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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第41話 戦いの真実
しおりを挟む史郎がゆっくりと竜舞台に上がった。
主審の前まで歩いていき、止まる。
「審判。リーヴァスさんがした、規定外の攻撃とは?」
「そ、それは……」
元々青みがかった青竜族の主審の顔が、さらに青くなる。
「なぜ、嘘をついたのですか?」
「そ、それは?」
「判定を元に戻す気は無いのですね?」
「……」
この場合、沈黙が何を意味するかは明らかである。
俺は、首を左右に振ると、点魔法を発動した。
竜舞台のバックスクリーンともいえる巨大な竜のレリーフの壁。
それが一面まっ白になった。
「な、なんだ、あれは!」
「竜壁(りゅうへき)が、白くなったぞ」
壁一面に、映像が映しだされた。
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映像は、第二戦後、ポルが戦った試合の判定を巡って審判団が集まった場面だった。
彼らは、ポルが場外に出たかどうかを話しあっていた。
「一番近くにいましたが、出ていませんでした」
赤竜族の線審が、ポルの場外を否定する。
「私からも、出ている様には見えませんでした」
白竜族の線審もきっぱりと言いきった。
ビギは、ゆっくりこう言った。
「2対2か。では、主審に判断が委(ゆだ)ねられるな」
彼は、立ちあがると、反対側に座る主審の所まで歩いていった。かがみこんで、主審の耳元で囁く。
「お前の息子は、今、牢に入っていたな」
青竜族の主審が息をのむ。
「俺の力で、無罪放免にしてやろう」
そう言うと、ビギは自分の席に戻った。
「……では、判定は、迷い人側の場外反則負けということにする」
主審は苦悩に満ちた声を絞りだした。
「主審! 明らかに場外ではありませんよ!」
赤竜族の線審が気色ばむ。
「場外だ」
椅子に沈みこむように主審が繰りかえす。
映像は、ご丁寧に第2戦を上空から映したものまであった。
ザブルの剣がポルを貫いたと見えた瞬間、白い光の様な影がザブルの後ろに回りこんでいた。
ポルが得意の変身で蛇の姿となり、ザブルの背後に回りこんだのだが、観客にはそれすら分かるまい。
上空から見ているから、ポルが場外に出ていないのは明白である。
映像が流れると、ざわついていた場内が、恐ろしい程静かになった。
「だ、誰か!
あれを止めろ!」
ビギが叫ぶが、壁は人の手が届かない高さにある。しかも、誰が行っているかも分からないから、対処の仕様が無い。
竜舞台に上がった少年が怪しいが、彼は指一つ動かしていないのだ。
第2戦の映像が消えて、ビギがほっとしたのも束の間、次の映像が始まった それは、ついさっき、彼が主審に判定の逆転を要求した場面だった。
「おい。
何とかしろ」
ビギが、主審に要求している音声がハッキリとらえられていた。
「しかし、今回は、明らかに……」
「お前の息子が、どうなってもいいんだな」
「ぐっ……わ、分かりました」
その映像は、そこで終わったが、先ほどと同じように試合を上空から映した映像も流れた。しかも、今回は、途中からスロー再生である。
開始線で向かいあうビガとリーヴァス。
ビガが柄を握りこむと、剣先が発射される。まだ、鞘の中に入っていたリーヴァスの剣が鞘走ると、見事に飛んできた剣先を弾きとばした。スロー再生でもぼやけるほどの、剣速である。
リーヴァスの剣が滑らかに軌道を変え、そのままビガの右手を切りおとした。
観客のざわめきが、次第に大きくなる。
「おい、なんだ、ありゃ。
反則してるのは、ビガの方じゃねえか!」
「ひでえ!
息子を人質に、不正を要求してるじゃねえか!」
「審判も、何やってんだ!」
「天竜様のお怒りに触れるぞ!」
不満の声は、次第に大きくなり、まるで場内全体が一匹の獣になって唸り声を上げているようだった。
竜人は、伝統と名誉を重んじる。神聖な竜闘となると、なおさらである。ビギと審判の行いは、この場にいる竜人が、誰一人として許せないものだった。
収拾がつかなくなった竜闘を救ったのは、白竜族の若者だった。
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