81 / 607
第二章 獣人世界グレイル編
第24話 聖女救出
しおりを挟む二階の壁に開けた穴から外に飛び出した史郎は、下へは落ちず、そのまま水平に移動していた。
点ちゃん、これは?
『点を付けて物を動すのありますよね。
今回は、ご主人様自身を動かしています』
なるほどね~、って、なんかすごいぞこれ。
俺、今、空飛んでる。
うーん、最高だね。 空中散歩だ。
『ご主人様と、散歩ー♪』
点ちゃん、方向間違えないでね。
『向こうにも点があるから、間違えようがありませんよ』
そりゃ、そうだ。
うわ! もう見えて来たぞ。 あのテントだな。
映像に映ってるのと、同じ生地で出来てるもんね。
あ、いいこと思いついた!
『悪いことの、間違いじゃありませんか?』
まあ、見てたら分かるよ。
点ちゃん、分裂してテントの横面と底にくっついてくれる?
『・・・できましたよー』
じゃ、テントごと持ち上げて、集落まで持って行こう。
『はいはーい』
-------------------------------------------------------------------
「じ、地震か!?」
突然揺れ出した地面に、モーゼスは驚く。
やがて揺れは止まった。
しかし、何か浮遊感のようなものがある。
余震が収まらないのか。
テントから顔を出して、驚嘆する。
「な、なんだ、これは!」
テントが、空中に浮いている。
下に見える森から考えて、地面から50mはあるだろう。
「どうなってるんだ!」
テントの隙間から、他にもいくつかのテントが空中に浮いているのが見える。
テントは、一方向に進んでいるようだ。
いや、飛んでいる。
その時、一つの人影がテントのすぐ脇に浮かんでいるのに気が付いた。
「だ、誰だ!」
後ろから四つん這いになったミゼットがやって来て、その人影を確認した。
「ひいいいっ!」
彼は叫ぶと、入り口から遠ざかろうとしてか、テントの奥へ転げ込んだ。
モーゼスは、ミゼットのところに行き、顔を覗いてみる。
ミゼットは、目を固く閉じ、全身を震わせている。
「おい! 奴を、知ってるのか?」
尋ねるが、ミゼットは首を左右に振るばかりである。
「しっかりしろっ」
肩を掴んで揺するが、こちらの声が届いているようには見えない。
一体、この男に何があったというのか。
横をみると、聖女が落ち着いて座っている。
モーゼスは、ある可能性に気付いた。
「これを引き起こしたのは、お前かっ!」
彼は聖女に掴みかかった。
いや、掴みかかろうとした。
その瞬間、左足の感覚が無くなる。
体を支えられなくなった彼は、横向きに転がった。
這って、聖女の方に向かう。
あと少しで聖女に手が届こうというとき、目の前に二本の足が立ちふさがった。
見上げると、先ほどテントの横を飛んでいた少年である。
「な、何者だ!」
少年は、答えもしない。
こちらに背を向けて、聖女に話しかけている。
「舞子、大変だったな。 よく頑張った」
聖女が少年の胸に飛び込む。
「史郎君、史郎君・・」
モーゼスはポケットに手を入れ、魔道具を取り出そうとした。
「て、手が動かない・・」
何の前触れもなく、痛みもなく、右手が動かなくなる。
「く、くそっ」
利き手ではない左手で、無理やり魔道具を取り出そうともがく。
自分の代わりに少年の手が、ゆっくり魔道具を引っ張り出した。
「ふ~ん。 これが、ミサイルみたいなのが飛び出す筒か」
少年は、聖女を抱えてテントの入り口へいくと、外へ向けてそれを撃った。
ヒュッ
音を立てて、魔法の弾丸が飛び出す。
「なるほどね。 一発しか撃てないのか」
「くそうっ!」
モーゼスは、手荷物へ左手を伸ばす。
そこには、いくつもの魔道具が入っている。
手荷物に届いた瞬間、左手が動かなくなった。
「て、手がぁっ!」
彼は最後の手段として、詠唱を始める。
少年は、使い終わった筒をためらうことなくフルスイングした。
側頭部に衝撃が走る。
モーゼスは、意識を失い闇に沈んだ。
---------------------------------------------------------------------
一人の村人が、それを見つけた。
空を飛ぶ何かが、こちらに近づいてくる。
皆が警戒するよう、彼は大声で叫んだ。
犬人たちが、家から次々に出てくる。
子供たちは、空を飛ぶ何かを指さして叫び合っている。
それは、集落の中心にある広場へ、音もなく降りた。
目の前で見るまで、何か分からなかったはずである。
なぜなら、それがテントだったからだ。
人間の認識は、あまりにも自分の常識とかけ離れると、それを見なかったことにする。
テントが空を飛ぶという光景が、それを引き起こしていた。
「お、みんな揃ってるね」
一番大きなテントから、シローが出てきた。
そして、その後ろから聖女が現れた。
集まっていた村人は、みな平伏して拝んでいる。
それは、そうだろう。
自分たちが崇めている聖女、さらわれたと思っていた聖女が、空から降りてきたのだから。
犬人たちの多くは、涙を流している。
「アンデ、ごめん」
俺は、アンデに声を掛ける。
「まあ、終わり良ければ全てよしだ」
あれ? その言い方、この世界にもあるのか。
「聖女様っ!」
まだ、完治していないコウモリ男が舞子に駆け寄る。
「ご無事でしたか・・・」
よほど心配だったのか、舞子の足元にうずくまっている。
一体、蝙蝠男に何があったというのか。
「ピエロッティ。 あなた、まだ怪我が治ってないでしょう」
舞子の治癒魔術の光が、コウモリ男を包む。
「あああ」
感極まった声を出したコウモリ男は、涙を流していた。
史郎は初めて聞いたコウモリ男の名前より、彼が感謝の涙を流したことに驚いていた。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる