ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
82 / 607
第二章 獣人世界グレイル編

第25話 獣人団結

しおりを挟む


聖女救出から一週間後、アンデ、史郎、舞子、そして、数人の犬人は、狐人族の城へ向かっていた。


目的は、緊急に招集された獣人会議への参加である。

しかし、この旅に納得できない者もいるようである。

「あー・・こんなことで、本当にいいのか?」

アンデが、呆れ顔である。

今、俺たちは、空を飛んでいる。

点ちゃんで作った床の上に、捕まえた虎人たちが所持していた、豪華な敷物を広げている。

その上に、ちゃぶ台のようなテーブルを出し、そこには俺が点てた香草茶が人数分置いてある。

点ちゃんは今回、優美な流線形を取っており、揺れることもほとんどない。

アンデは、この緊急時にお茶を飲んでくつろいでいる、ということが納得できないらしい。

まあ、でも、いいんじゃない?
俺の人生目標、くつろぐことだから。

舞子は俺に寄り添うように座り、ニコニコと機嫌がいい。

周囲の景色が見られるように、点ちゃんは透明にしてある。

「獣人世界って、綺麗だね」

舞子も、俺の趣向が分かってくれているらしい。

景色を楽しみながら、美味しそうにお茶を飲んでいる。

おれは、「ふわ~」と欠伸をすると、モフモフ感がある敷物の上に横になる。

いや~、くつろぎますな~、しかも絶景だね~。

『絶景だね~』

お、点ちゃんも、そう思ってくれるか。

さすが、わが心の友よ。

『友よ~』

あ、繰り返してるだけね。 まあ、いいけど。

次に飛行するときは、お湯の魔石使って、お風呂を沸かすのはどうだろう。

俺がそのような妄想を膨らませていると、巨大な木が見えてきた。

狐人族領の中心たる、神樹である。

「ええ~っ! もう着いちゃうの?」

くつろぎタイムを中断された俺は納得できないが、アンデの顔を見て、それ以上の不平を言うのは止めた。

山岳地帯を発ってからここまで、半日もかからなかったことになる。

狐人たちも、空から降りてきた俺たちに驚いていたが、本当に彼らが驚くのはここからだった。

四人の熊人に支えられた、金色のかごがやってくる。

熊人は舞子の前に駕籠を下ろすと、さっと後ろに下がり平伏した。

舞子は戸惑っていたが、俺が手を引くと、黙ってかごまで着いてきた。
俺が頷くと、彼女は渋々かごに乗った。

熊人たちが、それぞれ持ち手に取りつく。

彼らは異様なほど慎重に、かごを持ち上げた。

きっと舞子は、少しも揺れを感じなかったに違いない。

俺たちは、ゆっくり進むかごの後を追って、城内へ入っていった。


後に残された狐人族の人々は、今まで見たこともない、その光景に目を丸くしていた。


----------------------------------------------------------------

「あ、シロー・・」

会議場に入ると、コルナが何か言いかけたが、横に控えた文官の狐人、ホクトに袖を引っ張られ、口を押えた。

会議室は前と同じ広間だったが、神樹側の壁際に、金色の台が設えてあった。

熊人が、その上にゆっくりとかごを載せる。

白い装束を着た狐人族の少女が、駕籠に近づいていく。
獣人の長達が座る円テーブル側の御簾を、ゆっくりと半分ほど引き上げた。

舞子が姿を現す。

皆が平伏する。

俺だけ立っているのも変なので、平伏しておいた。

コルナが会議の開催を告げると、議場は聖女の付き添いをどの部族が行うかで揉め始めた。

舞子は、台の上で困惑している。
困惑が極まって、思わず俺の名を言ってしまった。

「史郎君・・」

その聞こえるか聞こえないかの声がしたとたん、場がシーンと鎮まりかえった。

俺は仕方なく、舞子が座る台座の斜め後ろに立った。

すると、今までの紛糾が無かったかのように、会議は次の議題に移った。

「アンデ、この報告は真か?」

コルナが、手元の資料を指さして質問する。

「ああ、虎人族の聖女様への攻撃、誘拐。 全て本当だ」

虎人族は、今回の会議に呼ばれていないのか、姿が無かった。

「また、人族が奴らの背後にいたこともか?」

「ああ、それも本当だ。 
すでに二人の人族を確保している」

場がざわつく。
しかし、これは、まだ序の口に過ぎなかった。

「村を襲い、人を攫っていた猿人族の背後に、人族がいたというのも?」

「本当だ。 二人の人族が別々に、同じ内容の自白をしている」

「なるほど。 さて、問題は、二人の目的だが・・
 奴隷にするため、あるいは、人体実験の材料にするため、獣人を狩っていたということでいいのか」

衝撃の事実に、一瞬シーンとなるが、次の瞬間、怒号が飛び交った。

「なんだと!!」

「人族めっ! 目にもの見せてやる!」

「そうだ! 人族の世界へ攻め込め!」

パン、パン

コルナが手を打つと、場が少し鎮まった。

「つまり、人族全員に復讐しろということか?」

「そうだ!」

強硬派の豹人が、叫ぶ。

「それなら、聖女様も狙うのだな」

「そ、それは・・」

「聖女様も、人族ぞ」

「・・・」

「事情が事情だけに、お主らの気持ちは、よう分かる。
しかし、感情におぼれて、本当の敵を見失うな」

「わ、分かった・・」

豹人は、完全には納得していないようだが、とりあえず矛先を収めた。

「では、どういう方策と取るかだ。ニャニャ」

猫人の賢人が、発言する。

「あのー・・」

舞子の小さな声に、また場が鎮まった。

「さっきの方の発言にあったとおり、今回の事は、人族も絡んでいます。
私に任せてもらえませんか」

このやり取りは、俺と舞子で事前に打ち合わせてあった。

アドリブが必要な時は、点ちゃんで念話できるしね。

「それは、聖女様が、そうおっしゃられるなら異存はありません。
しかし、どうやって手を打たれるおつもりで」

獣人たちが、発言した熊人をギロリと見る。
今の発言は、聖女に疑いを投げかけたと見なされかねなかった。

「すでに、いくつか考えています。 
皆さんにも、協力していただくことになります。
どうか、よろしくお願いします」

舞子が言うと、一瞬音が消えた後、爆発するように声が上がった。

「もちろんです! 聖女様」

「聖女様のためなら、我らはこの身を投げ出しますぞ」

「我々も同様です!」

「聖女様のおっしゃるままに!」

「「「聖女様!!」」」

舞子は、余りの崇められぶりに、ちょっと引いている。

まあ、今は半分くらい御簾が降りているから、獣人たちからは、彼女の表情は見えまい。

「では、聖女様との連絡係を、各部族二人ずつ出してほしい」

コルナ議長のこの言葉で、議場はまた騒然としたが、舞子の小声がまた場を圧した。

「皆さま、よろしくお願いします」

聖女が、頭を下げた雰囲気を御簾越しに感じたのであろう。
自分が連絡役を、という争いは一気に収まった。
「では、これにて閉会じゃ」

それだけ言うと、コルナはさっさと議場を出て行った。

舞子は、来た時と同じように、四人の熊人に担がれたかごで退場した。

きっと、特別あつらえの部屋に通されるのだろう。

俺は念話で舞子の首尾を褒めると、後で会おうという言葉で連絡を切った。

まあ、レベルアップした点ちゃんが付いているから、舞子の守りは鉄壁である。



史郎は、前回訪れた時に使った部屋に案内された。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...