ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
80 / 607
第二章 獣人世界グレイル編

第23話 追跡 

しおりを挟む


土牢から逃げた人族の男、ミゼットは森の中を進んでいた。


所持品は全て取り上げられたが、男には魔術があった。

呪文を唱えると、目の前に直径10cmくらいの、透明な球が現れた。
球の中には、黒い矢印が浮いている。

しばらく回転していた矢印は、やがて動きが遅くなり、ピタリと止まった。

男は、矢印が差したほうを眺めると、大きく一つ頷き、また前進し始めた。

慣れない歩き方で、なかなか距離が稼げないが、逃げ出してから、既に5時間は経っている。

恐らく、見つかることはないだろう。

懸念といえば、犬人族の鼻の良さである。

彼は、ある樹木の下にくると、木に体を預けるようにして、葉をちぎり、その葉の先にある花についている花粉を、自分の体にこすり付けていた。

この樹木の花粉には、犬人族の嗅覚をくらませる効果がある。

もうそろそろ目的地に着くのではないか、と思い始めた時、一人の犬人族が目の前に飛び出してきた。

一瞬、絶望に襲われた男だったが、犬人の顔が分かると、ほっとして体の力を抜いた。 

犬人は、キャンピーだった。

「なぜ、すぐに後を追って来なかったんです? 
それに、その足はどうしたんですか」

「それはいいから、すぐにベースキャンプへ連れていけ」

男が命じると、キャンピーは背中に男を背負い、かなりのスピードで走り始めた。


木立を抜けると、森の中の草地に数張りのテントが見えた。

キャンピーは、その中で最も大きなテントの入り口を潜った。

そこには、虎人と中年の人族、そして、聖女がいた。

縄までは打たれていないが、敷物の上で力無く項垂れていた聖女は、彼らが入ってくると、なぜかハッと顔を上げたが、すぐにまた下を向いてしまった。

40才くらいの人族の男が、口を開く。

「ミゼット。 一体、どこで油を売っていたんだ?」

「モーゼス先生。 あ、あの・・犬人に、捕まってしまって・・」

「なにっ!? まさか、こちらの情報を漏らしてはいまいな」

「はい。 それは、もう」

ミゼットは、嘘をつくしかなかった。
情報を漏らしたとばれた瞬間、彼の人生は終わりである。

「とにかく、急いで南へ帰る必要があるな」

今回の任務は、聖女確保が目的である。
それさえ果たせたなら、他のことは何とでもなる。
その果てには、研究者としての昇格が待っている。

二人は、それそれが胸算用をするのであった。

----------------------------------------------------------------

舞子は、せっかく会えた史郎と、すぐ分かれてしまったことが辛かった。
しかし、よく考えると、彼は自分のために異世界まで来てくれた。

舞子は、そのことが嬉しいのだった。

犬人が、行方不明になっていた、もう一人の人族を連れて入ってきたとき、彼女は、そのような物思いにふけっていた。

『舞子、聞こえるか? 
周囲に気づかれないよう、聞いてくれ』

そのとき、史郎の声が頭の中で響いた。

『史郎君っ!』

『長い間、点ちゃんが、使えなくなっていてね。 
それで、探すのに手間取ったよ』

『史郎君・・私のために、この世界に?』

『ああ、畑山さんには、君と加藤を連れて帰るって、約束してるからな』

『加藤君も、この世界に?』

『いや。 奴は、別の世界だ』

『どうやって、ここまで?』

『ああ、それを話すと長くなるから、救出してからゆっくりね。
それより、そこには誰がいる?』

『えっと、虎人が一人、犬人が一人、人族が二人いるよ』

犬人か、キャンピーかもしれないな。
もう一人の人族は、あの男の関係者だろう。

『奴らは、武器を持っているかい?』

『うん。 虎人が背中に剣を背負ってる』

『少しだけ待ってくれ。 
今から、救出に向かうから』

『うん、待ってる!』

舞子が思いのほか元気そうなので、少し安心する。

『何か変化があったら、念話で話してくれ』

『うん!』

史郎は、すぐに追跡の準備を始めた。

今回は点魔法を使うだろうから、自分一人の方がいいだろう。

書きかけの報告書の横に、アンデへの書置きを残す。

『ご主人様ー』

お、点ちゃん、何だい?

『聖女様の様子が知りたいの?』

知りたいけど、何かあったら連絡してくるよ。

『聖女様がいる場所を、見られますよー』

え?

『とにかく、やってみますね』

点ちゃんは、しばらくぴょんチカしていたが、やがてピタッと止まった。

『できましたよー』

どうすればいいの?

『パレットをつくれば、そこに映しますよ』

みょんみょんピーン

パレット(板)を、作ってと。

お! 確かに、映像が出てきた。

点ちゃん、音も付けられる?

『簡単ですよー』

じゃ、音もお願い。

『はいはーい』

映像には、すぐ音が付いた。

これは凄いね。 ライブ映像だ。

『ライブってなんですか?』

いや、それ、今はいいから。

それより、追跡するとき、このパレットはかさばっちゃうな。

『ああ、それは小型化すればいいんですよ』

小型化しておいて、使いたいときだけ大きくするってこと?

『それより、こんなのは、どうでしょう』

また、ぴょんチカしてるね。

おお! これは、いいね。
視界の左上に四角い枠が現れて、その中に舞子の映像が映ってる。

点ちゃん、どうやったの?

『いろいろ、工夫してみましたー』

いろいろね。 まあ、いいか。 便利だから。

じゃ、出発するか。 
しかし、アンデたちに見つからないようにできるかな。

『できますよー』

あ、点ちゃんが聞いてるんだった。
やっぱり出たね。 お得意の「できますよー」

で、どうやるの、点ちゃん。

『まず、ご主人様が通れるだけの穴を、壁に開けてください』

まあ、それは簡単にできるよ。 
自分で作ったんだから。

ほいっと、出来た。

『じゃ、いきますよー』

俺の体は、いきなり外へ飛び出していた。



点ちゃん、ここ、二階なんですが・・
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...