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第二章 獣人世界グレイル編
第16話 獣人族長会議1
しおりを挟む狐人族領に着いて3日目の夕方、予定通り族長会議が開かれた。
会議場は、お城の一角で、ドーナツのような形に机が並んでいる。
各部族の代表の内、3人が机につき、残りが後ろに控える。
犬人族の机は、アンデ、ギルド職員、俺が席についた。
会議場を見渡すと、様々な獣人の姿がある。
特別あつらえの大椅子に、巨体を無理やり押し込むように座っているのは、熊人族だろう。
椅子に座らず、香箱座りしているのは、虎人族か。
その隣には、虎人族のミニチュアのような猫人族が座る。
狐人族は、中央にコルナが座っており、その右には、昨日案内してくれた文官の姿がある。
一つ空いていた猫人族の椅子へ、白いあご髭を垂らした獣人が杖をつきながら近づくと、場がざわついた。
「ほう。 さすがに今回は、賢者も捨ておけぬのだな」
アンデの言葉通りなら、猫人族の賢者なのだろう。
「では、族長会議を始めてもよろしいかな」
コルナが、威厳のある声でそう言った。
「ちょっと待ってくれ」
待ったをかけたのは、虎人族の中央に座っていた男である。
「なんじゃ、ドラン」
「なぜ、獣人会議に人族がいる」
「それもそうだ。 なぜだ?」
「けっ。 なんで、そんな奴を」
虎人族の発言に、同調する声が上がる。
ドランは、さらに畳みかける。
「おい、アンデ。 きちんとした説明があるんだろうな」
アンデは、背筋を伸ばし堂々とした態度である。
「ああ、あるぞ。
これは、シロー。
パンゲア世界から来た。
女王の推薦状もある」
「女王ったって、しょせん人族だろうが。
この場に相応しくねえな」
「今回、この会議を開くに至った証人を見つけたのが、この男だ」
「それがどうした。 なんなら俺が、そいつをここから叩き出すぜ」
「やめておけ。 こいつは、金ランクの冒険者だ」
場がどよめく。
「人族の金ランクなんて、ゴミだぜ。
見てろよ。 今、叩き出してやる」
男が円テーブルの縁を回って、こちらに近づいてくる。
俺がアンデの方を見ると、奴は目を閉じ、一つ頷いた。
俺は席を立ち、近づいてくるドランという虎人を待った。
奴は、俺から5mくらいの位置で一度止まると、ニヤッと笑う。
突然、ものすごい勢いで、こちらに突っ込んできた。
助走も予備動作も無しだ。
太い腕の先に着いた、人の頭ほどもある拳が、俺の顔面を捉えた。
グシュ
異様な音をたてて、潰れた。
奴の拳が。
「グアアアッ」
ドランは、手首をつかんで、唸っている。
物理攻撃無効
俺が、前の世界で手に入れた力だ。
ポータルを越えても、健在だったな。
辺りは、奴の唸り声を除いて、静寂に包まれていた。
コルナが、とことこ近づいてくると、魔術を唱える。
治癒魔術の様だ。
床を転げまわっていた、ドランの動きが止まる。
まだ、起き上がることは出来ないようで、横たわったまま、荒い息をついている。
「ドランよ。 この者は、私の賓客でもある。 次は、許さぬ」
小さな狐人の少女が、凍えるような声でそう告げると、ドランの顔色が青くなった。
「ニャニャニャ。 愚かよな。
相手と己の力の差をまず知れ」
猫賢者が、変な笑い声を立てている。
アンデが、静かな声で問う。
「まだ、この男がこの場に相応しくない、という者はいるか」
それに応える者は、誰もいなかった。
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