ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第33話 白竜族の若者1

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 草原でボードサーフィンをした次の日、史郎は、店を準備するために、商店街に来ていた。

 昨日買えなかったということもあるのだろうか、開店前から行列が出来ていた。今までで一番の人出である。
 今日は、それを予想して、多めにクッキーを用意してある。新しく細長い棒状のクッキーも焼いている。端に蜂蜜を垂らしてある
 チュロスをイメージして作ったのだが、やや柔らかさが足りないのと、シナモンが無いのが残念だった。
しかし、開店してみると、持ちやすさが受けたのか、通常のクッキーより多く売れていく。
 そして、それを手に町を歩いている人を見たと言って、新規のお客が大量に押しよせた。
 棒クッキーは、1時間も経たずに完売。通常のクッキーも、2時間ほどで売り切れてしまった。過去最高の売り上げである。

 加藤とハイタッチする。
 イオは、満面の笑顔だ。
 そのイオの笑顔が、凍りついた。
 肩を軽く叩かれ、後ろを振りむくと、四竜社で会った白竜族の若者が立っていた。後ろに、白竜族の若者を一人、女性を二人連れている。

 「は、白竜の若様……」

 我に返ったイオが、慌てて両膝を地面に着ける。

 「シロー、約束通り来ましたよ」

 相変わらずの美声である。

 「こんにちは」

 俺が、軽く応じる。

 「ねえ、君、畏まらないで、立ってくれないか? 
 これじゃ、私が悪者みたいじゃないか」

 確かジェラードと名乗っていた若者が平伏しているイオに苦笑している。苦笑しても絵になるのが、嫌味である。
 俺が手を引っぱり、赤い顔をしたイオを立ちあがらせる。

 周囲では、すでに女性の通行人が足を停めだした。すぐに、人垣ができるだろう。

 「私の知人が近くで店をやっているから、そこで話さないか?」

 ジェラードが、渡りに船を出したので、すぐに応じた。店の片づけは、イオとポルに任せて、俺と加藤で彼に着いていく。

 俺達は、商店街のはずれにある瀟洒な家に入った。庭に草花を植えているところは、この世界には珍しいが、それを除くと、普通の住宅に見える。

 ジェラードが美しく彫刻された木のドアをノックすると、中年の女性が出てきた。その女性は、なんと人族だった。

 「若様、いらっしゃい」

 女性は、にこやかに言うと、俺達を中に招きいれた。

 「どうぞ、こちらでお待ちください」

 彼女は、そう言うと奥に消えた。

 俺達は、入ってすぐの所にある小部屋で待つ。竜人の娘が入ってきて、各自の前に、お茶を置く。六人が座るとほぼ満員のその部屋は、趣向を凝らしたものだった。
 窓からは、庭の草花が見え、壁には複雑な意匠の美しい織布が掛かっていた。テーブルも見たことが無い黒い素材でできており、手触りが良い。

 「改めて、名乗らせてもらおう。
 私は、白竜族のジェラードと言う。
 シロー、今日は、時間をくれてありがとう」

 挨拶まで爽やかである。

 「いや、仕事が終わったところだったから。終わるの、待っててくれたんでしょ」

 彼が、店から少し離れたところにいたのは、点ちゃんからの報告で知っていたからね。

 「ふふふ、さすがだな」

 「ああ、そうだ。
 こちらは、俺の友人で加藤といいます」

 「初めまして」

 加藤が頭を下げる。

 「初めまして。
 ところで、君達は、勇者ではないのかな?」

 黙って控えていた、ジェラードの付きそいがはっとした顔をする。

 「俺は違うけど、ええ、彼は勇者ですよ」

 俺は、加藤の方を見る。

 「しかも、黒髪の勇者とはな」

 ジェラードが感心したように言う。加藤は、肩をすくめた。

 「この世界でも、他の世界との交流はあるのですか?」

 念のため、訊(き)いておく。

 「いや、ほとんど無いよ。
 だから、何年かに一度訪れる迷い人から、得られるだけの情報を得ているんだ」

 なるほど、今回俺に会いに来たのは、そういう意味もあったのか。

 「黒髪の勇者を見るのは、初めてだよ。
 多くのポータル世界で、物凄く人気があるらしいね」

 「ええ、それはもう」

 当たり障りのない答えを返しておく。

 「彼も竜闘に出るのかい?」

 「うーん、それは今のところ何とも言えません」

 意図がはっきりしない相手に、こちらの手の内を見せる馬鹿はいまい。

 「ははは、警戒されてるな。
 まあ、仕方ないが、私は君達の敵では無いよ」

 俺と加藤は、それには黙っていた。さきほどお茶を持ってきた竜人の娘が、料理の用意が出来たと伝えにきた。
 ジェラードは、席を立つと、勝手知ったる様子で家の奥へ歩きだした。俺と加藤がその後を追う。
 付きそいの白竜族三人は、さっきの部屋に残るようである。

 ジェラードは、綺麗な木目があるドアを開けると、中に入っていった。
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