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第四章 聖樹世界エルファリア編
第20話 西の島
しおりを挟む史郎達は、『西の島』東岸に到着した。
目標にしていた港町の桟橋は、杭しか残っていなかった。
海中に、無数の杭だけが並ぶ光景が、島に荒涼とした雰囲気を与えていた。
俺は点魔法で、船のデッキから岸へ、手すり付きの歩道を伸ばした。
皆で渡り終えると、点ちゃん3号をしまう。
デロンチョコンビが、突然消えた船に腰を抜かしていた。
ワイバーンは、俺達の上空を旋回している。
上空から何か襲ってきても、まず彼らが対処してくれるだろうから心強い。
史郎達一行は、リーヴァスを先頭に、キャンプ予定地に向かった。
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恐らくかつては石造りの街並みがあったであろう港町は、徹底的に破壊し尽くされていた。
辺りに散らばるがれきが、町の名残をとどめているだけである。
道なき道を、ゆっくり内陸へ進んでいく。
やがて、広場のような場所に着いた。
恐らく、かつては邸宅の庭だったのだろう。
広場の横には、瓦礫の山がある。
一角に、崩れかけた井戸があった。
リーヴァスさんが、紐を付けた鉄製のコップを投げこんでいる。
引きあげたコップの水をグラスに移す。
透明な水で、不純物はほとんど入っていないように見えた。
「何とか、飲めそうですな」
当面は持ってきた水を飲むが、そのうちに使うかもしれない。
「ここにペースキャンプを張りましょう」
全員が寝られる数のテントも持ってきていたが、ここなら土の家を建てても問題ないだろう。
魔獣の襲撃を考え、塀つきの二階建て家屋を作ることにした。造り慣れた土魔術の家である。
およそ10分ほどで大枠を作り終えると、後は工夫を凝らしていく。
2階から屋根部分に出る階段を作り、屋根の上に物見台をつけた。
また、ワイバーンのために止まり木のようなバーをいくつか用意する。
全ての部屋には窓を設けたが、壁の上部に小さな開口部を作るにとどめた。
1階中央には、地下へ降りる階段を作った。
地下室は6畳ほどだが、万が一の時シェルターになるように特に頑丈に作っておく。
シェルターからは、200mくらい離れた地上に出られる、抜け道も用意しておいた。
家屋から10mほど離して塀を作る。
これは、厚さを2m程度にして、その上を歩けるようにした。
高さが5mくらいあるので、よほど跳躍力がある魔物でなければ越えられないだろう。
塀の外壁は、上部が外側に張りだしており、壁を駆けのぼるタイプの魔獣に備えている。
次々、建てられていく建造物に、デロンチョコンビは口をポカーンと開けていた。
そのうちに、見慣れるだろうけどね。
史郎は当面の仕事が終わり、ほっと一息ついた。
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史郎が家を一通り作りおえたので、皆はリビングに入った。
土魔術で作った8つの椅子の上に、エルフの町で入手したフカフカマットを載せる。
みんなも、座り心地に満足したようだ。
「シローさんには、いつも驚かされますな」
リーヴァスさんが、笑っている。
テーブルの上に地図を広げ、どの地区から探索を始めるか意見を出しあう。
あらかた意見が出終わったところで、俺が発言する。
「リーヴァスさん。 探索の地区を決めるまで、一日待ってもらっていいですか?」
「ええ、それは。 何か、お考えがあるのですな」
「はい。 貴重な時間を取りますが、よろしくお願いします」
「では、今日は旅の疲れを取るためにも、早めに寝ますかな」
「お風呂を作ってありますから、どうぞ入ってからお休みください」
「過酷な探索のはずが、バカンスになりそうですな」
「ははは。 探索が始まれば、そうもいかないと思いますよ」
「そうですな。 では、ルル、コルナ、先に入浴を済ませなさい」
「はい、おじい様」
「えっ! ルルさんは、リーヴァスさんのお孫さんで?」
デロリンが驚いている。
「ええ、そうです。 デロリンさん、明日から料理の方は任せますね」
「ま、任せてください。 雷神様とそのお孫様のためです。最高の朝食をご用意します」
「デロちゃん、つまみ食いするなよ」
すかさず、チョイスが突っこんでいる。
「するか! それより、お前までデロちゃんはないだろう」
「何度も聞いてるから、うつっちゃった、ははは」
まあ、いいコンビだね。
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史郎は、二階から物見台へ上がる。
ワイバーンは、すでに丸まって寝ているようだ。
一匹がちらっとこちらを見たが、俺だと分かると、また目を閉じた。
重力魔法を付与した点ちゃん1号を出す。
空中に浮かせたまま、開いた側面から飛びのる。
一気に上空へ上がる。
じゃ、点ちゃん、やるよ。
『はーい!』
俺達は、夕焼けに染まりかけている『西の島』が見わたせる位置まで上昇した。
点ちゃんに、映像機能と風魔術を付与して、コピーする。
これは、学園都市世界で思いついた方法である。
上空から、無数の点を島中にばらまく。
任務完了。次は、明日の朝だね。
点ちゃん、ご苦労様。
『えへへ(*´∀`*)どういたしましてー』
史郎と点ちゃんは、刻々と色を変える空と西大陸の美しさに、しばし見いるのだった。
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『西の島』二日目の朝。
朝起きるとすぐに、俺は昨日夕方にばらまいた、点の散布状況をパレットで確認していた。
点は、島の全域に行きわたったようである。
皆がデロリンの絶品朝食を食べおわるのを待って、壁に映像を映す。
壁には、点ちゃんが選んだ9か所の映像が現れた。
ほぼ、四角い島を縦横に9等分し、その地域で代表的な映像が映っている。
まず、中央は山岳地帯である。
岩だらけの山肌と、そこを這いまわる巨大なトカゲが映っている。
画面に縮尺を示すバーがあるので、大きさがよく分かる。
この蜥蜴は全長が3mはある。
こうなると、もう恐竜と言った方がいいかもしれない。
上空を飛ぶ、大型の魔獣も映っていた。
他の画面にも、森林の映像が映っている。
ただ、映っている魔獣の姿はそれぞれ異なる。
壁の上側3つ、つまり、大陸の北側には大きな猪の群れが映っていた。
大きいものは、体長が5mくらいある。
それが凄まじい勢いで突進すると、大木が雑草のように薙ぎたおされている。
壁の中央右には、廃墟が映っている。
我々がいるのもこの地区となる。
時々、廃墟の隙間からネズミのような形の魔獣が顔を覗かせる。
全身が映らないから正確な大きさは分からないが、顔だけで30cmくらいあることを考えると、全長は1mを超すだろう。
壁の中央左には、森林が映っているだけで、魔獣の姿は無い。
これは、大陸西部にあたる地区である。
壁の左下には、大きな蛇が映っていた。
二匹の蛇が争っている。
片方は5mほどある青い蛇で、もう一方は、赤と黒の2mくらいの蛇だ。
どう見ても小さな蛇がやられるだろうと思った瞬間、小さい方の尻尾が青い大蛇の胴体をチョンと突いた。
大きな蛇の全身が痙攣する。恐らく、小さな蛇が尻尾から毒を入れたのだろう。
大きな蛇は、あっという間に動かなくなった。
ルルが青い顔をしている。蛇が苦手なんだね。気をつけてやろう。
壁の中央下には、大人しそうな熊のような魔獣が映っていた。
本物の熊というより、ぬいぐるみの熊に似ている。
問題は、その大きさである。
なんと、10mくらいはある。
これは、設置した塀の高さを考えなおす必要があるかな。
壁右下の映像には、小さな黒い虫が沢山映っていた。
どうも、蟻らしい。
一見、無害そうな蟻が危険な存在であることは、なにかの拍子に蟻の山が崩れた時に分かった。
その下から現れたのは、巨大な骨だった。
もしかすると、熊のような魔獣の死骸かもしれない。
俺達は、過酷な西の島の環境に、息を止めて見いっていた。
「あれ?!」
ガタっと立ちあがったコルナが声を上げる。
壁のところまで行くと、目を凝らして画面を見ているようだ。
「お兄ちゃん、この画面拡大できる?」
コルナが指さしたのは、大陸西の映像、つまり魔獣が映っていなかった場所だ。
俺は、すかさず壁全部を、その場所の映像に変えた。
「やっぱり……」
コルナは何かに気づいたようだが、他の者は首をかしげている。
「ほら、ここ!」
コルナが、ある場所を指さしたことで、やっと我々も何かが動いていることに気づいた。
透明なガラスのようなものが、動いているのか?
動いているものの光の屈折が均等でないのかもしれない。
その背後の景色が少し歪むので、何か透明なものが動いているのが分かる。
これに気づくとは、さすが獣人である。
「リーヴァスさん、心当たりがありますか?」
「うーむ。 いくつか可能性は考えられますが、これだけでは何とも……」
その後も、俺達は西地区の画面を調べたが、先ほどのような現象は、その後見られなかった。
一体、あれは何だったんだろう。
史郎は、さらに謎が深まる『西の島』に一層興味を引かれるのだった。
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