114 / 607
第三章 学園都市世界アルカデミア編
第16話 海水浴と山脈施設
しおりを挟む気持ちのいい入浴が終わり、史郎がタオルで体を拭いていると、女に動きがあった。
研究室から出て、長い廊下を奥へ奥へと進んでいく。
まだ、女が誰にも出会っていないことから考えると、この巨大施設の中には、意外に少人数しか、いないのかもしれない。
壁に大きなドアがあり、それを開けて入っていく。
そこは、白い巨大な部屋で、長いテーブルが沢山置いてある。
人が、結構いる。
長いテーブルに着いて、食事をしている。
女は、壁際の突起に、何か話しかける。
3分ほどで、壁に開いた穴からトレイが出てくる。
トレイには、シリアルを固めたバーのようなものと、チューブが載っていた。
どう見ても、まずそうである。
もしかすると、ここの人たちは、食事をエネルギーの補給としか考えていないのかもしれない。
女は、トレイをもち、二人の男性が座っているテーブルに着いた。
「アンナ、町はどうだった?」
女の名前は、アンナと言うらしい。
「退屈だったわよ、もう。
私も、早く上級職に上がりたいわ」
「君、まだここにきて5年じゃないか。
俺は、10年目だぞ」
「そうそう。 早くても、15年はかかるからな」
「でも、あなたたちも、賢人会入りを狙ってるんでしょ」
「まあね。 今取り掛かってる研究がうまくいって、さらに次の段階がうまくいけば、可能性があるかもしれない」
「まあ、気が長い話よね」
「ああ、そういえば、君がいないときに、上からの連絡があったんだ」
「どんな連絡?」
「なんでも、獣人関係の素材搬入が、しばらく途切れるらしい」
「ええっ! それじゃ、私の研究が進まなくなっちゃう」
「お前だけじゃないぞ。
ほとんどの研究者が、獣人素材を使ってるからな」
「まあ、魔道具系は、全滅だろうな」
「一体なんで、そんなことになっちゃったの?」
「その点について、賢人会からの連絡はまだ無いんだ」
「何か、隠してるのかもしれないわね」
「まあ、隠してても、俺たちには、どうしようもないけどね」
男たち二人は、食事を終わり、席を立った。
もちろん、二人にも点を付けて、点の拡散を狙う。
俺は、三人の会話を参考に、点ちゃん1号の位置を調整する。
山脈の西側、つまり、学園都市の反対側の原生林の上に出る。
山を上から見下ろす位置では無く、横上方から見下ろす場所に点ちゃん1号を固定する。
高度を下げたので、機体の色は、空の色に合わせた青色に変えている。
人口密度が低いからか、夜になっても点の数は、20にもならなかった。
史郎は、一旦、住居へ帰ることにした。
-------------------------------------------------------------
次の日は、学園が休みだったので、朝から山脈施設の観察に向かう予定だったが、皆のストレスが溜まっている様なので、例の群島へ連れて行く。
点が拡散しないと、山脈に行っても意味が無いからね。
初めて島に来る、コルナ、ミミ、加藤は、白い砂浜と青い海に、一発で心を撃ち抜かれたようだった。
この日のために、水着を用意していた、コルナとミミは、さっそく水辺へ走っていく。
ポルは、初めて見るミミの赤いビキニ姿に、顔を赤くしている。
「お兄ちゃん、一緒に泳ぐよ」
俺の手にぶら下がっているコルナは、紺のワンピース型の水着である。
あなた、何か狙ってませんか?
