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第一章 冒険者世界アリスト編
第12話 ゴブリンキングの報酬
しおりを挟むルルはしばらく覆いかぶさったままだったが、いつまでたっても剣が落ちてこないからやっと顔を上げた。
「旦那様・・生きてる」
震える両手で、俺の頬に触れる。
涙で濡れたルルは、とても綺麗だった。
口の端についた血を、掌で拭ってやる。
ルルは、俺の胸に顔をあてて泣き始めた。
ブレットがダンの腕をとって近づいてくる。
「生き延びたな」
一言に、万感の思いがこもっているのがわかる。
「ナルニス、お前の魔術か」
「いや、僕の魔術じゃないよ」
ブレットは、しばらくゴブリンキングの巨体のあちこちを調べていた。
「うーん、わかんねえ」
どうやらキングの死因が、分からないらしい。
とにかく、この周辺の戦闘は終わったようだ。
二人と五人が地面に座り込んでいると、冒険者を引き連れたギルドマスターがやって来た。
「こ、これはっ! ゴブリンキングかっ!」
冒険者たちがどよめく。
「ブレット、おまえがやったのか?
大手柄だな」
「そんなわけないでしょ。
俺は、銀ランクですよ」
「そんなこと言ったって、目の前に死体が転がってるじゃねえか」
「いえ、それが突然ころっと死んじゃったんですよ」
「魔術じゃないのか」
「いえ、そうじゃないみたいです」
その後、マックもしばらく死体のあちこちを調べていたが、結局死因がわからず首をかしげていた。
抱き着いたルルを引き離すのに少し時間がかかったが、手をつないでやると、やっと納得してくれた。
各パーティーがそれぞれ討伐部位を切り取ったのち、死体を集めて火をつけた。
討伐数が少なかった二つのパーティが、念のため、事後処理に残った。
まあ、森に火が燃え移ってもいけないからね。
家屋もすべて倒し、焼却する。
放置しておくと、すぐにまたゴブリンが集落を作るそうだ。
ゴブリンキング討伐の栄誉は、ハピィフェローのものとなった。
皆疲れ切った身体と、生き延びた喜びをもって帰路についた。
カラス亭に着くまでルルはつないだ手を離さなかった。
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ゴブリン討伐から一週間は、服を買ったり、装備をメンテナンスにだしたり、こまごましたことで過ぎていった。
ハピィフェローが7等分してくれたので、討伐の報酬は、かなりなものになった。
特にゴブリンキングの報酬は、一体で金貨100枚。
他の報酬と合わせると、1/7でも一財産と言っていい金額である。
ルルと話し合って、この報酬で家を買うことにした。
外壁近くなら、予算で十分大きな家が、買えるそうだ。
ということで、さっそく土地を扱う、地球で言うと、不動産会社のような店にきている。
「どのような条件でお探しで?」
卵型の体形で、ちょび髭を生やしたおじさんである。ベルギー人の探偵っぽい。
「金貨25枚までで、お願いします。
大きさにはこだわりません」
「ご希望の地区はございますか?」
「いえ。 とりあえず条件の合うところは、全部見て回ろうと思います」
「少々お待ちください。
・・・こちらとこちら、あとこちらもございます」
「見せてもらってもいいですか」
「どうぞどうぞ」
文字を読むのはルルまかせだが、何枚かには絵が描いてあり、それならわかるので見比べてみる。
日本の物件と違って、間取りではなく外見だけ描いてあるのが面白い。
間取りは、文字で書いてあるそうだ」
ルルがあまり治安の良くない地区の物件をはじいて、残りの物件は紙をそのまま借り受けた。
「返却は、三日以内でお願いします」
「わかりました。お世話になります」
店を出ると、近い家から、一軒一軒見ていく。
最初の物件は、余りにも古くて修理が必要なのでボツ。
二軒目は、窓から城がみえるから精神的にボツ。
三軒目は、ギルドに近く、4LDKの平屋で、大きさも手ごろ。これは保留。
四件目は、二階建てで、三軒目に比べるとかなり小さい。
でも広い庭がついている。保留。
五軒目は、部屋数が多すぎて管理できそうにないのでボツ。
で、結局俺がどれを選んだかというと、四軒目。
決め手となったのはタイル張りの浴室がついていたことだ。
浴槽さえなんとかすれば、お風呂に入れる!
ルルは、庭が気に入って、やはり四軒目を選んだ。
まあ、二人で住むわけだから自分だけでは、決められないからね。
翌日、お店に書類を返しに行くと、同時に購入の手続きも済ませた。
名義はルルにしておく。
だって俺の身分じゃ、買えるかどうか、怪しいからね。
保証人もいないし。
カギをもらったから、いつでも入居できるのだが、家具やもろもろの準備が済むまでは宿も借りておく。
今日は、ルルがお城へ行ってリーヴァスさんに会って来るとのことなので、例の河原に行って、点魔法の検証でもしよう。
昼寝が目的ではないからね。
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