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第一章 冒険者世界アリスト編
第7話 点魔法検証 ー 点ちゃん登場 ー
しおりを挟む翌日は早朝から外のざわめきで目が覚めた。
木窓を開けて道を見下ろすと、朝からものすごい人出である。
みんなどこから現れたのってぐらい人がいる。
子供たちも楽し気に走り回っているし、昨日までと同じ町とはとても思えない。
カラス亭は大通りから一本入ったところにあるから大通りの喧騒は凄まじいものだろう。
う~ん、どうしよっかなあ。
舞子たちの顔が見たいけど、あの人込みじゃくつろげないよねえ。
物心ついたときから人生の目的はくつろぐことだった。
これは異世界に来ても譲れない。
華々しい友人たちを見るのが寂しいわけじゃないからね。
ないからね。ないからね。
ここエコー大事。
「ルル、ちょっと出てくるよ。
いつ帰ってくるかわからないから、気にせずパレード見に行ってね」
ルルは覗うようにこちらを見ていたが、落ち着いた声で返してきた。
「旦那様、ありがとうございます。
では私は情報収集を行っておきますね」
さすが完璧メイド。
言わなくても分かってらっしゃる。
宿からでるとさらに裏通りにはいって、そこから逆方向へ流れる人をかき分けるように町を囲む石壁へと向かう。
門のところには衛士さんが数人いた。
お祭り体制ということもあるのだろうが、外から入ってくる人はチェックしているが、たまに出ていく人は素通しのようだ。
外に出て一番近い丘の上に登る。
眼下に広がる湖が朝日に煌き、町がその光につつまれている。
無条件に美しい。
町の右手にはかなり大きな川が見える。
今日はあそこでのんびりするか。
水辺は最高のくつろぎスポットだもんね。
町からは楽器の音が聞こえてくる。
パレードが始まったのだろう。
心を沸き立たせるようなその音楽に背を向けて、河原に降りていく。
地形の関係だろう、ここではほとんど町の音が聞こえない。
尻尾をふりながらチルチルと鳴く小鳥が、河原の石から石へ飛び移っている。
「ああ。 いいな~」
河原の中に砂場をみつけ、そこで横になる。
手を頭の下に組んで空を見上げると気分は最高だ。
最高なのだが、青い空の中心辺りにさらに鮮やかな青い点があるのが気になる。
目を閉じれば見えないのだが、目を開けるといつも視界の中心に点がある。
そういえば、この魔法の検証もしてなかったよな。
ちょっとやってみるか。
まず、近くの丸い石に視点を合わせてみる。
石の中央に蒼い点が現れる。
視点を少しずらす。
すると蒼い点もそれにつれて動いていく。
丸い石にいびつな凹みがあったため、視点がそこを通るとき凹凸をなぞるように動いているのが分かった。
ふむ、視点を合わせたものの表面を動くってことでいいのかな。
さらに視点を動かそうとした瞬間、「グワッ」と一声鳴いてすぐ横の草むらから鳥が飛び立った。
脅かすなよ、もう。
あれっ? 今一瞬、点が大きくなったよね。
「大きくなれ」と意識をむけることで点がある程度大きくなることが分かった。
しかし、この魔法使い道あるのかねえ。
しばらくいろいろ試したが、とりあえず、今できることはこれくらいのようだ。
点について分かったことをまとめると、
・特に意識しなければ点は視界の中央に現れる。
・消そうと思えば消すことも可能。たぶん、見えなくなるだけ。
・物の上に点をおけば、そのものの表面をなぞるように動かせる。
・ある程度大きさを変えることができる。
こんなところかな。
しかし、最高のくつろぎスポットに来て、わざわざ点魔法にかかずらわっているって虚しくない?
だよね、点ちゃん、今日はもうさらばだ。
点を消そうとするが、一瞬点が点滅したような気がした。
気のせいだよね。
あれ、また点滅した。
おーい、点ちゃ~ん。
おや、やっぱり点滅してる。
しかも激しく。
なんだこりゃ。
点ちゃん、聞いてる?
チカチカ
点ちゃん、聞いてたら3回チカして。
チカチカチカ
点ちゃん、俺のことが好きなら5回チカして。
チカ・・チカ・・・チカチカチカ
ぐはっ。そのためらうようなチカはなんですか。
もう遊んであげないぞ。
チカチカチカ(^O^)ノチカチカチカチカチカ
な、なんか途中で変なのが入った気がしたがまあいいか。
とにかく点ちゃんとはちょっとお話ができることが分かった。
って、なんでやねん。
-----------------------------------------------------------------
点ちゃんと遊んで(精神的に?)疲れて昼寝したら、あっという間に夕方だった。
ルルを心配させてもいけないので明るいうちに町へ帰ることにする。
町への入口でちょっともめたが、こちらの顔を覚えている衛士さんがいてその後は何も言われなかった。
思いっきり変な目では見られたよ。
だって、黒髪だって昨日見られてるんだから。
なんでパレード出てないの? みたいな。
カラス亭へ帰ると、すでにルルは部屋にいて、パレードのあらましを教えてくれた。
出し物として、ミス王国みたいなのもあったらしい。
この国はなにやってんのかね、まったく。
「あと、これはパレードとは関係ないんですが、勇者がパーティを組むようです」
「ほう? じゃ、三人パーティか?」
「いや、四人のようですよ。」
え? 俺も?
「あと一人は、レダーマン騎士長ですね」
面白い名前してるとは思ってたが、まさか騎士長とか。
騎士のなかで一番偉いんじゃない?
って、それより恥ずかしい。
四人目が自分だと思った自分が恥ずかしすぎる。
しかし、いまだに勇者に未練があったとは、かわいいぞ自分。
とりあえず、点ちゃんの話はだまっておきますか、言っても馬鹿にされるだけだろうし。
お!また点ちゃんがチカってる。
気のせいだろうけどなんか悲しそうなチカりなんだよね。
点ちゃん、心があったりするのかな。
またいろいろ試してみよう。
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