俺が点ちゃんでビーチボールを作ると、全員が凄く喜んでくれた。
ボールラリーや、ウキワにしてぷかぷか浮かぶとか、それぞれ工夫して遊んでいる。
テコのために、一人乗りの小型船も作ってやる。
海岸から余り離れないように設定して、テコを乗せる。
舟は、へさきを向けたほうに進むようにしてある。
テコは、これがすごく気に入って、名前まで付けていた。
でも、いくら何でも「タイタニック2号」は、縁起悪いと思うよ。
加藤は、「探検に行く」と言い残して、島の奥に消えていった。
まあ、奴らしいといえば、らしいけどね。
昼になり、お腹が減ったので、点ちゃん収納から食べ物を出そうとしたら、肩に豚のような獲物を担いだ加藤が帰ってきた。
俺たちは、急遽バーベキューモードになって、各自が働いた。
石を運ぶ者、枯れ木を集める者、水を汲んで来る者。
水は、水の魔道具からでも採(と)れるのだが、加藤が見つけた泉から汲んで来た。
せっかくだからね。
俺は、点ちゃんでコンロを作る。
火属性の点を付けた流木を投げ込むと、すぐに十分な火力になった。
塩やハーブは、点ちゃん収納にちゃんと用意してあった。
アウトドア好きを、舐めてはいけない。
テーブルと各自の椅子を用意すると、いよいよ豚を焼く。
焼き肉のタレが欲しいところだが、ここはアリストで手に入れた、肉のうまみを引き出す、つけ汁を利用する。
ある程度焼けたところで、さらにつけ汁を付けて焼く。
香ばしい匂いに、みんなの空腹が最高頂になった時、ちょうど肉の塊が焼ける。
俺は、獣人世界で手に入れたナイフで、表面がよく焼けた肉をこそげとり、各自の皿に置いていく。
肉の上から、さらにつけ汁を掛けたみんなは、一斉(いっせい)にかぶりつく。
「うわっ! うまっ」
「おいしーっ」
ミミとポルは、歓声を上げながら食べている。
コルナとテコは、黙々と食べている。
真剣な表情が、ちょっと可愛い。
加藤と俺は、馬鹿話の合間に肉を焼き、食べる。
皆が、喉が渇いた頃を見計らって、キンキンに冷えたジュースを出してやる。
点魔法で作ったコップの底に水魔術を付与し、コップ自体の温度が下がるようにしてある。
皆は、点ちゃん収納のジュースの在庫が無くなるまで、飲み尽くした。
泉の水がものすごくうまいのに気づいて、俺はもっぱらそっちを飲んでいた。
お腹が一杯になったので、皆眠くなったようだ。
俺は、点魔法で自立型のハンモックをつくり、木陰に設置していく。
ハンモックには、風魔術と水魔術が付与してあり、涼しいそよ風が吹き上げるようになっている。
皆は、それに横になって、気持ちよくお昼寝している。
まさに、くつろぎの図である。
その間に俺は、バーベキューサイトの後始末に掛かる。
食事の後で、その場所を汚して立ち去るのは、アウトドアマンの沽券にかかわるからね。
豚は、処理が難しい部位を処分し、塩を厚めに塗って、点ちゃん収納に納める。
点ちゃん収納は、収めたものが普通に腐るから、気を付けておかなくてはいけない。
3時間ほどして、眠っている皆を起こす。
「こんなに気持ちよく寝たのは、初めて」
それが、共通の意見だった。
点ちゃん。 みんな、すごく喜んでるよ。
『フフフ。 そう言ってもらえて、よかったですよ、ご主人様』
ピカッ
おおっ! 久しぶりのピカ来たーっ。
初めて見た皆は、すごく驚いてる。
まあ、人の身体が光れば、誰でも驚くよね。
しかも、かなり強い光だからね、今回のは。
「だ、大丈夫なんですか?」
ポルが、心配してくれる。
「ああ。 光るのは、俺の魔法がレベルアップした証拠だから」
「で、レベルいくらになったの?」
ミミが、聞いてくる。
点ちゃん、レベルどうなった?
『レベル12です。 新スキルは、付与:重力ですね』
重力かー、ブラックホールとかできるのかな?
「レベル12だよ」
「えっ!? 魔術のレベルって最高で10までじゃないの?」
「ああ。 そうらしいけど、俺の点魔法は特別みたいなんだ」
「さすが、お兄ちゃん」
コルナが、また腕に抱き着いてくる。
加藤が、意味深な顔で、こちらを見ている。
おい、誤解してるぞ。
こうして、俺たちの一日だけのバカンスは幕を閉じた。
山脈施設の調査のことをすっかり忘れている、のんびり史郎であった。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる