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空知音

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第四章 聖樹世界エルファリア編

第17話 エルファリアのギルドにて

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エルフ王がギルドへの指名依頼を出したという件は、その日の内に、騎士から報告された。


俺は連絡を受けてすぐ、リーヴァスさんと王都のギルドへ向かった。

リーヴァスさんが、10年前に王都に来た時とギルドの場所が変わったということで、案内役にパリスとロスが同行している。

王城から御者付きの馬車に乗り、木々の間を駆ける。

ギルドは、王城北側の街中にあるそうだ。

道の両脇の木々に、エルフの住宅が鈴なりになっている。

球状の住宅が道沿いに高さを変えて並ぶ様はこの国だけの景観だろう。

そのうち商店は、道に近い位置、つまり低いところに並んでいるようだ。

異国情緒あふれる街並みに、ぜひ商店を見てまわりたかったが、今回はさすがに諦めた。

馬車は、球状の住宅が密集している辺りで止まった。

木の上や道の上を、様々な装いのエルフ達が歩いている。

王城でもそうだったが、彼らは緑色をベースに、金色や白をあしらった薄手の服を着ている。
飾りや、素材が織りなす曲線は様々である。
男性はその下に、ズボンの様なもの、女性はタイツの様なものをはいていた。
それが、すらっとして背が高い彼らにとても似合っている。

俺とリーヴァスさんが、馬車から降りると、さっそく皆の注目を集めた。
おそらく人族が珍しいのだろう。

馬車の中で、ずっとリーヴァスさんに見とれていたパリスが、彼の手を取って、球状住宅の一つへ入っていく。
どうやら、そこがこの町のギルドのようだ。

入り口の両開きのドアを開けて、俺とロスが中に入ると、先に入った二人の背中にぶつかりそうになった。


ギルドの中で、何か騒ぎが起きており、人垣ができていたのだ。

-----------------------------------------------------------------

「おい。 お前ら、よく聞け。 
こちらのお方こそ、黒鉄の冒険者であり、救国の英雄リーヴァス様だ」

10代後半だろう。 若いエルフが、側にいる人族の男性を指さして、声を張りあげていた。

「この度は、恐れ多くも、その英雄が討伐依頼の指南をして下さるというのだ。有難く教えていただけ」

取りかこんでいるエルフ達がどよめく。

「黒鉄の冒険者か! すげえな」

「救国の英雄に教えてもらえるのか?」

「おい、俺のパーティを頼む!」

「いや、俺っちの方が、高い報酬を出すからこちらを頼むぜ」

「くそー。 金があったら教えを乞えるのに……」

凄い騒ぎになっている。

よく見ると、「リーヴァス」と呼ばれた人族は、髪の色や年齢は本物のリーヴァスさんと近いが、他は似ても似つかなかった。

大体、身長が160cmくらいしかない。
本物と較べると、20cmは低いことになる。
そして、何より太っている。
大きな太鼓腹が、ジャケットのボタンを引きちぎりそうである。

