ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
45 / 607
第一章 冒険者世界アリスト編

第43話 魔の手

しおりを挟む


翌日、約束通り夕刻前に王宮から迎えが来た。
史郎は、紋章が無い客車を引いた二頭立ての馬車に乗り込んだ。

紋章が無いのは、今回の会合を内密に行いたいということだろう。

王宮は、アリスト城のような威様は無かったが、落ち着いた上品さがあった。
高さは無いが、広い敷地に、この国の象徴である半球状の屋根が載っている。

おそらく、迎賓館として使われているであろう建物の前で、馬車が止まった。
中に入ると、金、銀より茶色系統をうまくあしらってある。

目的の部屋を、執事がノックする。

「どうぞ」

軍師ショーカの声が、応えた。

部屋は、20畳ほどの広さがあり、中央にテーブルが用意されていた。

マスケドニア王と加藤も、既に席についていた。

給仕役が六名、壁際に控えている。

「久しぶりじゃな」

王が立ち上がり、歓迎を示す。

「今日は、お招き頂き、ありがとうございます」

「お、来たか」

おい、おい、加藤、いくら何でもそれは砕けすぎだろう。
まあ、しょうがないか。

「まずは、この国の食事を楽しんで欲しい」

王が手を打つと、前菜と食前酒が運ばれてきた。

「では、目標の達成を願って」

軍師が、グラスを目の高さに上げる。
加藤と俺もそれに倣った。

食事は、華美ではないが、一つ一つの料理が吟味され、こちらの味覚を刺激してくる。
この国の食文化の奥深さを、知った思いだ。

史郎は、プチプチした食感の香ばしい脂が浮かんだスープが気に入った。
ぜひ、ルルや子供たちにも、食べさせてやりたい。

四人とも、黙って食べている。
本当に美味しいものを食べると、なぜかみんな無口になるよね。

デザートは、甘さを控えた冷菓だった。
この世界でアイスクリームを見たことが無かったので尋ねると、魔術師が処理したということだった。

美味しいことに、手間を惜しまない。
それが、さらなる美味しさに繋がるらしい。

食後、薬草茶を出すと、給仕たちは部屋を出て行った。

四人だけになると、陛下が口を開く。

「さて、今後のことだが・・」

そのタイミングを見計らったように、加藤の指輪が鈍い光を放ち始めた。

「伏せてっ!」

とっさに王の前に飛び込んだ史郎が、加藤との間にシールドを展開する。

もちろん、点ちゃんである。

指輪の光が、点滅を始める。

点滅が次第に早くなり、急に強い光を放った後、すっと暗くなった。

「な、何があった。」

ショーカが、震える声で尋ねる。

「意思疎通の指輪に、細工がしてあったようです」

史郎が、説明する。
加藤の指から、指輪が消えている。

「念のため、指輪の周りを別の魔術で、覆っておきました」

センライでの第一回訓練討伐のとき、三人の指輪に細工を施しておいた。

「指輪は、誰からもらったものだ?」

「アリスト国王です」

「ふむ、あやつ、勇者殺害まで企ておったか」

青い顔の王が、うめくように言った。

「すぐに代わりの指輪を、持って来させよ」

ショーカがドアを開けて、出て行った。

「まさか、ここまでするとはの」

「恐らく、陛下と勇者を、同時に狙ったのだと思います」

「すでに、なりふり構っておれんということか」

「勇者亡命が、アリスト王国に与えた衝撃は、それほど大きかったようです」

「派兵せぬところをみると、勇者の存在が効いておるということか」

「それゆえの、この暴挙でしょう」

加藤は、まだ呆然としているようだ。

「おい、加藤。 大丈夫か?」

「な、何だったんだ、今のは」

「どうやらアリスト国王は、お前を生かしておきたくないらしいな」

「何から何まで、とんでもない奴だぜ」

「まあ、ともかく、相手の意図はハッキリしたな」

「冗談じゃないぜ、全く。 
人の命を、何だと思ってやがる」

軍師が、ケースを持って帰って来た。

濃紺のビロードが張られた上蓋を開けると、指輪が6つ並んでいる。

「この国の古の天才錬金術師が、作ったものです」

4箇所に、穴があるのは、既に使われたからであろう。

「シロー、お主は命の恩人だ。
これを持っていけ」

恐らくは、国宝であろう。

「では、4つだけ頂いて参ります」

「お主が付けておるそれも、勇者の指輪と同じ出所か?」

「はい、そうです」

「ならば、それは置いて行け」

「わかりました。 では、後で覆っている魔術を解いておきます」

「ふむ、では、ショーカよ。 その指輪、調べてくれ」

「はっ」

宮廷付きの錬金術師に、調べさせるのだろう。

あれほど危険な術が込められているなら、調べる方も命懸けである。

「さて、相手の意図がはっきりしたところで、どう対処すべきかな」

「陛下、相手の計画が失敗したことを、それとなく知らせてはいかがでございましょう」

「それで、少し冷静になってくれればいいが」

アリスト国王の人となりを思い出し、それはまず無理だろうと、史郎は考えていた。

「では、細かいところを打ち合わせておこうか」

たった今、命を狙われたにもかかわらず、マスケドニア国王は、すでに平常心を取り戻していた。



この日の会議は、夜遅くまで続いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...