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第四章 聖樹世界エルファリア編
第9話 エルフの王
しおりを挟む次の日、豪華な朝食が部屋に運ばれた後、騎士が部屋を訪れた。
「リーヴァス殿、シロー殿、コルナ殿、少しお時間をよろしいでしょうか」
俺達は、ルルに子供達を任せ、騎士の後についていった。
入りくんだ通路は、上方へ向かっているようである。
およそ15分ほど歩いて、昨日より小さいが、やはり金色の扉の前までやってきた。
扉の左右には、剣を腰に差した騎士が控えている。
俺達を連れてきた騎士が呪文を唱えると、扉が音もなく開く。
中は、30畳ほどの広さがある居室になっていた。
深緑色を基調にした、落ちついた内装である。
広い窓があるが、今はカーテンが閉められていた。
部屋の中央に天蓋付きの寝台があり、エルフの男性が横になっている。
脇には、后とモリーネがいた。
「よく来てくれました」
あ后が俺達に声を掛け、手まねきする。
寝台の足元で、リーヴァスが膝をついたので、俺とコルナもそれにならう。
弱弱しいが、威厳がある声が、頭の上から聞こえた。
「その方らが、モリーネを助けてくれたのじゃな」
「はっ。 陛下、お久しぶりでございます」
「おお、リーヴァス、久しいな。 その折は世話になったな。そちに助けられるのは、二度目じゃな」
「恐れ多いことでございます」
「この場では、遠慮することはない。 かつてのように、友人として接してくれ」
「はっ」
リーヴァスさんが、立ちあがる。
俺とコルナは、跪いたままだ。
「お父様、コルナと話してもよろしいかしら」
「おお、お前の友人であったな。 別室で話すとよい」
「ありがとうございます」
モリーネはコルナを立たせると、二人で扉から出ていった。
「シローとやら。 お主がモリーネを救ってくれたそうじゃな。 感謝する」
「はっ」
「おおよそのことは、ミーネから聞いた。 ようやってくれた」
ミーネとは、お后の名だろう。
「いえ、私がモリーネ様を助けたのは、行きがかり上たまたまでございます」
「ははは、まあ、謙遜するな。 しかも、この国に来てからも襲撃を退けてくれたそうではないか」
「恐れながら、それはリーヴァス殿の働きでございます」
「よいよい。 ところで、不思議な魔術を使うそうじゃな」
「はっ」
「その魔術は、治癒もできるか?」
「ある程度は、可能でございます」
「そうか。 すまぬが、我にそれを試してくれぬか」
「仰せの通りに」
俺は心配した表情を浮かべるお后の前で、点魔法を使った。
点ちゃん、王様の具合を調べてくれる?
『はーい』
点ちゃんがチカチカしている。すぐにそれが止まった。
『ご主人様ー。 王様、毒を飲まされてるよ』
なにっ! 病気じゃないのか。
点ちゃん、何とかできそう?
『とりあえず、応急処置しておくー』
頼むよ。
『でも、毒を飲むのを止めないと、また悪くなるよ』
それもそうだね。 じゃ、王様が、どうやって毒を盛られているかも調べよう。
『分かったー』
そのことをお后に報告することにする。
陛下に聞かれないように、部屋の隅に下がり、お后に来てもらう。
「シロー、どうかしましたか?」
「お后様、陛下に聞こえぬよう小声でお願いします」
王様が興奮して、容体が悪くなってもいけないからね。
「どうしたのです」
お后が囁く。
「陛下は、毒を盛られております」
「なっ!」
お后が、慌てて口を押える。
「どういうことです?」
再び、声を落として話しかけてくる。
「いったん治療しますが、また毒を飲めば同じことです。 しばらく、私を王の側に居られるようにしてください」
「分かりました。 頼みますよ。 あなたが最後の頼りです」
俺とお后は、ふたたび、寝台の横へと戻った。
俺は、陛下のお身体へと手を伸ばし、治癒魔術を掛ける振りをする。
分裂した点ちゃんが、いくつか光りながら陛下の体に入っていく。
陛下の身体は、しばらくあちらこちらが光っていた。
光が収まると、陛下が大きく息をつく。
「ふう~。 凄まじい効果だな。 体の痛みとだるさが消えたぞ」
陛下は、そう言うと、上半身を起こした。 お后が、慌ててその体を支える。
陛下は、青かった顔に少し赤みが差している。
「陛下。 この病は、一度の治療では完治しませぬ。 繰りかえし治癒魔術を掛ける必要があります」
「おお、それならそのように取りはからってくれ。 ミーネ、頼むぞ」
「はい、陛下」
俺は、ミーネ王妃といくつか打ちあわせを済ませ、王の寝室の隣部屋に控えることにした。
リーヴァスさんには、ルルへの伝言を頼んでおいた。
まあ、念話してもいいんだけどね。 いつも念話じゃ、味気無いじゃない。
まず、俺が控えることになる隣部屋を調べてみる。
『ご主人様、大丈夫だよー』
盗聴装置の類は無しと。
俺は、入り口を点魔法でロックして、映像用のパネルを出した。
今回は、王の寝室全体がよく見られるように、大画面にしてある。
1m×1mほどのパネルを壁に固定し、自立型のハンモックを出す。
さっそく、そこに横になって、くつろぎの体勢を取った。
くつろぎながら、一国の王の見張りをしようというのだから、この史郎という少年、呆れたものである。
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