローブの中に手を忍ばせる。きっと麻酔銃を取りだすつもりなのだろう。

「お前たち、『罪科者』は、他の者に代わり罪を背負って生きているはずだよな。
 それが本当なら、『旅立ちの儀』は生きているという罪からの解放になるはずだろう?
 お前がさっき言った『処分』という言葉が、その全てを否定してるんだよ」

「う、うるさいっ!
 皆、やってしまえっ!」

 数人の銀仮面がローブから麻酔銃を取りだし、それで俺を撃つ。
 俺がゆっくり床に崩れおちると、二人の銀仮面が俺の身体を台車に載せる。
 
 銀仮面一号が黒い半球に触れると、そこから突きだした箱型のものの上部に埋めこまれたローラーが動きだす。
 それと同時に、箱型の付け根が接している部分の半球が円形に口を開ける。
 中には禍々しく揺らめく、青い光が見えた。

 台車からローラーに載せられた俺の身体が、そこへ向けゆっくり動いていく。

「これが『処分』か。
 処分した者は肥料となり、お前たちが食べる穀物を育てるのに使われるわけだな」

「な、なんだとっ!?
 お前、麻酔銃をくらって、まだ話せるのか!?」

 二号が驚きの声を上げる。 
 
「当たり前だろう、麻痺などしていないからな」

 俺は横たわった姿勢のまま右腕を上に伸ばすと、指を鳴らした。
 一瞬で俺と銀仮面二号の身体が入れかわる。  

「な、なんだっ!?」

 ローラーの上に載った銀仮面二号が叫ぶ。

「う、動けないっ!?」
「ど、どういうことだ!?」
「動けないぞ!」

 二号だけでなく、全ての銀仮面が騒ぎだす。
 その間にも、ローラーの上に載った二号の身体は、黒い半球に開いた穴に近づいていく。

「や、やめてくれっ!
 死にたくない!
 助けてく――」

 二号の身体は、穴の中で青い光に包まれた。
 動けなくなった銀仮面が、次々と宙に浮き、ローラーの上に載る。

「た、助けて――」
「や、やめてく――」
「た、頼む、欲しいものを何でも――」

 俺は、最後に一人だけ残しておいた銀仮面一号を正面から見た。
 彼の銀仮面がまっ二つに割れ、素顔が現われる。
 広い空間に、落ちた仮面が立てるカランという音が響いた。
 現れたのは、老人特有の茶色い染みがたくさん浮きでた、醜く歪んだ顔だった。

「改めてお前に尋ねよう。
 ここで行われてきた『解放の儀』は、生きながら積みかさねてきた罪から解放されるための尊い儀式だな?」

「ち、違う……。
 いえ、違います!」

「では、『解放の儀』とは何だ?」

「せ、生産力が低いこの世界で、人口をコントロールするための仕組みです」

「簡単に言えば、人々は、お前ら『罪科者』が生きのびるために利用される、人身御供だな?」

「は、はい、そうです」

「では、今度は、お前が皆のためにその身を捧げる番だ」

「そ、そんなっ!
 ほ、本当の事を話したのだぞっ!」

「ああ、ご苦労さん、これからこの世界で生きていく人たちのために利用させてもらうよ」

「く、くそうっ!
 よそ者がっ!
 お前を『解放の儀』に処してやるっ!」

 あれ、コイツ、ちょっと壊れてる?

 銀仮面一号は、わめき散らしながら、青い光の中へ消えていった。

 意識を失ったままのタム少年を抱きしめ、呆然としている銀さんに近づく。

「シロー、あなたその顔……」

 あっ、俺、またマジ顔やっちゃった?

 両手のひらで自分の顔をつるりと撫でる。 
 
「さて、要らないものは、処分しちゃおうか」

 指を一つ鳴らす。

 キュンっ

 巨大な半球状の黒い装置は、一瞬で姿を消した。
 広い円形の部屋に残ったのは、俺とタムを抱いた銀さんだけだ。

「さて、森の小屋に帰って、タムと一緒にお好み焼きでも食べましょうか」

「シロー、あなたは一体……」

 銀さんは何か尋ねたそうだったが、その後は黙ったままだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...