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第十二章 放浪編
第40話 結びカフェ
しおりを挟む点ちゃんが一瞬で完成させた、イスタニア、ウエスタニア間を結ぶ幹線道路は、ここのところ多くの車両が行きかっている。
二つの国が交流を始めたのだ。
お互いへの偏見が消えるのは、一朝一夕にはいかないだろうけど、それぞれの首都では、すでに手を繋いで歩く男女の姿が見られるようになった。
俺が『土の家』の横に新しく建てた『カフェ』は、大浴場と同様、両国を行きかう人にとって憩いの場となっている。
この世界は、海の幸が豊富だから、それを利用した様々な料理を研究中だ。
イスタニアで俺の世話係だった、ニコ少年に料理の仕方を教えているところだ。彼は器用な上、味覚にも優れているので、『結びの大陸』初代シェフとして後進を育ててくれるに違いない。
「旨い!」
「なにこれっ!?」
「こ、これが食べもの!?」
『結びカフェ』と名付けた店は、今日も大入り満員だ。
店の奥では、まだ料理に慣れていないニコが、数人の少年少女と共に忙しく働いている。
俺がレシピを提供したオムレツやサンドイッチが、凄い人気となっている。
おそらく、上級将校の一人だろう中年男性が、いらいらした声で立ちあがる。
「おいっ!
食べ物は、まだ出てこんのか!」
「お客様、ここは大人が楽しむ場所ですよ。
それから、ここで出しているのは、「食べ物」ではなく「料理」です。
覚えておいてください」
「生意気なヤツだな!
貴様っ、何者だ?!」
俺の代わりに、隣のテーブルに座った年配の女性が答えてくれる。
「あなた、知らないのですか?
この方がこのお店のオーナー、シローさんですよ」
「ええええっ!
英雄シロー……」
男がまっ青になり、すとんと床に腰を落とした。
今、何か不穏な言葉が聞こえたよね。
いや、俺は何も聞いていない。聞いていないったら聞いない……。
『( ̄▽ ̄) ご主人様が、自分の中に逃避してる』
◇
「これだけ作ってみました」
料理長自らが、俺の前に何枚かの皿を置く。その上には、彼が研究中の料理が盛りつけられていた。
皿には、白くて半透明な食材が載っていた。
「ニコ、これはなに?」
「フルフルです」
「フルフル?」
「イスタニアの東方にある海にいる生きものです。
こんな形をしていて、海の浅い所をひらひら泳いでいるんです」
彼は鳥のように両手を上下させた。
箸でつまんで、少し塩をつけてから口にすると、こりこりした食感と淡白な味がイカの刺身にそっくりだ。
俺は点収納から小皿とあるものを出し、それをテーブルに置いた。
「シローさん、これは?」
俺はガラスの小瓶から、小皿に少量の液体を注ぐと、それにフルフルをつけてから口にする。
「んーっ、やっぱりこの方が旨いな!
ニコ、これは醤油といって、俺の出身に古くから伝わる調味料なんだ。
いくらか置いていくから、味を参考にして、この世界のもので代用ができるか試すといいよ」
「へえ、ショーユですか。
……うわっ、なんだろうこれ!
塩よりずっと美味しいですね!」
「だろう?」
「あと、これ、言われてた『デザート』用の果物です」
ニコが差しだしたカゴに盛られていたのは、テニスボールサイズの果物だった。ヤシの実に似ているが、一か所がぽこりと出っぱっている。
「これはアラカンの実です。
この突起の色が赤くなれば、中の実が熟しています」
言われてみれば、確かに目の前にある実は全て突起が鮮やかな赤だ。
「こうやって切れ目を入れて……手で割ると」
ニコが割った木の実からは、白い果肉が出てきた。
「これですくって食べてください」
渡されたスプーンで、白い果肉をすくい口に運ぶ。
プルプルした白い果肉は、舌の上ですうっと溶けた。
後味には、さっぱりした酸味が残った。
「甘いね!
本当に美味しい!
だけど、これだけの食材があるのに、どうしてあんなに味気ない配給食を食べてたの?」
「それは『神託』で決められていましたから。
成人になると、配給食しか許されませんでしたから」
なるほどねえ。
「この実は俺でも採れるかな?」
「ええ、東側の防御壁から出て少し行ったところに、これの林がありますよ。
ちょうど今が時期です」
よーし、お土産にたくさん採っちゃおう!
『( ̄▽ ̄)つ その前に、まず仕事しろーっ!』
またですか? へいへい。
『(; ・`д・´) 返事は「はい」!』
……はい。
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