俺の前で、呆然としていたパリスが、笑いだした。

「あははははは」

偽のリーヴァスを取りかこんでいた、エルフの冒険者達が、ジロリとこちらを見た。

「あはははは、おかしい。 おかし過ぎて死にそう」

パリスの笑いは止まりそうにない。

「おい! お前、黒鉄のリーヴァス様に対して無礼だぞ」

先ほど偽物を売りこんでいた若いエルフが、パリスに食ってかかる。

取りまいていた冒険者も、若いエルフに同調しだした。

「お前ら、失礼だぞ。 謝れ」

「そうだ。 謝れ。 救国の英雄だぞ」

「いったい、どこのどいつだ?」

パリスの笑いが余計にひどくなったので、しょうがないから、俺が前に出た。

「えーと、自己紹介してもいいかな」

「お前、人族だな。 この礼儀知らずの知り合いか?」

「あー、リーヴァス様、実はあなたにご紹介したい方がいるのですよ」

太った人族の男が、ギョッとした風にこちらを見る。

俺が、リーヴァスさんを彼の前に連れていく。

さすがにリーヴァスさんも、苦笑いしている。

「えー、こちらの方が、リーヴァスさんをよくご存じの方です」

太っちょの顔が青くなる。

「では、自己紹介してもらいましょうか」

「お、俺がリーヴァスだ。 黒鉄の冒険者だ」

「ほう、そうですか。 私も自己紹介すべきですかな」

「ああ、言ってみな」

「リーヴァスと申します」

「えっ?」

「私は、リーヴァスです」

「ええっ?」

冒険者が、騒ぎ出す。

「どういうことだ! なんでリーヴァス様が二人いる!?」

危険を感じて、こそこそ逃げだそうとした、先ほどの若いエルフが、冒険者に取りかこまれる。

「おい! こりゃどういうことだ」

「い、いえ、あの、そのー」

騒ぎを聞きつけたのだろう。 ギルドの奥から三人のエルフが出てくる。
若い女性が一人、壮年の男性が一人、白髪の老人が一人である。

「この騒ぎは何じゃ」

老人が、輪の中に入ってくる。

「あ! 貴方は!」

リーヴァスさんに気がついたようだ。
三人とも、彼に向けて深くお辞儀をした。

「お久しぶりです。 リーヴァス様」

「ロデス殿も、お変わりないな」

二人が、握手している。

壮年の男性が、膝をついて礼をする。

「リーヴァス様。 あの折は命を救っていただき、ありがとうございました」

「おお、マーシュか。 久しぶりだな。 元気そうで何よりだ」

「初めてお目にかかります。 メリーナと申します。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼むよ」

この辺りで、冒険者達は、自分がだまされていたと気づいた。

「てめえ、リーヴァス様をかたったな。 こいつらを縛りあげろ!」

若いエルフと、太った偽リーヴァスは、あっという間にロープでぐるぐる巻きにされてしまった。

「ロデス殿。 この場は、私に免じてこの者を許してはもらえぬか」

「リーヴァス様がそうおっしゃられるのでしたら。
本来、ギルド章を取りあげて、二度とギルドで仕事ができぬよう、回状を送るところですが」

「はぁ、はぁ。 ああ、おかしかった」

やっと笑いやんだパリスを、ロスがたしなめる。

「お前、ちょっと笑いすぎ」

「でも、これはしょうがないでしょ」

パリスが太った偽物を指さして、また吹きだしている。
太っちょさん、気の毒すぎる。

「リーヴァス様、指名依頼の件ですな。 どうぞこちらに」


パリスとロスは後に残し、史郎とリーヴァスだけが奥の応接室に入った。

-------------------------------------------------------------------

応接室は10畳ほどで、それほど広くはないが、壁は上品な茶色の織布で覆ってあり、床はエメラルド色をしたコケのようなものが敷いてある。


ソファーはオフホワイトで、床に近い低さだ。
何より座り心地が抜群にいい。
くつろぎ空間の参考にしたいな。
俺がそんなことを考えている間に、リーヴァスさんは指名依頼を受けていた。

気が付くと、ギルマスのロデスがちょうど尋ねるところだった。

「パーティ名は、『セイレン』でしたかな」

「ああ、今回は、『ポンポコリン』ですよ」

ああ、来ちゃったよ、この瞬間。 やっぱり、笑われるんだろうなあ。

「え! あの『ポンポコリン』ですか!?
アルカデミアで獣人を開放した、伝説のパーティに所属されているとは、さすがリーヴァス様です」

マーシュと呼ばれた壮年のエルフが、顔を輝かせて質問する。

「もしかして、リーヴァス様も現地でご活躍を?」

「いえ。 あの件に、私は参加しておりませんよ。こちらのシローが解決しました。
『ポンポコリン』のリーダーも彼ですよ」

ギルマスとマーシュが、信じられないといった風にこちらを見ている。
ええ、どうせ俺は冴えない顔してますよ。オーラもありませんよ。

「彼も、黒鉄の冒険者ですからな」

「あっ! シローって言ったら、獣人国の紛争を解決した冒険者ですね。
そういえば、あの件にも『ポンポコリン』が関わっていましたよね」

ギルドの情報網は侮れないな。二人が俺を見る目が急に変わる。
まあ、いいですけどね。 慣れてますから。

俺は、受付のメリーナさんに、先ほどの部屋の調度の入手法を訪ねて、それを点ちゃんノートに記録した。

「さすがですね。 こんなことまで依頼の参考にするなんて」

彼女に感心されたが、もちろん、単なるくつろぎ狙いである。


ギルドでパリス達と別れ、俺達四人は馬車で城への道を戻っていた。

なぜ、四人かって?
リーヴァスさんが、偽物騒動の二人を連れて来たからだ。
あのまま放置したら、袋叩きの目に遭ったろうからね。



太った人族の男性はデロリン。 若いエルフの男性はチョイスという名だった。
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