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第十二章 放浪編
第57話 褒美とモフモフ
しおりを挟む反乱を企てた貴族や兵士が騎士たちにより捕縛された後、俺は侍従に伴われ城の一室に案内された。
二十畳ほどの部屋の壁は金糸銀糸で織りあげたた布が掛けられており、サイドテーブルなどの調度もその落ちついた色合いが質の高さを表していた。
「しばらくこちらでお待ちください」
部屋に入るとすぐ、ブランとキューは、天蓋つきベッドに上がり寝てしまった。
彼らと遊ぼうと思っていた俺は、手持ち無沙汰になってしまった。
部屋には入り口以外に扉が二つあるので、それを開けてみると、片方はおそらく側人用の個室で、もう一方はお風呂とトイレだった。
なんと、お風呂には蛇口がきちんと二つ付いている。
きっと高貴な身分の者が宿泊する部屋なのだろう。
俺は湯舟にお湯を張ると、異世界の風呂を楽しんだ。
点ちゃんに調べてもらうと、この部屋の給湯システムには、やはり魔石が使われており、魔道具の仕組みによってお湯と水が出るようになっていた。
これを考えた人は天才だな。
ポータルズ世界群でも、水の魔道具はあるけど、お湯を出すには特別な魔石が必要だからね。
こいつは売れるぞ!
『( ̄▽ ̄)つ ご主人様が、また悪い顔になってる』
◇
俺が風呂から出て、冒険服を着たタイミングを見ていたかのように、初老の侍従が現われる。
「シロー様、陛下がお呼びです」
「ああ、そう?
着替えなくちゃならないの?」
「いえ、ご自分の服装で構わないとのことでした」
「それは助かる」
迎賓館で着せられていた礼服は、窮屈だったからね。
ベッドで寝ているブランとキューはそのままにして、カーキ色の冒険服を身に着けた俺だけが、侍従に連れられ陛下の元へと向かった。
◇
長い廊下を歩き、金ぴかの大きな扉の前に来る。
扉の前に立っていた二人の騎士が左右に分かれ、俺を通してくれる。
侍従が呪文で開いた扉から、部屋の中に入った。
そこは予想通り玉座の間で、侍従に連れられ立ちならぶ貴族たちが拍手する中を歩くことになった。部屋の奥は何段か高くなっており、そこに据えられたきらびやかな玉座に国王陛下が座っていた。
迎賓館で見せていた穏やかな表情ではなく、引きしまった威厳ある表情の陛下は、俺が立ちどまると声を掛けてきた。
あれ?
膝を着かなくてもいいのかな。
「冒険者シロー、この度の働き、誠にあっぱれであった。
余の友として遇しよう」
ええーっ、なんかめんどくさい事になってないかな。
嫌だなー。
まあ、膝を着かなくていいから楽だけど。
「あっ、そうだ。
陛下、この度の事に関係ある者の名がこちらに」
俺はナゼリア侯爵からブランが引きだした情報を、点ちゃんシートに記録しておいたのだ。
この世界の言語で書かないといけないから、割と手間がかかった。
侍従が俺の手から受けとったシートを騎士の一人に手渡す。
彼がそれを調べた後、陛下の所に持っていった。
「ふむ、確かに。
反乱を企てた者として、ここに名があると思う者は名乗り出よ。
さすれば罪一等を減じよう」
死刑が無期懲役になるってことかな?
背後でドサドサ音がするのは、思いあたる貴族が倒れている音だな。
「シローよ、ここまでしてもらっては、褒美を与えねばならん。
欲しいものを申してみよ」
「そうですね。
お城には禁書庫があると思いますが、そこへ入るのをお許しください」
「ほう、宝石や金を求めぬのじゃな?」
「陛下!
しばしお待ちを!
そのことについては、すぐ決められるのではなく、後ほどでよいかと」
予想していたとおり、陛下の後ろに控えていたシュテインから待ったが掛かる、
「ふむ、だがシローの功績から考えると、些細な報酬だと思うのじゃが」
「父上!
