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空知音

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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第27話 迷い人の情報

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 四竜社へ向かう前日、史郎はかねてからしようと考えていたことを行った。

 上空から都市を見ておくことである。
 転移直後にも上空からの観察はしておいたが、あれは大陸の形などを確認する大まかなものだったからね。
 すでに、青竜族の都であるこの都市、そして、赤竜族の都である隣の都市があることは、分かっている。

 夜が明けるぎりぎりの時間を見計らって、点ちゃん1号を透明モードで出す。俺一人が乗り込んで空へ上がる。
 俺達が滞在している都市の形が見えてくる。それは、ほぼ円形をしていた。
 さらに上昇すると、同じような形の都市が、合わせて4つあることが分かった。正方形の各頂点に位置するように4つの円形都市があり、その中心に、丘のようなものがある。丘の麓には、丘を取りかこむように建物群が見える。丘の上にも一つだけ大きな施設が見えた。

 情報収集のための点をばらまく。各円形都市に満遍なく、そして、丘の周辺にはやや多めにまいておく。四竜社は、丘の周辺施設のどれかだろうからね。

 仕事を終えた史郎は、水平線から昇る朝日を見ながらゆっくりお茶を飲むのだった。

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 四竜社の執務室では、ビギがミマスから報告を受けていた。

 「それで、そいつらは、ここに来るのか?」

 ビギが、不機嫌な声でそう言う。
 それは、そうだろう。目の前に立つ若い竜人は、すでに一度任務に失敗しているのだ。

 「はあ、手紙は受けとってもらえました」

 「なんだとっ! 『受けとってもらえた』とは何だ! 
 お前は、黒竜族としてのプライドが無いのか!」

 大柄な若い竜人ミマスは、小さくなっている。

 「もうよいわ! もし、奴らが呼びだしに応じないときは、お前も同罪だ」

 「そ、そんな……」

 「さっさと出ていけ!」

 ビギは、汚らしいモノでも見るような目で、ミマスを見た。
 若者は、すごすごと部屋から出ていった。

 「全く、最近の若い者はなっとらん!」

 ビギが、机を拳で叩くと、机の上から筆記具が飛散した。
 そこへ、ノックの音がする。

 「入れ」

 不機嫌な声で許可を出す。
 赤竜族の男が入ってくる。年のころは、40代だろう。竜人には珍しく、お腹が出ている。

 「報告があります」

 「何だ?」

 「ラズローと、例の迷い人が接触したようです」

 「なに? 何が目的か、分かっているのか?」

 「奴の娘が、迷い人がやっている店に押しかけたようなんです」

 「店? 迷い人に商売の許可など出していないはずだぞ」

 大体、商売しようにも、迷い人には元手が無いはずである。

 「その時、迷い人が、二十人ほどの武装した赤竜族を倒したということです」

 「なにっ!? 迷い人は少年だったはずだが」

 「それが、新しく現れた迷い人が合流したようなのです。
 赤竜族を倒したのは、老人という話でした」

 「なにっ? 老人が、二十人をか?」

 「はい。瞬く間に制圧したそうです」

 「その男は、竜人か?」

 「いえ。人族のようです」

 「馬鹿を言うな! 人族など、一対一でも、竜人に勝てぬわ」

 「しかし、目撃者によると……」

 「いい加減な情報に踊らされるな。それより、新しく現れた迷い人は、一人か?」

 「いえ。女子供を含めて、五人はいると思われます」

 一体、どういうことだ? ランダム・ポータルが、そんなに都合よく開くはずはない。同じ時に転移して、遅れて都にやって来たのだろう。
 ただ、万が一の事がある。隠しポータル周辺の確認をしておく必要があるか。追放用ポータルの確認は不要だろう。

 「よし。さらにその辺のことを詳しく調べろ」

 「はっ、分かりました」

 赤竜族の男は、一礼すると、部屋から出ていった。

 ラズローと迷い人か。嫌な組みあわせだな。
 ビギは、少し考えた後、特別な笛を口にくわえた。笛からは、妙に甲高い音がした。

 間もなく、部屋に黒竜族の男が入ってきた。全身を黒く光沢がある衣服で覆っている。その男の冷たく鋭い目つきは、蛇を思わせた。
 男は、ビギの前に片膝をつき、頭を下げた。

 「ご用でしょうか?」

 「うむ。青竜族の都にやってきた迷い人を探れ」

 「はっ」

 「くれぐれも、覚られぬようにな」

 黒服は、頭を下げると、スルスルと部屋から出ていった。動きまで蛇を思わせる。

 「念には念を入れんとな」


 男が去った後、ビギは薄笑いを浮かべ、竜闘の段取りを思いうかべるのだった。
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