ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
155 / 607
第四章 聖樹世界エルファリア編

第20話 西の島

しおりを挟む

史郎達は、『西の島』東岸に到着した。


目標にしていた港町の桟橋は、杭しか残っていなかった。
海中に、無数の杭だけが並ぶ光景が、島に荒涼とした雰囲気を与えていた。

俺は点魔法で、船のデッキから岸へ、手すり付きの歩道を伸ばした。
皆で渡り終えると、点ちゃん3号をしまう。
デロンチョコンビが、突然消えた船に腰を抜かしていた。

ワイバーンは、俺達の上空を旋回している。
上空から何か襲ってきても、まず彼らが対処してくれるだろうから心強い。


史郎達一行は、リーヴァスを先頭に、キャンプ予定地に向かった。

------------------------------------------------------------------

恐らくかつては石造りの街並みがあったであろう港町は、徹底的に破壊し尽くされていた。


辺りに散らばるがれきが、町の名残をとどめているだけである。

道なき道を、ゆっくり内陸へ進んでいく。

やがて、広場のような場所に着いた。
恐らく、かつては邸宅の庭だったのだろう。
広場の横には、瓦礫の山がある。

一角に、崩れかけた井戸があった。
リーヴァスさんが、紐を付けた鉄製のコップを投げこんでいる。
引きあげたコップの水をグラスに移す。
透明な水で、不純物はほとんど入っていないように見えた。

「何とか、飲めそうですな」

当面は持ってきた水を飲むが、そのうちに使うかもしれない。

「ここにペースキャンプを張りましょう」

全員が寝られる数のテントも持ってきていたが、ここなら土の家を建てても問題ないだろう。

魔獣の襲撃を考え、塀つきの二階建て家屋を作ることにした。造り慣れた土魔術の家である。
およそ10分ほどで大枠を作り終えると、後は工夫を凝らしていく。

2階から屋根部分に出る階段を作り、屋根の上に物見台をつけた。
また、ワイバーンのために止まり木のようなバーをいくつか用意する。

全ての部屋には窓を設けたが、壁の上部に小さな開口部を作るにとどめた。

1階中央には、地下へ降りる階段を作った。
地下室は6畳ほどだが、万が一の時シェルターになるように特に頑丈に作っておく。
シェルターからは、200mくらい離れた地上に出られる、抜け道も用意しておいた。

家屋から10mほど離して塀を作る。
これは、厚さを2m程度にして、その上を歩けるようにした。
高さが5mくらいあるので、よほど跳躍力がある魔物でなければ越えられないだろう。
塀の外壁は、上部が外側に張りだしており、壁を駆けのぼるタイプの魔獣に備えている。

