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第二章 獣人世界グレイル編
第25話 獣人団結
しおりを挟む聖女救出から一週間後、アンデ、史郎、舞子、そして、数人の犬人は、狐人族の城へ向かっていた。
目的は、緊急に招集された獣人会議への参加である。
しかし、この旅に納得できない者もいるようである。
「あー・・こんなことで、本当にいいのか?」
アンデが、呆れ顔である。
今、俺たちは、空を飛んでいる。
点ちゃんで作った床の上に、捕まえた虎人たちが所持していた、豪華な敷物を広げている。
その上に、ちゃぶ台のようなテーブルを出し、そこには俺が点てた香草茶が人数分置いてある。
点ちゃんは今回、優美な流線形を取っており、揺れることもほとんどない。
アンデは、この緊急時にお茶を飲んでくつろいでいる、ということが納得できないらしい。
まあ、でも、いいんじゃない?
俺の人生目標、くつろぐことだから。
舞子は俺に寄り添うように座り、ニコニコと機嫌がいい。
周囲の景色が見られるように、点ちゃんは透明にしてある。
「獣人世界って、綺麗だね」
舞子も、俺の趣向が分かってくれているらしい。
景色を楽しみながら、美味しそうにお茶を飲んでいる。
おれは、「ふわ~」と欠伸をすると、モフモフ感がある敷物の上に横になる。
いや~、くつろぎますな~、しかも絶景だね~。
『絶景だね~』
お、点ちゃんも、そう思ってくれるか。
さすが、わが心の友よ。
『友よ~』
あ、繰り返してるだけね。 まあ、いいけど。
次に飛行するときは、お湯の魔石使って、お風呂を沸かすのはどうだろう。
俺がそのような妄想を膨らませていると、巨大な木が見えてきた。
狐人族領の中心たる、神樹である。
「ええ~っ! もう着いちゃうの?」
くつろぎタイムを中断された俺は納得できないが、アンデの顔を見て、それ以上の不平を言うのは止めた。
山岳地帯を発ってからここまで、半日もかからなかったことになる。
狐人たちも、空から降りてきた俺たちに驚いていたが、本当に彼らが驚くのはここからだった。
四人の熊人に支えられた、金色のかごがやってくる。
熊人は舞子の前に駕籠を下ろすと、さっと後ろに下がり平伏した。
舞子は戸惑っていたが、俺が手を引くと、黙ってかごまで着いてきた。
俺が頷くと、彼女は渋々かごに乗った。
熊人たちが、それぞれ持ち手に取りつく。
彼らは異様なほど慎重に、かごを持ち上げた。
きっと舞子は、少しも揺れを感じなかったに違いない。
俺たちは、ゆっくり進むかごの後を追って、城内へ入っていった。
後に残された狐人族の人々は、今まで見たこともない、その光景に目を丸くしていた。
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「あ、シロー・・」
会議場に入ると、コルナが何か言いかけたが、横に控えた文官の狐人、ホクトに袖を引っ張られ、口を押えた。
会議室は前と同じ広間だったが、神樹側の壁際に、金色の台が設えてあった。
熊人が、その上にゆっくりとかごを載せる。
白い装束を着た狐人族の少女が、駕籠に近づいていく。
獣人の長達が座る円テーブル側の御簾を、ゆっくりと半分ほど引き上げた。
舞子が姿を現す。
皆が平伏する。
俺だけ立っているのも変なので、平伏しておいた。
コルナが会議の開催を告げると、議場は聖女の付き添いをどの部族が行うかで揉め始めた。
舞子は、台の上で困惑している。
困惑が極まって、思わず俺の名を言ってしまった。
「史郎君・・」
その聞こえるか聞こえないかの声がしたとたん、場がシーンと鎮まりかえった。
俺は仕方なく、舞子が座る台座の斜め後ろに立った。
すると、今までの紛糾が無かったかのように、会議は次の議題に移った。
「アンデ、この報告は真か?」
コルナが、手元の資料を指さして質問する。
「ああ、虎人族の聖女様への攻撃、誘拐。 全て本当だ」
虎人族は、今回の会議に呼ばれていないのか、姿が無かった。
「また、人族が奴らの背後にいたこともか?」
「ああ、それも本当だ。
すでに二人の人族を確保している」
場がざわつく。
しかし、これは、まだ序の口に過ぎなかった。
「村を襲い、人を攫っていた猿人族の背後に、人族がいたというのも?」
「本当だ。 二人の人族が別々に、同じ内容の自白をしている」
「なるほど。 さて、問題は、二人の目的だが・・
奴隷にするため、あるいは、人体実験の材料にするため、獣人を狩っていたということでいいのか」
衝撃の事実に、一瞬シーンとなるが、次の瞬間、怒号が飛び交った。
「なんだと!!」
「人族めっ! 目にもの見せてやる!」
「そうだ! 人族の世界へ攻め込め!」
パン、パン
コルナが手を打つと、場が少し鎮まった。
「つまり、人族全員に復讐しろということか?」
「そうだ!」
強硬派の豹人が、叫ぶ。
「それなら、聖女様も狙うのだな」
「そ、それは・・」
「聖女様も、人族ぞ」
「・・・」
「事情が事情だけに、お主らの気持ちは、よう分かる。
しかし、感情におぼれて、本当の敵を見失うな」
「わ、分かった・・」
豹人は、完全には納得していないようだが、とりあえず矛先を収めた。
「では、どういう方策と取るかだ。ニャニャ」
猫人の賢人が、発言する。
「あのー・・」
舞子の小さな声に、また場が鎮まった。
「さっきの方の発言にあったとおり、今回の事は、人族も絡んでいます。
私に任せてもらえませんか」
このやり取りは、俺と舞子で事前に打ち合わせてあった。
アドリブが必要な時は、点ちゃんで念話できるしね。
「それは、聖女様が、そうおっしゃられるなら異存はありません。
しかし、どうやって手を打たれるおつもりで」
獣人たちが、発言した熊人をギロリと見る。
今の発言は、聖女に疑いを投げかけたと見なされかねなかった。
「すでに、いくつか考えています。
皆さんにも、協力していただくことになります。
どうか、よろしくお願いします」
舞子が言うと、一瞬音が消えた後、爆発するように声が上がった。
「もちろんです! 聖女様」
「聖女様のためなら、我らはこの身を投げ出しますぞ」
「我々も同様です!」
「聖女様のおっしゃるままに!」
「「「聖女様!!」」」
舞子は、余りの崇められぶりに、ちょっと引いている。
まあ、今は半分くらい御簾が降りているから、獣人たちからは、彼女の表情は見えまい。
「では、聖女様との連絡係を、各部族二人ずつ出してほしい」
コルナ議長のこの言葉で、議場はまた騒然としたが、舞子の小声がまた場を圧した。
「皆さま、よろしくお願いします」
聖女が、頭を下げた雰囲気を御簾越しに感じたのであろう。
自分が連絡役を、という争いは一気に収まった。
「では、これにて閉会じゃ」
それだけ言うと、コルナはさっさと議場を出て行った。
舞子は、来た時と同じように、四人の熊人に担がれたかごで退場した。
きっと、特別あつらえの部屋に通されるのだろう。
俺は念話で舞子の首尾を褒めると、後で会おうという言葉で連絡を切った。
まあ、レベルアップした点ちゃんが付いているから、舞子の守りは鉄壁である。
史郎は、前回訪れた時に使った部屋に案内された。
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