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空知音

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第二章 獣人世界グレイル編

第24話 聖女救出

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二階の壁に開けた穴から外に飛び出した史郎は、下へは落ちず、そのまま水平に移動していた。


点ちゃん、これは?

『点を付けて物を動すのありますよね。 
今回は、ご主人様自身を動かしています』

なるほどね~、って、なんかすごいぞこれ。

俺、今、空飛んでる。

うーん、最高だね。 空中散歩だ。

『ご主人様と、散歩ー♪』

点ちゃん、方向間違えないでね。

『向こうにも点があるから、間違えようがありませんよ』

そりゃ、そうだ。

うわ! もう見えて来たぞ。 あのテントだな。

映像に映ってるのと、同じ生地で出来てるもんね。

あ、いいこと思いついた!

『悪いことの、間違いじゃありませんか?』

まあ、見てたら分かるよ。

点ちゃん、分裂してテントの横面と底にくっついてくれる?

『・・・できましたよー』

じゃ、テントごと持ち上げて、集落まで持って行こう。

『はいはーい』

-------------------------------------------------------------------


「じ、地震か!?」

突然揺れ出した地面に、モーゼスは驚く。

やがて揺れは止まった。

しかし、何か浮遊感のようなものがある。
余震が収まらないのか。

テントから顔を出して、驚嘆する。

「な、なんだ、これは!」

テントが、空中に浮いている。

下に見える森から考えて、地面から50mはあるだろう。

「どうなってるんだ!」

テントの隙間から、他にもいくつかのテントが空中に浮いているのが見える。

テントは、一方向に進んでいるようだ。 

いや、飛んでいる。

その時、一つの人影がテントのすぐ脇に浮かんでいるのに気が付いた。

「だ、誰だ!」

後ろから四つん這いになったミゼットがやって来て、その人影を確認した。

「ひいいいっ!」

彼は叫ぶと、入り口から遠ざかろうとしてか、テントの奥へ転げ込んだ。

モーゼスは、ミゼットのところに行き、顔を覗いてみる。

ミゼットは、目を固く閉じ、全身を震わせている。

「おい! 奴を、知ってるのか?」

尋ねるが、ミゼットは首を左右に振るばかりである。

「しっかりしろっ」

肩を掴んで揺するが、こちらの声が届いているようには見えない。

一体、この男に何があったというのか。

横をみると、聖女が落ち着いて座っている。

モーゼスは、ある可能性に気付いた。

「これを引き起こしたのは、お前かっ!」

彼は聖女に掴みかかった。

いや、掴みかかろうとした。

その瞬間、左足の感覚が無くなる。

体を支えられなくなった彼は、横向きに転がった。

這って、聖女の方に向かう。

あと少しで聖女に手が届こうというとき、目の前に二本の足が立ちふさがった。

見上げると、先ほどテントの横を飛んでいた少年である。

「な、何者だ!」

少年は、答えもしない。

こちらに背を向けて、聖女に話しかけている。

「舞子、大変だったな。 よく頑張った」

聖女が少年の胸に飛び込む。

「史郎君、史郎君・・」

モーゼスはポケットに手を入れ、魔道具を取り出そうとした。

「て、手が動かない・・」

何の前触れもなく、痛みもなく、右手が動かなくなる。

「く、くそっ」

利き手ではない左手で、無理やり魔道具を取り出そうともがく。

自分の代わりに少年の手が、ゆっくり魔道具を引っ張り出した。

「ふ~ん。 これが、ミサイルみたいなのが飛び出す筒か」

少年は、聖女を抱えてテントの入り口へいくと、外へ向けてそれを撃った。

ヒュッ

音を立てて、魔法の弾丸が飛び出す。

「なるほどね。 一発しか撃てないのか」

「くそうっ!」

モーゼスは、手荷物へ左手を伸ばす。
そこには、いくつもの魔道具が入っている。

手荷物に届いた瞬間、左手が動かなくなった。

「て、手がぁっ!」

彼は最後の手段として、詠唱を始める。

少年は、使い終わった筒をためらうことなくフルスイングした。

側頭部に衝撃が走る。


モーゼスは、意識を失い闇に沈んだ。

---------------------------------------------------------------------

一人の村人が、それを見つけた。


空を飛ぶ何かが、こちらに近づいてくる。

皆が警戒するよう、彼は大声で叫んだ。

犬人たちが、家から次々に出てくる。

子供たちは、空を飛ぶ何かを指さして叫び合っている。

それは、集落の中心にある広場へ、音もなく降りた。

目の前で見るまで、何か分からなかったはずである。

なぜなら、それがテントだったからだ。

人間の認識は、あまりにも自分の常識とかけ離れると、それを見なかったことにする。

テントが空を飛ぶという光景が、それを引き起こしていた。


「お、みんな揃ってるね」

一番大きなテントから、シローが出てきた。

そして、その後ろから聖女が現れた。

集まっていた村人は、みな平伏して拝んでいる。

それは、そうだろう。

自分たちが崇めている聖女、さらわれたと思っていた聖女が、空から降りてきたのだから。

犬人たちの多くは、涙を流している。

「アンデ、ごめん」

俺は、アンデに声を掛ける。

「まあ、終わり良ければ全てよしだ」

あれ? その言い方、この世界にもあるのか。

「聖女様っ!」

まだ、完治していないコウモリ男が舞子に駆け寄る。

「ご無事でしたか・・・」

よほど心配だったのか、舞子の足元にうずくまっている。
一体、蝙蝠男に何があったというのか。

「ピエロッティ。 あなた、まだ怪我が治ってないでしょう」

舞子の治癒魔術の光が、コウモリ男を包む。

「あああ」

感極まった声を出したコウモリ男は、涙を流していた。



史郎は初めて聞いたコウモリ男の名前より、彼が感謝の涙を流したことに驚いていた。
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