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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第28話 四竜社にて
しおりを挟む史郎達三人が、四竜社に出向く日が来た。
リーヴァスさん、ポル、俺、加藤の四人は、迎えが来るまで、打ちあわせを行っていた。今日、いきなり戦闘を仕掛けて来たりはしないだろうが、念のためである。
四竜社についての情報は、ばらまいた点から次々に入ってきていた。すでに、ビギを始め、目ぼしい者には点が着けてある。
奴が、こちらに探りを入れはじめたのも察知していた。
「では、加藤、後は頼んだぞ。
奴らが何か仕掛けてくるのは、竜闘開始前後だと思うが、油断しないほうがいいからな」
「ああ、任せておけ。それより、お前こそ気をつけろよ」
「ああ。分かってるよ」
加藤は、俺の肩を叩くと、イオの家に入っていった。それを見計らったように、四頭立ての馬車ならぬ、鹿車が到着した。
御者の席から、先日の若者、ミマスが降りてくる。
「お早うございます。本日は、招待を受けてくださってありがとうございます」
まあ、点の映像で彼とビギのやり取りは見ているから、「招待」では無いと分かってるけどね。
「お早う。これに乗ればいいのですな?」
リーヴァスさん、ポル、俺の順に鹿車に乗る。
四頭立てだからだろう、先日のラズローの鹿車とは、比べ物にならないスピードで街中を駆けていく。
あっという間に、門から出ると、草原の道を、森とは反対方向に進む。
前方に丘が見えてくる。
鹿車は、草原を突っきると、丘の麓の大きな建物の前に止まった。
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四竜社が入る建物は、丘の下を取りまく建物群の中でも一際大きなものだった。
建物は、丘の頂上に向けて斜めに建てられている。多くの窓がこちら向きに開いていた。内部へ陽の光が入ることを重視した設計なのだろう。この建物が、丘の一部を削って、地下を設けていることまで分かっていた。
点ちゃんが、丘周辺の立体マップを作っている。
その建物が平坦地と接する所に、大きな開口部があった。アーチ型をしており、象でも通れそうである。
ミマスに案内された俺達は、その入り口を潜り、前方に現れた階段を上がる。数回の踊り場を挟んで、階段を100段は上がっただろう。
最上層に着いた後は、左に曲がって通路を進んでいく。
ミマスは、木の大きなドアの前で立ちどまった。
「こちらです」
ミマスがドアを開け、史郎達三人は中に入った。
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部屋の中は15畳ほどの空間で、外側に10畳ほどの広いテラスが付いていた。
外側から窓のように見えていたのは、テラスの開口部だった。テラスと部屋との間は開けはなたれており、草原を渡ってきた風がカーテンを揺らす。
室内には大きな長方形のテーブルが置かれており、三方に竜人が座っていた。
俺達は、残る一辺に座るように促された。
こちらから見て左に青竜族、赤竜族がそれぞれ二人ずつ、右に白竜族と、黒竜族が二人ずつ座っている。
赤竜族の一人はラズローである。彼は、俺達と初対面であるという素ぶりをしている。
白竜族は、初めて見たが、銀色に近い白髪で、若い方の竜人は、女性と見まがうばかりの繊細な顔立ちをしていた。
奥に一人で座っている壮年の黒竜族がビギだというのは、点ちゃんからの情報で分かっている。
「君達が、迷い人だな。ドラゴニアにようこそ。私は、四竜社の頭、ビギという」
「初めまして。私はリーヴァスと申します。こちらは、ポル、シローです」
ビギの挨拶に、リーヴァスさんが応じた。
ビギの左に座っている太った赤竜族の男性が問いかける。
「どのようにして、この世界に?」
「どうやら、ランダム・ポータルの転移に巻きこまれたようです」
これは、あらかじめ打ちあわせてあったセリフだ。
「こちらには、何人で?」
「合わせて、十人ですな」
「なぜ、そのような大人数で転移を?」
これは、白竜族の若者からの質問だ。彼は、顔立ちだけでなく、声も美しかった。
「谷間を、皆で歩いているときに、いきなりポータルが現れましてな」
このセリフも、打ちあわせ通りである。
「なるほど、巻きこまれた人もいたのですね?」
「ええ。この二人がまずポータルに飲みこまれて、その後、私を含め、残りの8人が巻きこまれました」
リーヴァスさんが、ポルと俺を指す。
「なるほど。だから、最初二人だけが都に来たのですね」
白竜族の若者が発言したが、それをさえぎるように、黒竜族の一人が発言する。
「その二人は、役所で騒動を起こしておる」
「ほう。騒動とは?」
リーヴァスさんは、知らないふりをしている。
「悪臭をまき散らしたと聞いておる」
「いきなり牢へ捕らえられただけで、特に何もしていませんよ」
俺がとぼける。
「何を言うか! 青竜族の役所から報告が来てるんだぞ」
「で、決めつけるだけの証拠はあるのでしょうね?」
俺は、穏やかな口調で言いながら、黒竜族の男を正面から見た。
「くっ、そ、それは、彼らがそう言っておる!」
「おや? 誰かが、そう言っているだけで、証拠は無いと?」
「ええいっ! うるさいわっ!」
人間ならば、40代に見える黒竜族の男は、こめかみに筋が浮かびあがっている。
「トール、その話はそこまでだ」
ビギが、場を収める。
立ちあがりかけていたトールという男は、こちらを憎々し気に睨んだまま腰を降ろした。
「あなた方を罪に問うつもりは無い。ただ、このままでは納得のいかぬ者もいる」
ビギは、そういいながら、トールの方をチラッと見た。
「そこで提案なのだが、我々の伝統行事に参加していただきたい」
「伝統行事といいますと?」
今度は、リーヴァスさんがとぼける。
「私が説明しましょう」
青竜族の一人が、発言を求める。
「ハルト。では、説明してくれ」
ビギが、許可を出す。
「参加して頂く伝統行事は、『竜闘』と呼ばれるものです。
舞台の上で、一対一で戦います。
戦いと言っても、審判もいますし、危ないと思ったら、場外に出ればいいわけですから、それほど危険はありません」
その発言が嘘だと分かっている俺達三人は、顔を見あわせた。
「死ぬようなことはありませんか?」
俺が、指摘する。
「ええ、普通はありませんよ」
ラズローと白竜族の若者が、顔を伏せる。竜人にも、恥を知る者はいるようだ。
「降参を宣言すれば、負けとなるのですな。
その後で、攻撃されたりはせぬのですかな?」
「……ええ、されません」
青竜族の男が答えるまでの一瞬のためらいが、全てを物語っていた。
「負けたらどうなるのでしょうか?」
ポルが、打ちあわせてあったセリフを言う。
「特に、何もありませんよ。参加していただければ、迷い人としての登録もこちらで行っておきます」
「全員が参加する必要があるのでしょうか? 私達には、小さな子供もいるのですが」
これは、俺が質問した。
「もちろん、その必要はありません。
今のところ、5対5の形式を考えています」
なるほど、このハルトという青竜族の男が、ビキの下で竜闘を運営するわけか。
「五人ですか。女性が参加してもよろしいか?
男性は、四人しかいません」
「ああ、男性が足りなければ、竜人に協力を求めることもできる。
そうだな、ラズロー」
ビギが、口の端を吊りあげながら、ラズローに話を振る。
「ええ、それも可能です」
ラズローは、顔色一つ変えずに答えた。
「では、お前の所で何とかしてやれ」
ビギは、薄ら笑いを浮かべながら、畳みかけた。
「分かりました」
ラズローは、静かに答えた。
「では、話しあいは、これで終わりだ。皆、『竜闘』がつつが無く終えられるよう力を尽くせ」
ビギが、竜人達を見回す。
「「天竜の庇護の下に」」
ビギ以外の八人の竜人が、そう言って頭を下げると、立ちあがった。
俺達三人も促されて立つ。
他の竜人が部屋から出るのを追う形で、廊下に出る。
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廊下では、ミマスが待っていた。
帰りも、彼が俺達を案内するようだ。
八人の竜人は、反対側に向かうようだ。
俺達が歩きだしてすぐ、後ろから足音がした。
「そういえば、私もこちらですることがあったのだ。ご一緒していいかな?」
振りむくと、白竜族の若者がいた。近くで見ると、さらにその美しさが際立っている。涼し気な目が印象的だ。身長は、190cmほどあるだろう。顔つきからは、想像できないくらい鍛えられた体躯をしている。
ミマスは、少し困ったような顔をしたが、相手の方が役職が上だと考えたのだろう、若者に礼をした。
長い廊下を歩く間に、白竜族の若者は、いつの間にか、俺のすぐ横に並んでいた。歩幅が違うので、少し歩きにくそうだ。
「シローと言ったか。私は白竜族のジェラードだ。君と少し話がしたい。時間を取ってくれるか?」
彼は、前を行くミマスに聞こえないよう、囁きかけてきた。
俺は、少し考えてから、返事をした。
「いいですよ。俺は、青竜族の都で、商売をやっています。
商業区の『ポンポコ商会』まで来ていただければ会えます」
「そうか。『ポンポコ商会』だな。なるべく早く行くことにするよ」
彼は、俺の肩を軽く叩くと、列から離れた。
「私は、ここで失礼する」
そう言うと、颯爽と去っていった。
なんか、リア充の匂いがするやつだな。
『(・ω・)ノ ご主人様、そういうことは考えないほうがいいよ?』
なぜか、疑問形になっている点ちゃんの意見を聞きながし、史郎は白竜族の若者が何の目的で近づいてきたかに、考えを巡らすのだった。
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