ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
6 / 607
第一章 冒険者世界アリスト編

第4話 王城での出来事

しおりを挟む


食事を終えた史郎達は、食事処まで迎えに来た白騎士に先導され、天蓋付きの馬車で大通りを城へと移動していた。馬車の窓から見える街の風景は落ち着いており、治世の安定をうかがわせるものがあった。

ただ、市民の雑然とした生活力のようなものが欠けているようにも感じていた。

人々がこちらに向ける視線がどこか冷たく、王家の紋章を付けた馬車に対する反応らしくないような気もしていたが、これは考え過ぎだろうか。

城を取り囲む堀のところまで進んだ一行は、跳ね橋が下りてくるのを待つと、城門へ向かって静々と進んでいった。巨大な城門は前にたたずむものに拒絶と絶望そしてゆるぎない権威のメッセージを明確に伝えていた。
ありえないほどの質量をもつ城門が音一つ立てずに開いていく様は圧巻だった。
指輪で気づいたが、この国は魔術を確固たる技術体系に編み上げているようである。

城門から入ってしばらくすると馬車は右側へと方向を変えた。

「これから皆様が滞在するのはこの国の迎賓館となります。」

レダの説明は簡潔で、わかりやすい。
そうすることで、必要以上の情報を出さないようにしているのではないか、と史郎は考えていた。

修学旅行で見た美術館を思わせる重厚な石造りの洋館の前で馬車が止まる。

「どうぞ、ここからはこの者が案内いたします。」


馬車を降りたところには数人のメイドと黒い服を見事に着こなした執事らしき人が立っていた。

---------------------------------------------------------

体を腰のところからきっちり折り曲げる見事な礼をした後、老人が深いバリトンで話しかけてくる。


「今回お世話をさせていただきます。
リーヴァスと申します。
どうぞよろしくお願いいたします。」

スキがない。 完璧執事さんと呼ぼう。

彼に案内されて洋館の二階に上がる。

「こちらでございます。」

案内された部屋は、ホテルのスイートのようなつくりになっており、部屋内にさらにカギがかかる寝室が二つある。各寝室にベッドが2つずつあるので、男女で別れて利用することにする。

大きいほうの寝室はさっそく女子二人に押さえられてしまった。
まあ、部屋割りは実質畑山女史の一人舞台だったわけだが。
さすが学級委員長。

浴室は部屋に一つとあと、大浴場があると伝えられる。

女性二人はさっそく大浴場を利用するらしい。
お風呂に関しては女性は揺るがないよね。
こちらはまず加藤、そして次に俺が内風呂を使うことにする。

先に入浴を済ませた加藤がバスタオルを巻いただけの姿で寝室に入ってくる。

「落ち着かねえ、落ち着かねえ。」

真っ赤な顔でベッドの上にダイブしている。
湯あたりしたのか?
ちゃんと水気をぬぐってから横になれよ。
といってもわれらが加藤に、それを期待するのは酷というものだろう。

お湯をためた湯船に身を沈めていると、突然ドアがすうっと開いた。

だれ? メイドさん?

「お背中、流させていただきます」

おいおい、これは日本の高校生にはきついだろう。
まちがっちゃうと、お風呂で大人の階段上っちゃうよ。

ははあん。 加藤はこれやられたんだね。
で、真っ赤になったと。 
ウブダネ~。
まあ、でも確かにこれは落ち着かないな。

「お名前は?」

「え?」

「君の名前は?」

「ルルですが・・」

「どうしたの?」

「今までお客様に名前を聞かれたことがなかったもので・・」

なるほど、ガチガチの身分制度があるみたいだな。

「ルル。 この部屋の無粋な湯気は君には似合わない。
隣の部屋で待っていて。
そこで君の美しい顔を、よく見せておくれ。」

「!っ」

顔を真っ赤にさせてルルが浴室から出ていく。
ふう、作戦成功。
加藤、君のカタキはとったぞ。
言葉は結果が全て。
これで落ち着いて入浴できるよ。

入浴が終わって共用スペースに出てきた史郎を待っていたのは、うつむいてもじもじしているルルだった。
こ、これどうすれば?
言葉は結果が全て?
すみませんでしたー。

よくわからない男子たちのイベントをよそに、畑山と舞子の二人は、広~~~い(畑山談)お風呂をのんびり楽しんだようだ。

入浴って、本来くつろぐためのものだよねぇ。

男子部屋をリーヴァス執事が訪れた時、二人は疲れと忘れたい入浴体験から逃避するためぐっすり眠っていた。

「食事の用意が整いました。」

二人ともピンク色の夢を見ていたようで、顔を赤くしてうつむいている。

「こちらにお召し変えください。」

さすが完璧執事、眉毛ピクリとも動かさずに出て行ったよ。

用意された服に着替えて食事用のホールに案内されると、すでに席に座っている畑山女史から冷たい視線が。
ええ、エスコートしませんでしたよ。
それが何か? 
ピンクの夢が悪いんです。
私が悪いのではありません。

食事のほうは、なかなかのものだったが、昼に食べた食堂のインパクトが強すぎたためか、まあ、こんなものかなって感想だった。
コースで次から次へいろんな料理がでるのは面白かったけどね。

フォークの歯が二本だけだったり、包丁のようなナイフが出てきたりと、そういった点ではかなり楽しめた。
何に使うかわからない道具が何点かあったけど、食事するのが4人だけだからか、誰も尋ねなかったんだよね。

史郎はルルに聞きたいことがあったが、目を合わせるたびに彼女が真っ赤になって下をむいてしまうから、話しかけるタイミングを逃していた。

--------------------------------------------------------
城ではどこに耳があるかわからないから、深い話はしないようにしようってことだった。
だから、暇になっちゃって、あちこちうろついてみた。

その結果、迎賓館の中では、廊下と自分たちの部屋はOK。
一回階は×。
庭に出るのも×。
行けないところに行こうとすると、どこからともなくメイドさんが現れる。
本当はキッチンでこの世界の食材とか確認したかったんだけど、これじゃあね。

まあ、ついでだから緊急時にどこから外に出られるか、きっちりチェックして冒険終了。

ベッドに入るとすぐ眠ってしまった。

バナナはおやつにはいりますか?


ピンクの夢は睡眠時間に入りません。

-----------------------------------------------------------------

遅い朝食を食べた後は、謁見の準備である。
完璧執事さんから王様の前での振る舞いをいろいろ習う。

とにかくやってはいけないこと。
礼をした後、自分から頭をあげること。

そのうえ絶対、絶対やってはいけないことが、王と目を合わせること。
これは一度で死罪になるらしい。
怖すぎるよ異世界。

さて、いよいよ謁見の時間である。
みんな準備はいいかな。
臨機応変だよ。

控室から王の間の前までは紫色の花が撒かれていた。
この花はこの国の国花らしく、初代国王が愛してやまなかったそうだ。

国賓として招かれたものたちは、この花の上を歩けることを大変な栄誉とするらしい。
まあ、異世界人のこちらには、ありがたみがないわけだが。

そんなことを考えているうちに、王の間の前に来た。
ふんだんに銀色の金属を使った扉の前で待つ。
銅鑼のような音がして、扉がゆっくり開き始める。

視線が上を向かないよう自分のつま先を見ながら歩く。
横に騎士のサポートがあるからできるんだけどね。

礼をする位置まで来たようだ。
騎士が立ち止まる。

「跪いて頭を垂れよ」

跪いて頭を下げると、前方から威厳のある声がした。

「頭を上げよ」

執事さんから習った通り、1mくらい前の地面がみえるところまで頭を上げる。

「異世界からの稀人でございます。」

おや、この声はレダさんか。
ということは彼は騎士の中でもかなり位が高いな。
近衛騎士団長とかかな。

「レダーマン、ご苦労であった。」

やばい、吹き出しそうになった。
かっこいいけどマンってなんですかマンって。
ウル〇〇マンですか。
自分ならボーマン、ボーノマン。
やばい肩が震えてくる。
おもしろすぎる。

「そちらが稀人か。
して、自分たちの世界のことを話せるか。」

息をのむ気配がした。

「はい。 地球と申します世界から参上しました。」

一瞬王の取り巻き達が大きくどよめく。

「ほうほう! 地球とな、地球のどこから来たのだ」

「日本という国でございます。」

どよめきがさらに大きくなる。

「静まれ! 王の御前であるぞ。」

レダーマンの張りのある声で静寂が戻る。

「やはりそうか! 皆が黒髪であるから、もしやと思っていたがやはりな!」

やはり?  すでにこの世界に地球および日本の情報がある程度あるらしい。

そして黒髪? 荷馬車のおっちゃんや衛士たちが驚いたのは髪の色か。

でも、なんで黒髪がそれほど騒がれるんだ?

「ここに試しの水盤がある。
これでおぬしたちの魔法適性がわかるし、隠れている才能があれば花開くぞ。
調べてみぬか?」

調べてみぬかって、これ明らかに強制だよね。
ここでNOっていったら、間違いなく首が飛ぶよね。

「ははっ、御意に。」

四人はそれぞれが付き添いの騎士に立ち上がらされると、王の横に控えていた恰幅のよい黒ローブが水を張ったお皿のようなものを掲げて近づいてくる。
四人の所まで来るとお皿に向かって何か詠唱している。

次第にお皿に張られた水が輝きだした。

「では、まずあなたから」

畑山女史が水盤の上に手をかざすと、水盤に文字が浮かび上がったようだ。

こちらからは見えないし、どうせ見えても理解できないだろう。

「おお!」

周囲がどよめく。

「聖騎士とは、珍しい。
しかもレベル50とは!」

畑山はどうしたらいいのか分からず、きょろきょろしている。
全く彼女らしくない。
それは舞子のキャラだろ。
盗用禁止!

「では、次はあなたが」

舞子が水盤の上に手をかざすと、さらに強い輝きが水盤をつつむ。

「聖女だ! 聖女様が誕生したぞ!」

取り巻き達はお祭り騒ぎである。
騎士たちのぽかーんと開けた口をみても、聖女がかなりレアであると分かる。

「今回の稀人はすごいな」
「こりゃ、下手したら勇者までいくかもな」

周囲の騒ぎは、なかなか鎮まらない。

王が立ち上がった気配がした。

「ドン!」

王笏が地面を打つと一気にざわつきが引いていく。
やるな王様。

「つぎはあなたが」

聖女の誕生で興奮したのか、黒ローブおじさんの声が少し震えている。

加藤が水盤に手をかざすと、舞子の時と同じか、さらに強い光が放たれた。

「・・・ゆ、勇者だ・・
とうとうやったぞ・・
勇者誕生だー!」

あまりの盛り上がりに、うぉ~んという振動が王の間を満たす。

「やったか! とうとうこの国にも、悲願の勇者が生まれたか」

おや、王様。 何気に大事な情報もらしちゃってない?
勇者って一人じゃないのね。
他の国にもいるってことね。
これはメモメモと。
頭の中にだけど。

「最後の稀人よ、手をおかざし下さい」

周囲の期待がさらに高まる中、史郎が手をかざす。
しかし、勇者の上ってなんだろう。
とか馬鹿なこと考えちゃいけないよね。
でも加藤だよ、加藤。

シーン・・

あれ? おかしいな。 
水盤が反応しない。

あ、微妙にうっすら光ってるよこれ。
でもこれ気づくかどうかってレベルだよね。

「魔術師レベル1・・」

え?
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...