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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第17話 秘密施設
しおりを挟む群島のビーチで、休日を過ごした翌日、学園を休んだ史郎は、山脈施設の調査に向かった。
今日も、原生林の上空に位置取りをする。
点の分布を調べると、一昨日に点があった階層と較べ、かなり高い位置に、いくつかの点があった。
最も高いのは、山脈の7合目あたりだろうか。
その地下に、いくつか反応がある。
俺は、一つずつ、それらの点から見た映像をチェックしていった。
その一つ、最も高度が高いところにあるものが、どうやらこの施設の長を示しているらしい。
映像を見ると、かなり高齢の男性で、部下から「ブラム」と呼ばれている。
彼が何人かの部下と話すのを聞いて、俺は彼が賢人の一人だと結論づけた。
パルチザンのダンへの報告は、これまでの情報で十分なのだが、俺は、もう少し、待つことにした。
なぜなら、この男が下層に降り、大勢の人を集め、会議をする映像が入ってきたからだ。
「では、緊急賢人会を始める」
ブラムのこの言葉で、おそらく彼が賢人の中心人物であること。
この場にいるのが、賢人達であることが分かった。
さっき、さっさと帰らなくて本当によかった。
まさに、大当たりである。
点を全員に付け、賢人が座ったテーブル中央の上空に映像転送、映像記録用の点を設置する。
映像記録は、レベル12になって手に入れた、点ちゃんの新能力である。
俺は、賢人会議の一部始終を見るとともに、それを記録した。
会議が終わると、若い賢人がギルドの利用をブラムに持ち掛け、それが認められた。
その後、ブラムとケーシーと呼ばれている賢人が、赤い扉から出ていく。
俺は、点ちゃんからの映像を、固唾を飲んで見守った。
二人は、通路を少し進み、チューブの横にカプセルが止まっている部屋に出た。
カプセルに乗り込むと、チューブの中を、かなりのスピードで移動しだした。
上空で見ている俺は、パレット上で点を確認するモードに変え、点の動きを見追う。
点は、山脈を離れ、原生林の下を通り、どんどん西に進む。
巨大な緑のカーベットの、ちょうど真ん中あたりで止まった。
あそこに、秘密施設があるに違いない。
俺は、点を増やし、万が一にも情報収集を失敗しないように準備を整える。
二人は、カプセルから降りると、また廊下を通って、巨大な空間へとやってきた。
空間は、半球を伏せた形で、底面に触れている部分ぐるりに窓が並んでいる。
男達は、ケーシーが先に立ち、一直線に一つの窓へ近づいていった。
窓から覗くと10畳ほどの正方形の部屋があり、その中央に歯医者で座るような椅子が置いてあった。
白衣を着た三人がその椅子の周りで働いており、椅子には20代の女性が複数のバンドで固定されていた。
白衣の男が、中からこちらに目をやる。
「始めよ」
ブラムの声で、金属製の腕が支える、黄色の液体が入った巨大な注射器が、女性の頭部に近づいていく。
女性の目が、恐怖に大きく見開かれた。
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ソネルは、狭い部屋の中で膝を抱えていた。
壁は全て白く、それが彼女を落ち着かなくさせていた。
一体なぜ、このようなことになったのか。
自分には何の非もないのに、運命はなんと残酷なのだろう。
彼女が心に抱いていた望み、子供たちの笑い声に囲まれた教師としての自分は、既に手が届かない所に行ってしまった。
人生をやり直そうとして、ポータルで他の世界に逃げようとしたところを捕えられた。
自分には、やり直しのチャンスすら与えられないのか。
その時、ドアが開いて、白衣を着た二人の男性が入ってきた。
「な、何を?」
ソネルが、言葉を発しようとしたとき、腕にチクリという感覚がすると、意識が無くなった。
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ソネルは目覚ると、自分が椅子の上に固定されているのに気づいた。
窓の外に見える人影がはっきりすると、それが雲の上の存在である賢人会議長ブラムであることが分かった。
ただでさえ、冷たい目をしている議長が自分を見る目は、かつて目にした、彼が実験対象に向ける目そのものだった。
た、助けて
声を出そうとするが、口の周りの筋肉が痺れていて動かない。
「始めよ」
議長の声は、死を告げる鐘の音に他ならなかった。
視界に、ゆっくり近づく巨大な針が見えてくる。
彼女は、それを知っていた。
自分が、獣人に対して、何度も行ってきた行為だからだ。
あの針が首の横に突き刺さった瞬間、自分の人生は終わる。
ソネルには、それが分かっていた。
なぜ、自分だけこんな目に?
