571 / 607
第十二章 放浪編
第41話 約束
しおりを挟むポータル探しは『平和大陸』のデータバンク、図書館を中心に行われた。そして、点ちゃんがそれらしきものをやっと発見した。
図書館には、この世界に人々が入植して間もない頃の資料が残っていた。やはり、最初の入植者が来たのは、『学園都市世界』からだったようだ。
そして、そこには俺がこの世界に現れた場所である『黒き悪魔の遺跡』の他に、『白き悪魔の遺跡』についての記述があった。
さっそくその場所に向かったが、そこは『黒き悪魔の遺跡』からそれほど遠くない場所で、ただ、荒れ地が広がり遺跡などなかった。
その辺りの地下を調べてみる。
点ちゃん、どうだい?
『(Pω・) 見つけましたよー!』
おっ! やっぱり地下にあったか。
点ちゃんがいないと、お手上げだったな。
じゃ、点ちゃん、通路の確保よろしく。
『(^▽^)/ りょーかい!』
立っているところから少し離れた地面に、ぽこりと四角い穴が開く。
階段がついた穴の中へ降りていくと、二十段ほどで岩壁にぶつかった。
大きな岩を組みあわせた構造のようだ。
その中で扉のような位置にある二枚の岩に点魔法で重力付与を行い、奥へ動かす。
ゴリゴリゴリ
そんな音を立て、扉のように二枚の岩が内側へ開く。
腰のポーチから『枯れクズ』を出し、中を照らす。
そこは、この世界に出てきたときの小部屋とそっくりな石室だった。
部屋の奥には緑の石で縁どられた長方形があり、その中は黒く渦巻く空間になっていた。
ポータルだ。
これで次の世界に行く準備はできたことになる。
『(・ω・)ノ ところでご主人様、セルフポータルは試しましたか?』
そういえば、忘れてたよ。
『(; ・`д・´) さっさとしろーっ!』
また点ちゃんに怒られちゃった。
セルフポータルを実行すると、『田園都市世界』の風景と、今いるこの世界の風景が浮かんできた。
どうやら、銀さんとタムがいる世界へは行けるようだ。
これでこの世界ですべきことは終わったな。
◇
「シロー殿!
我らを見捨てられるのですか!」
「まだ統一国家への道筋も定まらぬのに、ここで英雄殿に去られては……」
「どうか、今しばらくお力をお貸しいただきたい!」
『結びの家』にある会議室では、俺の前に並んだイスタニア、ウエスタニア両国の幹部たちが、俺を引きとめようと必死だ。
しかし、ここは心を鬼にしてでも、言うべきことを言わなければならない。
「俺がこの世界に来たのは、自分が意図しない原因からなんですよ。
元の世界では、家族が俺の帰りを待っているはずなんです。
賢人が企んだ、男女の分断、偏見の植えつけを乗りこえ、あなた方が幸せな社会を作っていくことを心から願っています」
「そ、そんな……」
「どうしても、助けてはもらえぬのか……」
「次に来るとき、男女差別のない統一国家ができている。
俺はそう信じています」
「むう、仕方ないの。
英雄殿は、すでに十分力を貸してくださった。
ここからは、我らがそれにお応えするべきだな。
偏見のない社会になるよう、全力を尽すとお約束しよう」
腕を組んだイスタニアの最高司令官が、重々しくそう言った。
◇
会議の後で、俺は別室にモラーさんとヴァルムを呼んだ。
「な、なんなんです、この部屋は!?」
「ふっかふかですね、この椅子!」
椅子じゃなくてソファーなんだけどね。
この部屋は、俺が使うため、落ちついた茶色と緑色でコーディネートされている。
壁には布が貼ってあり、エルファリアの木製家具が置いてある。
二人と俺の間にあるテーブルの上に、青い箱を置く。
「綺麗な箱ですね。
これ、何です?」
「モラーさん、開けてみてください」
彼女が箱を開けると、白銀色の光沢を放つ、二つの指輪が置いてあった。
「これは?」
「ヴァルムさん、モラーさんの左手に着けて上げてください」
ヴァルムは指輪を手に取ると、それをモラーさんの左手小指に着けようとする。
「ああ、違います。
そうだな、中指に着けてもらおうかな」
指輪を着けてもらったモラーさんは、それをうっとり眺めている。
「ささ、モラーさんも、ヴァルムさんに着けてあげて」
はい、指輪の交換完了と。
「その指輪は、一人が考えたことがもう一人に伝わるようになっています」
「「ええっ!」」
「この『結びの家』はお二人に任せます。
指輪は、その仕事へのお礼ですよ」
点ちゃんが『平和大陸』のデータを分析していているとき、念話機能を付与するアイデアに気づいたんだよ。
指輪には『付与 時間』も施してあるから、俺が他の世界に行っても使えるはずだ。
「でも、こんな凄いものをもらっては……」
モラーさんが、彼女らしくなく少しうろたえている。
「お二人の関係が進んだら、指輪は薬指に着けるといいですよ」
「「ええっ!?」」
二人がお互いの目を見て赤くなる。
くう、このリア充め!
二人には、イスタニアとウエスタニアの架け橋になってもらおう。
◇
木々が生い茂っている場所を選び、この世界にも神樹の種を植えておく。
そして、新鮮な海の幸と大量の果物を収穫した俺は、再び『白い悪魔の遺跡』にやってきた。
さてさて、次の世界では何が待っているかな
点ちゃん、ブラン、用意はいいかな?
『(^▽^)/ 次の世界へゴー!』
『ミィミー!』(楽しみー!)
俺はブランを肩に乗せ、ポータルの黒い渦に足を踏みいれた。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる