ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第一章 冒険者世界アリスト編

第8話 ギルドデビュー

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翌日史郎は、冒険者登録にギルドにやって来た。
今は無職だが、これからのことを考えると現金収入が欲しい。

しかも二人分の生活を支えるから、あまり安い収入だとやっていけないだろう。
危険はあっても報酬のよい冒険者を選んだってわけだ。

まあ、住所不定、出身地不明、保証人無しだから、他の仕事が選べなかったってのもあるけどね。

冒険者ギルドは、町の入り口寄りの大通りに面している。
これは討伐系クエストを終えたパーティが、獲物の処理をしやすいように考えられたらしい。
木製のドアはいつも開いているようである。

入り口を入ると、右側には丸テーブルが4つあり、食堂のような趣である。
左手にはカウンターがあり、使い込まれた分厚い木の板が飴色に光っている。

カウンター前には、二列に各四五人づつ並んでいるが、窓口は3つあるようである。
誰も並んでない窓口に近づくと、すぐにその理由がわかった。

皆が並んでいる二つの窓口の受け付けは、若くてかわいい女の子と落ち着いた大人の魅力あふれる女性だったが、目の前の受け付けはいわゆるハゲマッチョである。
しかも、ランニングのような黒シャツで筋肉を見せつけている。

これは普通並ばないわ。
踵を返して隣の受付に並ぼうとしたが、時すでに遅かった。

「坊主、なんの用だ」

この時振り返った俺の首から、ギギギという音がしたのは言うまでもない。

ため息をついて、しかたなくカウンターの前に立つ。

「えと、冒険者登録をしようと思って」

「ふん、金持ってるか。 
銀貨3枚だぞ」

革袋から支払う。

「おい、人前でそんなもんじゃらじゃらさせるんじゃねえ」

鬼のような顔で叱られる。

「わ、わかりました。
忠告ありがとうございます」

鬼の顔がすこし和らぐ。

「手をこの上に載せろ」

黒い板がカウンターの上に現れる。

このパターン、嫌な思い出しかないよね。

板に手を載せると空中に文字が浮かんだようだ。
こちらから見ると逆さ文字の上、読めない字だけどね。

「名前は?」

「シローです」

「変わった名前だな」

「よく言われます」

そう言われたの、本当は初めてだけど。

「職業は魔術師。 レベルは2と。
魔術属性とか得意な魔術あるか。
もっともこれはスキルに関することだから黙っていてもかまわんが」

お! やっぱりレベル上がってる。
カラス亭でぴかっとした時だね。

「特にありません」

点は見えるけどね。
病気じゃないよ? なぜか疑問形。

「よし、登録完了だ。
ギルド章渡すから無くすなよ。
詳しいことはこの本に書いてあるからな」

といっても読めないですからね。
ここは遠慮するところじゃないよね。
命に関わるから。

「学がないもので。
この本に書いてあることを口頭で説明していただけませんか」

「ふむ、学が無いようには見えんがな。 
おい、キャロ。 こいつに冒険者の心得を教えてやってくれ」

「はーい」

奥の部屋からものすごく小柄な少女が出てくる。
1mくらいしかないんじゃないか? 

スカート部分がギザギザにカットされた緑の服に、これも緑の丸く小さな帽子を頭にのせている。
小さいころ絵本で読んだ妖精そのものである。

「初めまして、シローといいます。
冒険者登録しましたが、この本が読めなくて」

もらったばかりの革表紙の本を少し持ち上げる。

「キャロです、よろしくね。
それは気にしなくていいの。
むしろ読めないのにそのまま依頼を受けちゃう方がダメなのよ。
だって採集依頼にせよ討伐依頼にせよ、期限が決まってるものが多いからね。
何かあって依頼をこなせないとなると、ギルドの信用にかかわるのよ」

「なるほど」

別室でキャロから説明をうける。


・自分より一つ上のランクまでしか依頼を受けられない。

・依頼を達成したらプラスポイントが、失敗したらマイナスポイントがつく。

・プラスポイントが一定値を越えるとランクアップ、同様にマイナスポイントでのランクダウンもある。


ランクは鉄、銅、銀、金、ミスリル、黒鉄と上がっていく。
登録直後の史郎は、当然だが鉄ランクである。

「では、後は実際に依頼書を見ながら説明しますね」

部屋を出て、最初いたホールまで戻って来る。

ハゲマッチョの前にはまだ誰もいない。
かわいそす。
誰か並ぼうよ。

カウンターの反対側、食堂コーナーの奥の壁には多くの紙がピン止めされている。
中には日に当たって紙の色が茶色くなったものもある。
きっと塩漬け依頼だろう。

「こちらのコーナーが鉄ランクの依頼となります。
左側に採集依頼、右側に討伐依頼が並んでいます」

キャロが左側の一番下の依頼を指さす。

「例えばこちらだと鈴鳴り草10本を取ってくれば依頼完了となります。
紙の一番下に書いてあるのが期限です。
また報酬は必ず右上の枠の中に書いてあります。
それ以外のところに金額が書いてあっても有効とはなりません。
気を付けてください。」

う~ん、わかりやすい説明ありがとうございます。
きっと頭がいいな、この子。

「今出てる討伐依頼はどんなものがありますか」

「ちょっと持ち上げてもらえます?」

キャロってチョー軽い。
なんだこれ。 本物の妖精じゃないの? 

キャロが依頼を読みやすいように、依頼書の前で彼女を上から下へ動かしていく。

「ハーフラビット、ゴブリン、ゴブリン、コボルトですね。
依頼はだいたい上から下へ難易度が上がっていきますから、最初はなるべく上のほうの依頼を受けることをお勧めします」

となると、ハーフラビットか。
きっと小さなウサギだな。

「あ! ウサギ狩りをするときは注意があるんですよ。
ハーフラビット自体はなんの危険もないそれこそ子供でも捕らえられるような魔獣なんですが、遠くから白いウサギを見つけて不用意に近づくと、実はマウンテンラビットだったっていうことがあるんです。
毎年とは言いませんが、ルーキーがこの失敗で死んじゃうんです。
ウサギを見つけたら音を立てずに、まずその近くの植物と大きさを比べるのが大事ですよ。
だから、霧などが出ているときのウサギ狩りは絶対おすすめできません」

やっぱり、説明聞いといてよかった。
遠慮しただけで自分が死んじゃったら意味ないもんね。
聞くは一時の恥だよね。

あ、そうそう。 いま聞いたキーワードだけはチェックしとこう。

「魔獣・・ですか。
魔獣って何ですか」

キャロがちょっと驚いた顔をする。

「大きな町のご出身なんですか」

「はあ、まあ」

ここは適当にごまかしておく。

「魔獣はマナが凝縮して生まれるモンスターです。
害のないものもいますが、多くの場合、人間の生活を脅かします。
ですからなるべく討伐が勧められるのです。
討伐系のクエストには王国からも一定の補助金が出ています。
報酬の2~3割が補助金になります」

王国からのお金はもらいたくないが、すでに今持ってる全財産が王国からのものだしね。

「あと、マウンテンラビットってどのくらいの大きさなんですか」

「大きいと3mを超しますよ。
力も非常に強いですし、なにより攻撃しても特殊な毛皮のせいでダメージとなりません。
モンスターにもランクがあるのですが、大きいものだとAランクプラスとなりますね」

おいおい、ウサ子よ。
お前Aランクプラスだってよ。
というより、加藤ってその辺の木でAランク殴ってたのか。
しかも半死半生にしてたし。
勇者恐るべし。
それをペットにした畑山女史、さらに恐るべし。

「Aランク討伐となりますと金ランク五名以上が推奨ですね。
まちがっても手をださないようにしてくださいね」

「出しません、出しません」

ただただモフらせてもらうだけです。

「討伐した魔物は決まった部位を切り取って持ち帰ってもいいですし、パーティーに余裕があれば丸ごと持ち帰ってもかまいません。
処理も自分でやるのもギルドに任せるのも自由です。
ただ、民間の解体業者には怪しい者もいるので注意してくださいね」

なるほど。 解体によって手に入れた素材を売れば、報酬にさらに上乗せできるわけか。
こりゃ当然、討伐依頼の方が人気出るよね。

「登録直後に必要な説明はこのくらいですが、他に何か質問はありませんか」

キャロの可愛さについて質問はあるけどね。
いきなりギルドで孤立するのも、うまくないだろうから今はやめておこう。

「いえ、ありがとうございました。とても分かりやすかったですよ」

「えっ、そ、そうですか」

頬をピンクに染める妖精さん、食べちゃいたい。

とにかく今日はここまででいいや。
もう精神的におなかいっぱいだしね。
明日からじっくり取り組もう。

まだ誰にも並んでもらえていない、ハゲマッチョにお礼をいって外に出る。

「おい、お前。 新人だな」

がっちりした長身のお兄さんに声をかけられる。

お、いわゆるお決まりのイベントですか。

「ええ、そうですが」

「うちのパーティーの荷物持ちやってみないか。
最初は要領もわからないだろう。
荷物持ちなら安全なうえに、討伐の見学もできるからな」

なんと、イベントではなく、いい人だった。

「分かりました。 
お名前を聞いてもいいですか。
私はシローといいます」

「よろしくな、シロー。
俺はブレット。
パーティー名はハピィフェローだ。
連絡したければ、ギルドの伝言板に書いておくといいぞ」

「ありがとうございます」

「気にするな。
俺たちも、先輩からそうやって引っ張り上げてもらったからな」

ブレットはそう言うと、ギルドの中へ入っていった。

かっこよすぎるぜブレット。
いつかモフらせてあげるよ。


マウンテンラビットだけどね。

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史郎は、宿に帰ってルルにギルド章と本を見せた。


レベルアップしていたことも告げた。

「おめでとうございます」

「ありがとう」

何がおめでたいのか、今一実感は無いんだけどね。

「明日は、簡単な依頼をこなしてみようと思う」

「そうですか。 最初は採集依頼がいいかもしれません」

まあ、それが順当だろうね。

「ルルも来るかい?」

「そうですね。 
旦那様が冒険者となったからには、一度ご一緒しておいたほうがいいかもしれませんね」

本当は荒くれ者達のところにルルを連れて行きたくはないんだけどね。
ギルド自体は割としっかりしてるみたいだし、ブレットみたいな先輩がいれば大丈夫かもしれない。

「よし、そうと決まれば今日は早めに寝て、明日に備えよう」

「はい。 採集依頼は朝一番が基本ですから」

ということで、夕食の後すぐに就寝。


明日はどんな一日になるかな。
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