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第四章 聖樹世界エルファリア編
第18話 『西の島』へ
しおりを挟む史郎達は城に帰り、部屋に戻った。
ルルとコルナが、連れてきた二人について尋ねる。
俺がギルドであったことを話すと、ひとしきり笑った後、二人はデロリンとチョイスを連れて、荷物などを置く部屋に入ってドアを閉めた。
気のせいか、部屋の中から繰りかえしスパーンという音がする。
きっと、気のせいだろう。
ルルとコルナが二人と一緒に出てきたとき、なぜかデロリンとチョイスは涙目で、おでこが赤くなっていた。
そして、なぜか顔色が青くなっていた。
まあ、何があったかは詮索しないほうがいいね。
ナルとメルは、さっそく新しいお馬にまたがってご満悦である。
二人が反省するなら、それもいいかと放っておいた。
夕食後、今後のことを話しあう。
どうやって『西の島』に行くか。 『西の島』のどこから探すか。
すでに、『西の島』についての情報は、ギルドであるだけ仕入れてきていた。
しかし、驚くほど情報が少ないのだ。
分かっているのは、大型魔獣の名前が数種類と大陸の大部分を森林が占めていることぐらいだ。
リーヴァスさんの判断で、かつて港があったという大陸東岸の廃墟から探索を始めることに決めた。
一応、デロリン、チョイスに、これからどうするかを尋ねてみたが、調査依頼に同行したいということだった。
エルフの町に居たら、いつ袋叩きにあうか分からないから、逃げだしたいということだろう。
史郎は、彼らが間違いなく後悔するだろうと考えていた。
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史郎達のために、エルフ王が内輪の壮行会を開いてくれた。
さすがに、デロリンとチョイスは参加させなかったが、家族全員がエルフ世界の美食に舌鼓を打った。
陛下、お后様、四人の王女が一緒にテーブルに着いた。
皆が学園都市や獣人世界のことを聞きたがったので、かの地の風物について話すと、とても喜んでくれた。
テレビや映画の無い世界だから、娯楽が少ないのかもしれない。
俺は、出発前に陛下に一つお願いをした。陛下は、こころよく許可を下さった。
なるべく城の者を驚かせないように、出発は夜明け前とした。
暗がりの中で、点ちゃん1号に荷物を積みこむ。
寝たままのナルとメルは、ルルとコルナが抱いている。
俺は最後の仕掛けをすると、点ちゃん1号を離陸させた。
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点ちゃん1号は、東の大陸と聖樹の島の間にある海上を、いつもよりゆっくり飛んでいた。
本物のリーヴァスさんの登場、お城でのあれこれ、点ちゃん1号への搭乗と、驚き続きだったデロンチョコンビはぐっすり寝入っている。
この「デロンチョ」というのは、デロリンとチョイス二人同時に呼ぶためにコルナがつけたあだ名である。
時刻は、夜明けから1時間ほどで、そろそろ娘達が起きる時間である。
目が覚めたナルとメルは、点ちゃん1号に乗っているのを知って喜んだあと、悲しそうな顔になった。
「トンちゃん達、どうしてるかなぁ」
トンちゃんというのは、ワイバーンの一匹に子供達がつけた名前である。
二人は、城に滞在している間に、ワイバーンの世話をずっとしていたこともあり、彼らと友達になっていた。
俺は、点ちゃん1号の色を白銀から透明に変えた。
二人を呼んで、後方を指さす。
「あっ、トンちゃんだ!」
メルが先に気づいたようだ。
点ちゃん1号の後ろを、五匹のワイバーンが飛んでいる。
子供達は、すごく嬉しそうだ。
ワイバーンの件こそ、俺が出発前に陛下にしたお願いだった。
カゴから開放すれば勝手に飛びさるものと思っていたが、ワイバーンもナルとメルに懐いていたらしい。
点ちゃん1号のスピードがいつもより遅いのは、こういう事情からだった。
史郎はワイバーンを休ませるべく、『聖樹の島』に降りることにした。
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史郎は、点ちゃん1号を『聖樹の島』のギルド前広場に着陸させることにした。
前に島へ来た時、エレノアさんとレガルスさんには、点をつけておいた。
点を使って会話できるっていうのは、エレノアさんにしか教えていないけどね。
