ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
227 / 607
第六章 竜人世界ドラゴニア編

第28話 四竜社にて

しおりを挟む

 史郎達三人が、四竜社に出向く日が来た。

 リーヴァスさん、ポル、俺、加藤の四人は、迎えが来るまで、打ちあわせを行っていた。今日、いきなり戦闘を仕掛けて来たりはしないだろうが、念のためである。
 四竜社についての情報は、ばらまいた点から次々に入ってきていた。すでに、ビギを始め、目ぼしい者には点が着けてある。
 奴が、こちらに探りを入れはじめたのも察知していた。

 「では、加藤、後は頼んだぞ。
奴らが何か仕掛けてくるのは、竜闘開始前後だと思うが、油断しないほうがいいからな」

 「ああ、任せておけ。それより、お前こそ気をつけろよ」

 「ああ。分かってるよ」

 加藤は、俺の肩を叩くと、イオの家に入っていった。それを見計らったように、四頭立ての馬車ならぬ、鹿車が到着した。
 御者の席から、先日の若者、ミマスが降りてくる。

 「お早うございます。本日は、招待を受けてくださってありがとうございます」

 まあ、点の映像で彼とビギのやり取りは見ているから、「招待」では無いと分かってるけどね。

 「お早う。これに乗ればいいのですな?」

 リーヴァスさん、ポル、俺の順に鹿車に乗る。
 四頭立てだからだろう、先日のラズローの鹿車とは、比べ物にならないスピードで街中を駆けていく。
 あっという間に、門から出ると、草原の道を、森とは反対方向に進む。
 前方に丘が見えてくる。

 鹿車は、草原を突っきると、丘の麓の大きな建物の前に止まった。

-------------------------------------------------------------------------

 四竜社が入る建物は、丘の下を取りまく建物群の中でも一際大きなものだった。

 建物は、丘の頂上に向けて斜めに建てられている。多くの窓がこちら向きに開いていた。内部へ陽の光が入ることを重視した設計なのだろう。この建物が、丘の一部を削って、地下を設けていることまで分かっていた。
 点ちゃんが、丘周辺の立体マップを作っている。

 その建物が平坦地と接する所に、大きな開口部があった。アーチ型をしており、象でも通れそうである。
 ミマスに案内された俺達は、その入り口を潜り、前方に現れた階段を上がる。数回の踊り場を挟んで、階段を100段は上がっただろう。
 最上層に着いた後は、左に曲がって通路を進んでいく。
 ミマスは、木の大きなドアの前で立ちどまった。

 「こちらです」

 ミマスがドアを開け、史郎達三人は中に入った。

-----------------------------------------------------------

 部屋の中は15畳ほどの空間で、外側に10畳ほどの広いテラスが付いていた。

 外側から窓のように見えていたのは、テラスの開口部だった。テラスと部屋との間は開けはなたれており、草原を渡ってきた風がカーテンを揺らす。
 室内には大きな長方形のテーブルが置かれており、三方に竜人が座っていた。

 俺達は、残る一辺に座るように促された。
 こちらから見て左に青竜族、赤竜族がそれぞれ二人ずつ、右に白竜族と、黒竜族が二人ずつ座っている。
 赤竜族の一人はラズローである。彼は、俺達と初対面であるという素ぶりをしている。
 白竜族は、初めて見たが、銀色に近い白髪で、若い方の竜人は、女性と見まがうばかりの繊細な顔立ちをしていた。

 奥に一人で座っている壮年の黒竜族がビギだというのは、点ちゃんからの情報で分かっている。

 「君達が、迷い人だな。ドラゴニアにようこそ。私は、四竜社の頭、ビギという」

 「初めまして。私はリーヴァスと申します。こちらは、ポル、シローです」

 ビギの挨拶に、リーヴァスさんが応じた。
 ビギの左に座っている太った赤竜族の男性が問いかける。

 「どのようにして、この世界に?」

 「どうやら、ランダム・ポータルの転移に巻きこまれたようです」

 これは、あらかじめ打ちあわせてあったセリフだ。

 「こちらには、何人で?」

 「合わせて、十人ですな」

 「なぜ、そのような大人数で転移を?」

 これは、白竜族の若者からの質問だ。彼は、顔立ちだけでなく、声も美しかった。

 「谷間を、皆で歩いているときに、いきなりポータルが現れましてな」

 このセリフも、打ちあわせ通りである。

 「なるほど、巻きこまれた人もいたのですね?」

 「ええ。この二人がまずポータルに飲みこまれて、その後、私を含め、残りの8人が巻きこまれました」

 リーヴァスさんが、ポルと俺を指す。

 「なるほど。だから、最初二人だけが都に来たのですね」

 白竜族の若者が発言したが、それをさえぎるように、黒竜族の一人が発言する。

 「その二人は、役所で騒動を起こしておる」

 「ほう。騒動とは?」

 リーヴァスさんは、知らないふりをしている。

 「悪臭をまき散らしたと聞いておる」

 「いきなり牢へ捕らえられただけで、特に何もしていませんよ」

  俺がとぼける。

 「何を言うか! 青竜族の役所から報告が来てるんだぞ」

 「で、決めつけるだけの証拠はあるのでしょうね?」

  俺は、穏やかな口調で言いながら、黒竜族の男を正面から見た。

 「くっ、そ、それは、彼らがそう言っておる!」

 「おや? 誰かが、そう言っているだけで、証拠は無いと?」

 「ええいっ! うるさいわっ!」

 人間ならば、40代に見える黒竜族の男は、こめかみに筋が浮かびあがっている。

 「トール、その話はそこまでだ」

 ビギが、場を収める。
 立ちあがりかけていたトールという男は、こちらを憎々し気に睨んだまま腰を降ろした。

 「あなた方を罪に問うつもりは無い。ただ、このままでは納得のいかぬ者もいる」

 ビギは、そういいながら、トールの方をチラッと見た。

 「そこで提案なのだが、我々の伝統行事に参加していただきたい」

 「伝統行事といいますと?」

 今度は、リーヴァスさんがとぼける。

 「私が説明しましょう」

 青竜族の一人が、発言を求める。

 「ハルト。では、説明してくれ」

 ビギが、許可を出す。

 「参加して頂く伝統行事は、『竜闘』と呼ばれるものです。
 舞台の上で、一対一で戦います。
 戦いと言っても、審判もいますし、危ないと思ったら、場外に出ればいいわけですから、それほど危険はありません」

 その発言が嘘だと分かっている俺達三人は、顔を見あわせた。

 「死ぬようなことはありませんか?」

 俺が、指摘する。

 「ええ、普通はありませんよ」

 ラズローと白竜族の若者が、顔を伏せる。竜人にも、恥を知る者はいるようだ。

 「降参を宣言すれば、負けとなるのですな。
 その後で、攻撃されたりはせぬのですかな?」

 「……ええ、されません」

 青竜族の男が答えるまでの一瞬のためらいが、全てを物語っていた。

 「負けたらどうなるのでしょうか?」

 ポルが、打ちあわせてあったセリフを言う。

 「特に、何もありませんよ。参加していただければ、迷い人としての登録もこちらで行っておきます」

 「全員が参加する必要があるのでしょうか? 私達には、小さな子供もいるのですが」

 これは、俺が質問した。

 「もちろん、その必要はありません。
 今のところ、5対5の形式を考えています」

 なるほど、このハルトという青竜族の男が、ビキの下で竜闘を運営するわけか。

 「五人ですか。女性が参加してもよろしいか? 
 男性は、四人しかいません」

 「ああ、男性が足りなければ、竜人に協力を求めることもできる。
 そうだな、ラズロー」

 ビギが、口の端を吊りあげながら、ラズローに話を振る。

 「ええ、それも可能です」

 ラズローは、顔色一つ変えずに答えた。

 「では、お前の所で何とかしてやれ」

 ビギは、薄ら笑いを浮かべながら、畳みかけた。

 「分かりました」

 ラズローは、静かに答えた。

 「では、話しあいは、これで終わりだ。皆、『竜闘』がつつが無く終えられるよう力を尽くせ」

 ビギが、竜人達を見回す。

 「「天竜の庇護の下に」」

 ビギ以外の八人の竜人が、そう言って頭を下げると、立ちあがった。
 俺達三人も促されて立つ。

 他の竜人が部屋から出るのを追う形で、廊下に出る。

---------------------------------------------------------------------

 廊下では、ミマスが待っていた。

 帰りも、彼が俺達を案内するようだ。
 八人の竜人は、反対側に向かうようだ。

 俺達が歩きだしてすぐ、後ろから足音がした。

 「そういえば、私もこちらですることがあったのだ。ご一緒していいかな?」

 振りむくと、白竜族の若者がいた。近くで見ると、さらにその美しさが際立っている。涼し気な目が印象的だ。身長は、190cmほどあるだろう。顔つきからは、想像できないくらい鍛えられた体躯をしている。
 ミマスは、少し困ったような顔をしたが、相手の方が役職が上だと考えたのだろう、若者に礼をした。

 長い廊下を歩く間に、白竜族の若者は、いつの間にか、俺のすぐ横に並んでいた。歩幅が違うので、少し歩きにくそうだ。

 「シローと言ったか。私は白竜族のジェラードだ。君と少し話がしたい。時間を取ってくれるか?」

 彼は、前を行くミマスに聞こえないよう、囁きかけてきた。
 俺は、少し考えてから、返事をした。

 「いいですよ。俺は、青竜族の都で、商売をやっています。
 商業区の『ポンポコ商会』まで来ていただければ会えます」

 「そうか。『ポンポコ商会』だな。なるべく早く行くことにするよ」

 彼は、俺の肩を軽く叩くと、列から離れた。

 「私は、ここで失礼する」

 そう言うと、颯爽と去っていった。
  なんか、リア充の匂いがするやつだな。

 『(・ω・)ノ ご主人様、そういうことは考えないほうがいいよ?』


 なぜか、疑問形になっている点ちゃんの意見を聞きながし、史郎は白竜族の若者が何の目的で近づいてきたかに、考えを巡らすのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...