どうか、後ほどになさってください!」
シュテインの必死な表情に動かされたのだろう。陛下は心を決めたようだ。
「シロー、すまぬが褒美は後ほどでかまわぬか?」
「はっ、畏まりました」
「それとは別に、料理への報酬も出さねばならぬな。
何か希望はないか?」
「そうですね……私は冒険者ですが、商売も手掛けておりまして。
恐れながら、城下にお店を開く許可を頂ければと思います」
「おお、そんなことでよいのか?
すぐに手配しよう。
シュテインよ、これには異存なかろうな?」
「はっ!」
「そうじゃ、こちらからも、もう一つ頼みがあるのじゃが、それも後にするかな。
では、ただ今から、このシローはワシの友人じゃ。
みな、そのつもりで彼を遇せよ」
振りかえると、貴族たちがこちらに頭を下げている。
面倒くさいことになったな。
侍従に促され、礼をしてから玉座の間を出てブランとキューが寝ている部屋に戻った。
◇
部屋で美しいメイドさんが淹れてくれたお茶を飲んでいると、シュテイン皇太子が部屋に入ってきた。
「シロー殿、父上からの報酬を保留にして済まなかったな」
「いえ、王族の方としては当然の判断だとおもいます。
それから、俺の事は今まで通り、『シロー』とお呼びください」
「ならば、その方も私を『シュー』と呼んでくれるか?」
「ええ、そうしましょう」
俺の答えに、なぜか皇太子は頬をピンク色に染めている。
美形は何をしても絵になるね、まったく。
『(*'▽')つ ご主人様が、皇太子の美貌に嫉妬してるー』
ええ、どうせ俺の顔は、ぼうっとした顔ですよ。
『(・ω・)づ いや、そこまで落ちこまなくても』
◇
シュテイン皇太子に連れられ別室に案内された俺は、ソファーに並んで座るお后様とルナーリア姫と再会した。
「シロー、先ほどは私たちを助けてくれて、本当にありがとう。
その服装の方が、あなたに似合っているわね」
お后様は、つかい慣れないくだけた言葉を意識して話しているからか、ややぎこちない。
「ねえ母様、いいかしら?」
ルナーリア姫が、母親にお願いする顔を向ける。
「ええ、いいわよ」
ソファーから跳びおりた少女が、俺の腰の辺りに抱きつく。
「シロー、ありがとう!」
不敬かなと思いながら、ルナーリア姫の頭を撫でる。
「姫様、あのときは凄くカッコよかったですよ」
「えへへへ」
ルナーリア姫が満面の笑顔を浮かべる。
それは、孤児院でロキたちが見せた笑顔と全く変わらなかった。
「シロー、あのね、お願いがあるの。
あの白いの、また抱っこできる?」
お后様の方に目をやると、彼女が微笑みながら頷く。
『点ちゃん、ブランとキューは起きてるかな?』
『(・ω・)ノ 二人とも、ちょうど起きたところだよ』
『ありがとう』
「姫様、あの子たちを今すぐに呼びますからね」
指を二回鳴らすと、俺の足元に寝起きのブランとキューが現われる。
並んであくびしているのが、すごくカワイイ。
「うわーっ!」
ルナーリア姫は、俺から教えられたとおりに、そっとブランを抱きかかえる。
ブランが、舌で姫の頬を舐めた。
「きゃっ、くすぐったい!
うふふっ」
しばらくすると、姫の手からブランが跳びおり、俺の肩に跳びのった。
ルナーリア姫は、キューを抱えあげる。
「ほわ~!
ふわんふわんね!」
「姫様、こういうのをモフモフと言うんですよ」
「モフモフ?」
「そう、モフモフ」
「モフモフだ~!」
ヒマワリのような笑顔になったルナーリア姫を、母親のお后様、兄のシュテインが、目を細めて見守っていた。
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