次々、建てられていく建造物に、デロンチョコンビは口をポカーンと開けていた。
そのうちに、見慣れるだろうけどね。


史郎は当面の仕事が終わり、ほっと一息ついた。

------------------------------------------------------------------

史郎が家を一通り作りおえたので、皆はリビングに入った。


土魔術で作った8つの椅子の上に、エルフの町で入手したフカフカマットを載せる。
みんなも、座り心地に満足したようだ。

「シローさんには、いつも驚かされますな」

リーヴァスさんが、笑っている。

テーブルの上に地図を広げ、どの地区から探索を始めるか意見を出しあう。
あらかた意見が出終わったところで、俺が発言する。

「リーヴァスさん。 探索の地区を決めるまで、一日待ってもらっていいですか?」

「ええ、それは。 何か、お考えがあるのですな」

「はい。 貴重な時間を取りますが、よろしくお願いします」

「では、今日は旅の疲れを取るためにも、早めに寝ますかな」

「お風呂を作ってありますから、どうぞ入ってからお休みください」

「過酷な探索のはずが、バカンスになりそうですな」

「ははは。 探索が始まれば、そうもいかないと思いますよ」

「そうですな。 では、ルル、コルナ、先に入浴を済ませなさい」

「はい、おじい様」

「えっ! ルルさんは、リーヴァスさんのお孫さんで?」

デロリンが驚いている。

「ええ、そうです。 デロリンさん、明日から料理の方は任せますね」

「ま、任せてください。 雷神様とそのお孫様のためです。最高の朝食をご用意します」

「デロちゃん、つまみ食いするなよ」

すかさず、チョイスが突っこんでいる。

「するか! それより、お前までデロちゃんはないだろう」

「何度も聞いてるから、うつっちゃった、ははは」


まあ、いいコンビだね。

---------------------------------------------------------------

史郎は、二階から物見台へ上がる。


ワイバーンは、すでに丸まって寝ているようだ。
一匹がちらっとこちらを見たが、俺だと分かると、また目を閉じた。

重力魔法を付与した点ちゃん1号を出す。
空中に浮かせたまま、開いた側面から飛びのる。
一気に上空へ上がる。

じゃ、点ちゃん、やるよ。

『はーい!』

俺達は、夕焼けに染まりかけている『西の島』が見わたせる位置まで上昇した。

点ちゃんに、映像機能と風魔術を付与して、コピーする。
これは、学園都市世界で思いついた方法である。
上空から、無数の点を島中にばらまく。

任務完了。次は、明日の朝だね。

点ちゃん、ご苦労様。

『えへへ(*´∀`*)どういたしましてー』


史郎と点ちゃんは、刻々と色を変える空と西大陸の美しさに、しばし見いるのだった。

-------------------------------------------------------------------

『西の島』二日目の朝。


朝起きるとすぐに、俺は昨日夕方にばらまいた、点の散布状況をパレットで確認していた。
点は、島の全域に行きわたったようである。

皆がデロリンの絶品朝食を食べおわるのを待って、壁に映像を映す。

壁には、点ちゃんが選んだ9か所の映像が現れた。
ほぼ、四角い島を縦横に9等分し、その地域で代表的な映像が映っている。


まず、中央は山岳地帯である。
岩だらけの山肌と、そこを這いまわる巨大なトカゲが映っている。
画面に縮尺を示すバーがあるので、大きさがよく分かる。
この蜥蜴は全長が3mはある。
こうなると、もう恐竜と言った方がいいかもしれない。
上空を飛ぶ、大型の魔獣も映っていた。

他の画面にも、森林の映像が映っている。
ただ、映っている魔獣の姿はそれぞれ異なる。

壁の上側3つ、つまり、大陸の北側には大きな猪の群れが映っていた。
大きいものは、体長が5mくらいある。
それが凄まじい勢いで突進すると、大木が雑草のように薙ぎたおされている。

壁の中央右には、廃墟が映っている。
我々がいるのもこの地区となる。
時々、廃墟の隙間からネズミのような形の魔獣が顔を覗かせる。
全身が映らないから正確な大きさは分からないが、顔だけで30cmくらいあることを考えると、全長は1mを超すだろう。

壁の中央左には、森林が映っているだけで、魔獣の姿は無い。
これは、大陸西部にあたる地区である。

壁の左下には、大きな蛇が映っていた。
二匹の蛇が争っている。
片方は5mほどある青い蛇で、もう一方は、赤と黒の2mくらいの蛇だ。
どう見ても小さな蛇がやられるだろうと思った瞬間、小さい方の尻尾が青い大蛇の胴体をチョンと突いた。
大きな蛇の全身が痙攣する。恐らく、小さな蛇が尻尾から毒を入れたのだろう。
大きな蛇は、あっという間に動かなくなった。

ルルが青い顔をしている。蛇が苦手なんだね。気をつけてやろう。

壁の中央下には、大人しそうな熊のような魔獣が映っていた。
本物の熊というより、ぬいぐるみの熊に似ている。
問題は、その大きさである。
なんと、10mくらいはある。
これは、設置した塀の高さを考えなおす必要があるかな。

壁右下の映像には、小さな黒い虫が沢山映っていた。
どうも、蟻らしい。
一見、無害そうな蟻が危険な存在であることは、なにかの拍子に蟻の山が崩れた時に分かった。
その下から現れたのは、巨大な骨だった。
もしかすると、熊のような魔獣の死骸かもしれない。

俺達は、過酷な西の島の環境に、息を止めて見いっていた。


「あれ?!」

ガタっと立ちあがったコルナが声を上げる。
壁のところまで行くと、目を凝らして画面を見ているようだ。

「お兄ちゃん、この画面拡大できる?」

コルナが指さしたのは、大陸西の映像、つまり魔獣が映っていなかった場所だ。
俺は、すかさず壁全部を、その場所の映像に変えた。

「やっぱり……」

コルナは何かに気づいたようだが、他の者は首をかしげている。

「ほら、ここ!」

コルナが、ある場所を指さしたことで、やっと我々も何かが動いていることに気づいた。
透明なガラスのようなものが、動いているのか?
動いているものの光の屈折が均等でないのかもしれない。
その背後の景色が少し歪むので、何か透明なものが動いているのが分かる。
これに気づくとは、さすが獣人である。

「リーヴァスさん、心当たりがありますか?」

「うーむ。 いくつか可能性は考えられますが、これだけでは何とも……」

その後も、俺達は西地区の画面を調べたが、先ほどのような現象は、その後見られなかった。

一体、あれは何だったんだろう。



史郎は、さらに謎が深まる『西の島』に一層興味を引かれるのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...