その点を通して、あらかじめ到着は知らせておいた。
点ちゃん1号が降下すると、ギルドがある集落は大騒ぎになった。
白銀色の機体に驚いたというのもあるだろうが、五匹のワイバーンを引きつれていたからだ。
エレノアさんから知らされていたはずなのだが、ワイバーンの襲撃だと勘違いしたうっかり者もいたようだ。
点ちゃん1号から二人の子供が飛びだして、ワイバーンの頭を撫でた途端、みんな驚愕して、それから安心したみたいだけどね。
俺達は、かつて泊まった「木の家」に一泊することになった。
デロンチョコンビは、「木の家」の近くに土の家を作って、そこを利用する。
エレノアさんは、俺が土の家を作るのを興味深そうに見ていた。
「凄いわね。 家一軒があっという間にできちゃうなんて」
その後、いくつか小型の倉庫を頼まれたので、指定された場所に、すぐ建てておいた。
集落の住人は、ほとんどがギルド本部の職員とその家族ということだ。
リーヴァスさんは、黒鉄の冒険者として、大人達に取りかこまれている。
集落には子供も10人ほどいた。
小さな子供はコルナに遊んでもらっている。
年長の子供は、ナルとメルがワイバーンの世話をしている所にいる。
恐る恐るワイバーンに触らせてもらっているようだ。
ルルは、レガルスさんに付きまとわれて、困惑顔である。
俺は倉庫づくりの仕事も終わったので、ギルド本部の建物に来ている。
神聖神樹が見える窓の前で、200年前の英雄のことに思いをはせていると、後ろから声がかかる。
「聖樹様に、興味がおありかな?」
振りむくと、高齢のエルフの女性が立っていた。
白く長い髪に緑色のローブが調和している。
上品を絵に描いたようなたたずまいだ。
「ええ、なぜか惹きつけられるんです」
「ホホホ。 予言通りだね」
予言?
「私はギルドの長、ミランダだよ、シロー」
「あ、これは、初めまして。 なぜ、私の名前を?」
「ホホホ、知らないわけが無かろう。 異世界から訪れて、パンゲアの戦争を阻止。
グレイルでは獣人族の争いを鎮め、アルカデミアでは獣人解放だよ」
彼女は、落ちついた声で続ける。
「知らないと、ギルドの長は務まらないよ」
「そ、そうですか」
思った以上に自分の事が知られていて、俺はちょっと引いてしまった。
「大体、黒鉄の冒険者になるには、ギルド本部の許可が必要だからね」
「えっ!? そうだったんですか」
「ギルドの調査員が、調査してから許可が出るんだよ。だから、お前さんの事は、ある程度知っているのさ」
そこに、外からリーヴァスさんが入ってきた。
「ミランダ様、ご無沙汰しております」
「ああ、リーヴァス。 変わらないね。あんたが側にいるなら、このルーキーも心配いらないね」
「ははは、こちらの方も教わることが多いですよ」
「珍しいね。 あんたが人を褒めるなんて。まあ、いいや。 調査依頼は、『西の島』だったね」
「はい、そうです」
「あそこは、どうしても調査が後回しになってるから、手持ちの情報を鵜呑(うの)みにするんじゃないよ」
「ご忠告、ありがとうございます」
「まあ、あんた達が行くことで、あの大陸に関する最新の情報が手に入るから、そのつもりで調査しておくれ」
なるほど、できるだけ多くの情報を持ちかえれってことだな。
「その点は、パーティーリーダーがいるから大丈夫でしょう」
「ホホホ、『ポンポコリン』だったな。 いい名前じゃないか」
いや、パーティ名を褒められたの初めてなんですが。
「とにかく、あの大陸じゃ、常識は捨ててかかった方がいいよ」
「はい、分かりました」
俺が答えると、彼女は俺の頭に手を置き、優しい声でこう言った。
「お前は人の苦労をしょい込む質(たち)のようだけど、無理はするんじゃないよ」
これには、グッと来てしまった。人の上に立つには、こうでないといけないんだな。
彼女のために頑張ろうって気になるもんね。
「リーヴァス。 この子の事、くれぐれも頼んだよ」
「ええ、分かっています」
彼女は、優雅に一礼して、奥に入っていった。
「リーヴァスさんは、ミランダさんをご存じで?」
「ええ、20代からになりますから、もう30年以上の付きあいですな」
人に歴史ありだね。
史郎とリーヴァスは、ミランダの言葉を噛みしめながら、ギルド本部を後にするのだった。
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