95 / 607
第二章 獣人世界グレイル編
第38話 リーヴァスの復讐
しおりを挟む次の日は、5人で河原に遊びに行った。
子供たちは、じーじ(リーヴァス)に教えてもらった魚取りに夢中だ。
砂地に敷いた布の上で、ルルとリーヴァスさんに獣人世界で体験したことを話した。
各エピソードごとにルルの表情が変わり、とても可愛いかった。
「なるほど、一回り大きくなるのも頷けますな」
リーヴァスさんも、話に感銘を受けたようである。
「しかし、奴がその様なことになっていたとは」
「奴」とは、コウモリ男改めピエロッティのことである。
初代国王の息子、つまり皇太子を殺した彼を、リーヴァスはずっと探っていた。
子供たちが疲れて眠くなったので、背負って家に帰る。
家の前では、コルナが待っていた。
「お兄ちゃん、やっと帰ってきた」
「お、お兄ちゃんって・・?」
ルルが問いかけるように、こちらを見る。
俺には、針のムシロが見えていた。
「とにかく、中に入ろう。
きちんと、紹介するから」
子供たちを寝かしつけ、三人で居間のソファーに座る。
リーヴァスさんは、子供たちの部屋である。
「ええと、こちらは、元狐人族族長コルナ様です。」
「初めまして。
お噂は、お兄ちゃんからいろいろ聞いていました。
狐人族のコルナと言います。
ルルさん、よろしくお願いします」
「は、初めまして。 ルルです。
シローさんとは、どういう・・?」
「え~と、モフモフした仲です」
「えっ! モフモフ!?」
「そ、それは・・」
「お兄ちゃんは、黙ってて」
俺が発言しようとしたが、コルナにピシャリと遮られる。
「シローさん。 少し席を外してもらえますか?」
真剣な顔のルルさんが怖いです。
「は、はい・・」
俺は、すごすごと庭に出る。
手持ち無沙汰だったので、点ちゃん1号に乗り込み、お土産の整理をする。
1時間ほどして、もういいかなと思って居間に入ると、二人はニコニコと話し合っていた。
あれ?! 修羅場はどこへ?
どうしていいか分からず、きょときょとしていたが、二人が気づいて手招きしてきた。
「シローさん。 コルナさんに、随分お世話になったんですね」
「随分」のところにアクセントがあったようだが、きっと気のせいだろう。
「ああ、いろいろお世話になったんだ。
コルナ、改めてお礼を言うよ。 ありがとう」
「お兄ちゃん、他人行儀はよして」
え!? 他人なんですが・・
「彼女には、ウチに住んでもらいます」
ええっ!! ルル、な、なんでそんなことに?
「ど、どうして?」
「どうしてもです。
心当たりがありませんか?」
あるといえばある、ないといえばないような・・
俺が黙っていると、ルルが手をパンと打って言った。
「そうなると、お部屋の用意をしないと。
必要なものを、準備して来ますね」
ルルは、そそくさと部屋から出ていく。
だが、すぐに戻ってきた。
「シローとおじい様に、お客様です」
え? 二人共通の知り合いか。
マックなら、そのまま中に入ってくるだろうし・・誰だろう。
俺が玄関に出ると、そこには予想外の人物が立っていた。
ピエロッティである。
---------------------------------------------------------------
ルルが、二階にリーヴァスを呼びに行く。
ルルとコルナは、買い物に行くと言って一緒に出かけた。
居間には、俺、リーヴァスさん、ピエロッティが残された。
リーヴァス、ピエロッティの二人が向かい合うように、椅子に座る。
沈黙がしばらく続いた。
こ、これは気まずい・・
しょうがないから、俺が話し出す。
「こちらが、リーヴァスさん。 俺がお世話になっている方です。
こちらがピエロッティさん。 元宮廷魔術師で、今は聖女の従者です」
少しして、リーヴァスさんが口を開いた。
「元宮廷魔術師ヴィナスだな」
自分の名前を聞いて、ピエロッティの体がピクリと動いた。
「はい」
「皇太子殺害の顛末を、話してもらおう」
「はい」
ピエロッティは、皇太子殺害について話し始めた。
当時、勇者の妻である女性から、皇太子毒殺を命じられたこと。
勇者はこのことを知らなかったようだが、その妻の実家であるドラコーン子爵家(現公爵家)は、毒の入手などに関わっていたこと。
そういったことを淡々と述べると、彼は床にひざまずいた。
リーヴァスさんは、黙って部屋を出て行った。
すぐに帰ってくると、その左手には彼の愛剣が握られていた。
ピエロッティはそれを目にすると、黙って目を閉じ頭を垂れた。
リーヴァスさんが、剣をすらりと抜く。
薄青い光を放つその剣は、きっと伝説級の魔剣だろう。
リーヴァスさんは、ピエロッティの首筋に、その剣をピタッと当てた。
ピエロッティは、静かに目を閉じたまま、身じろぎもしない。
どのくらい、そうしていただろうか。
リーヴァスさんは剣を鞘に納めると、こう言った。
「己から殺されようとする者を殺しても、復讐とはならぬ」
涙が一筋、つうとリーヴァスさんの目から落ちた。
そして、黙って、二階へ上がっていった。
俺は、姿勢を崩さないピエロッティを立たせ、香草茶を入れてやった。
彼はそれをゆっくり飲み干すと、俺の目を見て頭を下げ、立ち去った。
後日、ドラコーン公爵家は、全ての財産を没収され、貴族の身分を失った。
国の財を私した罪だそうだ。
さすがに真相は、明かせないよね。
一族郎党、国外追放の憂き目に遭ったが、これは万一真相が露見したとき、彼らに対する民衆の敵意を防ぐためだそうだ。
こうして、長年にわたるリーヴァスの復讐劇は幕を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる