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第四章 聖樹世界エルファリア編
第35話 準備1
しおりを挟むベースキャンプに帰った史郎は、『南の島』であったことをリーヴァス、ルル、コルナに話して聞かせた。
ミミとポルは、「コケット」の寝心地にやられてしまって、また昼寝した。
コケットというのは、苔のベッドにミミが付けた名前だ。
しかし、リーダーがまだ使ってないのに、二人が先にそれを使いまくるってどうよ。
ポルには早く起きて、メリンダの世話をして欲しいんだけどね。
俺は、『聖樹の島』のエレノアさんと『東の島』のモリーネに念話を繋いだ。
近いうちに、『南の島』のダークエルフが、大攻勢に出る可能性があると伝える。
貴族の中にダークエルフが混じっているから、モリーネには特に細かく注意を与えておく。
『大変だわ。すぐ父に知らせないと』
『さっきの注意を守って、城の中をまず固めるんだよ。
絶対に、エルフの方から攻撃を仕掛けないように。
陛下には、とにかくこのことだけは守ってもらってくれ』
『分かったわ』
『さっき伝えたように、ダークエルフと通じてる貴族達を捕らえるのは、敵の攻撃直前に行うんだよ』
『ええ。また、シローに助けられるわね』
『ははは。気にする必要は無いよ。成りゆきでやってるだけだから』
『ふふふ、あなたらしいわね』
『くれぐれも、家族の身の周りには気をつけてくれ』
『ありがとう』
史郎は念話を切ると、フェアリスの集落に向かう準備をするのだった。
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フェアリスの集落には、ミミとポルだけを連れていった。
集落のシールドを開けて、広場のまん中に降りる。フェアリスの人々から、歓迎の拍手と歓声が起きた。
「うわ~、すごい! 幻の原住民だ!」
いや、ポル。 それ、本人達を前に言うセリフじゃないから。
「シロー殿、よく帰られたの。
井戸の礼もまだじゃったのに、急に見えんようになったから、心配しておったのじゃ」
村長が、話しかけてくる。
「娘達のこと面倒みていただいて、ありがとうございます。それより、井戸の調子はどうです?」
「便利な事、この上ないの。あまり水を無駄に使いすぎぬよう、見張りをつけておるよ」
「「パーパ!」」
ナルとメルが走ってくると俺に飛びつく。
「あ、ポルだ!」
二人は、ポルが来てるのに気づいたようだ。さっそく尻尾(しっぽ)を狙って飛びかかっている。
「あーっ、やめてー」
ポルが逃げまわっている。そのうち捕まるだろう。
ミミが見慣れないデロリンに気づいた。
「シロー、この丸っこい人は?」
「ああ、彼はデロリンさん。料理を担当してもらってる」
「へー、ちゃんと料理ができるのかしら?」
ミミは、料亭の娘だからね。
「は、初めまして」
デロリンは、獣人に慣れていないのか、びくびくしている。
「デロリン。一旦、ここを引きはらってベースキャンプに集合するよ」
きゅ~っと地面にうつ伏せになっているポルに乗っかって尻尾で遊んでいるナルとメルを連れて、ボードに乗る。
「ぽるっぽー」「ぽるっぽ、もっとしたい」
ポルの尻尾(しっぽ)=ぽるっぽ、ということらしい。
「また、すぐできるよ」
二人の頭を撫でてやる。
「わーい!」 「またするー」
狙われてるポルは大変だけどね。
娘達二人に警戒したへっぴり腰で、ポルもボードに乗った。
「村長、急ぐのできちんとご挨拶できませんが、また来ますから」
「分かった。家はそのままにしておいて、いつでも来るとよい」
俺は、あることを思いついた。
「家は、キッチンなど1階は自由に使ってくれてかまいません。
二階には上がらないようにしておいてください」
「ふむ、シロー殿のことじゃから、何か考えがあってのことじゃろう。分かった。皆に言いきかせておこう」
「では、お世話になりました」
「おお。こちらこそ、本当に世話になったの」
俺達は、フェアリスの人々が見送る中、木々の間を抜け、ボードで空に上がる。
点ちゃん1号に乗りこみながら、また皆でここに来られたらいいなあ、と史郎は考えていた。
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史郎は、ベースキャンプに戻ると『東の島』に帰る用意を始めた。
ポルは、メリンダの世話を焼くのに忙しい。
デロンチョコンビは、1号機への積みこみと、捕えた30人余りのダークエルフの世話で、てんてこ舞いである。
ナルとメルは、コケットの寝心地に捉えられて、お昼寝中である。
俺は、リーヴァスさん、ルル、コルナと、これからどうするか打ちあわせていた。
「ダークエルフの大攻勢が避けられぬとなると、やっかいですな」
「ええ。彼らの出鼻をうまくくじければいいのですが」
「でも、お兄ちゃん。エルフ達には期待できないんでしょ」
「そうなんだ。エルフの中には、自分たちの肌の色をモーフィリンで隠している者が、思いのほか多そうなんだ。
下手をすると、大攻勢の前に内紛でエルフ国がぺしゃんこだよ」
「シロー、ナルとメルはどうしましょうか」
「ルル、彼女達を危険にはさらせない。
ただ、敵のグリフィン部隊に対しては、二人が絶対の力を示せるはずなんだ」
「もう、何か方策は考えられておるのでしょうな」
「ええ、リーヴァスさん。俺達が誰一人欠けることなく、事態を収める方法を考えています」
「お兄ちゃんは、相変わらずねえ。本当にそんなことできるのかしら」
「まあ、あと一つ不確定要素があるから、そこさえクリヤすれば大丈夫だろう」
その時、念話が入る。ダークエルフの議長ナーデからだ。
史郎は、皆に断って別室に走りこんだ。
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『シロー、繋がってるかな?』
『ええ、議長。聞こえてますよ。後は、言葉に出さなくても大丈夫です』
『そうか、助かる。大攻勢の日取りが決まった。
もう一度確認するが、君は我々にもエルフにもくみすることは無いんだね?』
『はい。それは、お約束します』
『大攻勢は、10日後だ。エルフ国が建国祭を祝う日に決まった』
なるほど、お祭り騒ぎで警戒が薄くなったところを襲うのか。
『あと、大規模な複合魔術が使われる予定だ』
『複合魔術?』
『魔道武器の助けを借りて、複数の魔術師が、巨大な魔術を完成させるそうだ』
この前『緑山』で見た、あの箱に入ってたやつだな。
『その魔術は、何発撃てるのですか?』
『魔道武器の数が4つだから、恐らく4発だろう』
『なるほど。貴重な情報ありがとうございます』
『こんな情報を聞いたからって、どうすることもできないだろうが……
まあ、気休めくらいにはなるだろう』
『いいえ、すごく役に立ちました。
戦闘阻止が成功したなら、それはあなたのおかげです、ナーデ議長』
『ははは。戦争を止められない私には、何も言う資格はないよ』
『なるべく、一人の被害も出さないようにやってみます』
『いくら君でも、それは無理だろう。無茶をして、自分自身の命を失わぬようにな』
『ありがとうございます。では、次は戦闘を阻止した後でお目にかかりましょう』
『死ぬなよ』
『あなたも』
念話は、それで切れた。
俺の計画の最後のピースが揃った。後は、その場のアドリブだな。
『ご主人様ー、アドリブって何?』
ああ、点ちゃん。アドリブってのは、その場その場でうまく対処することだよ。
『なるほどー』
また、点ちゃんが語彙を増やしたな。そのうち、日本語をマスターするんじゃないか。
そういえば、俺と点ちゃんって、何語で会話してるんだろう。
この期に及んで、のんびり思考の史郎であった。
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