私が、一体何をしたというの?
この世に、神などいない。
首の横に針の気配を感じ、恐怖と絶望から大きく目を見開いた。
死が、彼女の首に手を掛けた。
その瞬間である。
ボフッ
大きな音を立てて、注射器が燃え上がった。
いや、注射器だけではない。
その部屋にある、あらゆるものが燃え始めた。
不思議なことに、自分を椅子に拘束していたベルトが外れている。
ソネルは、痺れる身体を無理に動かして、横向きに椅子から落ちた。
いや、落ちかけた。
火にあぶられた研究室の窓が、大きな音を立てて割れ、クリスタル素材が飛び散る。
火災を避け、逃げていく議長の背中が見えた。
床に落ちると思っていた自分の身体が、空中で止まる。
そのまま横滑りして、割れた窓から外に飛び出した。
一体、何が起こってるの?
動かない身体が、滑らかに宙を移動していくのは、実際に体験していても、信じられないことだった。
複雑な地下通路を縫うように飛び、ある部屋の中に入る。
ドアがひとりでに閉まった。
天井から、光が差してくる。
視線を上げると、天井に穴が開いており、それがだんだん広くなっているところだった。
自分の身体が、立ち上がるのを感じる。
いきなり頭から、穴の中に突っ込んでいく。
ひいっ!
悲鳴を上げようとするが、口が動かない。
突然、辺りが明るくなる。
ソネルは、自分が森の上に浮いているのに気付いた。
一体、これは?
高度がどんどん上がって、雲の中に突っ込む。
冷たく湿った空気が、体に巻き付く。
すぐに雲を抜けると、太陽がさんさんと照り付ける青空が見えた。
猛烈な寒さを感じた瞬間、その青空の一部が口を開け、彼女を呑み込んだ。
---------------------------------------------------------------
気が付くと、ソネルは部屋のような空間にいた。
落ち着いた調度が、並んでいる。
体が、床の絨毯の上に静かに横たえられる。
「あちゃ~、やっちゃったな」
少年のような、声が聞こえる。
姿を確認すると、やはり少年だった。
頭に茶色い布を巻いており、茫洋とした顔つきをしている。
横たわった自分の横に膝をつくと、声を掛けてくる。
「大丈夫ですか?」
声が出ないので、首をかすかに横に振る。
こんな目に遭って、大丈夫のはずがない。
少年がもごもご何か言うと、自分の体のあちこちが光り出した。
治癒魔術の様である。
少しずつ、痺れが取れていくのが分かる。
私は、横たわったまま、言葉を何とかして音にする。
「たす・けて・くれて、あり・が・とう」
少年はうなづくと、頭の下にクッションを入れてくれた。
体には、毛布を掛けてくれる。
それだけすると、彼はシートのようなものを触りだした。
音がするから、映像を見ているのだろう。
少年は、30分ほどそうした後で頷くと、備え付けのソファに座った。
飛行艇なのだろうが、音が全くしないし、振動もない。
だから、移動しているのかどうかも、分からなかった。
少年が立ち上がると、壁の一部がドア状に開く。
彼は、私をそのままにして外に消えた。
少しして、もう一人の少年と一緒に帰ってくる。
驚いたことに、その少年は黒髪だった。
二人は、突然現れた、大きな箱に私を入れると、上に毛布を掛けた。
どこかに、運ばれているようだ。
なぜか、全く振動がない。
毛布が取り払われると、かなり高級な住宅の中だった。
そこには、四人の獣人がいた。
一人は、かなり小さな男の子である。
その子が、大きな声を上げる。
「ああっ!!」
少年が、尋ねる。
「テコ、どうしたの?」
「猿人ところで、ボクに首輪を付けたのは、この人です!」
男の子の小さな手が、自分の方を矢のように指していた。
一度は危機を逃れたのに、再び窮地に陥ったのをソネルは悟るのだった。
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