ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
249 / 607
第七章 天竜国編

第2話 竜達の歓待

しおりを挟む

 天竜の洞窟、大広間では、人化した多くの竜が、せわしなく働いていた。

 「手際が悪くて申し訳ありません。
 中には、久々の人化に体がついていかない者もいるのでしょう」

 長の言葉は、あくまで丁寧だ。視線はずっと、ナルとメルに向けられている。
 大きな敷物を持った二人の男がやって来ると、それを地面に広げた。年配の女性が、その上にさらに少し小さな布を敷く。

 「どうぞ、お座りください」

 ナルとメルを小さな布の上に座らせると、俺とルルはその横に座った。残りの面々も、俺達の後ろに座る。

 若い娘達が、手に小さな壺を持って入ってくる。壺には、ガラス細工のような透明な花が挿してある。娘達は、ナルとメルの側にそれを飾りつけていく。

 「きれいだね」

 綺麗なものが好きなナルは、興味を持ったようだ。

 「おいしそう」

 メルは、エルファリアで食べた、飴細工の花を思いだしているのだろう。

 「ドラゴンに変身できるなんて、ナルちゃんとメルちゃんはすごいね」

 俺の後ろに座ったイオが、感心したように言う。まあ、本当は逆なんだけど、ここは勘違させたたままの方がいいだろう。

 「そうだよ。
  すごいだろう」

 適当に、返事をしておく。

 「シロー、娘子達は、そういうことだったのか」

 娘達二人の変身姿を初めて見たコリーダが、呆れたような顔で言う。

 「いつもは、秘密にしているからね」

 「お主とルルの子供かと思っていた」

 「いや、それは間違いないよ。
  二人は、俺とルルの娘だよ」

 俺はきっぱり言い切った。コリーダには、後で二人を娘として育てることになった経緯を話しておこう。

 人化した竜が、ナルとメルの周囲を飾りつけ終わると、二人は雛人形のようになった。
 メルが前に置かれたお菓子のようなものに手をつけようとして、ルルに諭されている。彼女は、お行儀には厳しいからね。
 やがて、ナルとメルの「ひな壇」を中心に、人化竜達が、半同心円状に座った。

 円の内側ほど年寄りが座っているから、序列順に並んでいるのだろう。座るなり、全員が額を地面に着けている。
 敬意を表しているのか、ナルとメルの前5mくらいは、誰も座っていない。
 二人の正面最前列に座った長が、礼をしたままの姿勢で口を開く。

 「この度は、真竜様においでいただき、恐悦至極にございます。
 我々からの心ばかりの感謝の気持ちをお受けとりください」

 着飾った娘が、両手にお盆のようなものを載せて、次々に入ってくる。ナルとメルの前まで来ると、お盆ごと置いて下がっていく。
 お盆の上には、様々なものが乗っていた。

 「なんか、凄いのがあるね」

 ミミは、宝石が山盛りになったお盆から目が離せないようだ。

 「あれは、何でしょう」

 ポルは、魔道具のようなものが載ったお盆を見ている。

 「ほう、見事なものですな」

 リーヴァスさんが目をつけたのは、一つのお盆に載せられた二振りの短剣である。鞘に入っているが、柄の部分を見ただけで、それがどれほどの業物か、彼には分かるらしい。
 ナルとメルのすぐ前だけは、お盆が置かれていない。きっと食事を置くスペースだろう。
 そう俺が予想したら、案の定、水晶の板に載った食事が運ばれてくる。

 まず、ナルとメルの前に、それから俺達の前、最後に人化竜の前に膳が置かれる。見たところ、ナルとメルの食事は特別製で、俺達のは人化竜と同じもののようだ。

 点ちゃん、調べてくれる?

 これだけ歓待してくれているのだから、毒の心配はないだろうが、身体に入れて大丈夫なものかどうかは、確認しておかないとね。

 『……大丈夫だよー。
  でも、味の方は、分からないよ』

 それはそうだ。

 長の挨拶が終わり、食事が始まる。長だけは、膝歩きで、ナルとメルの前に来て、捧げものの説明をしている。

 「こちらは、竜人の国で採れる宝石でございます。
  この二振りの剣は、竜の刀匠が作った名刀ございます。
  こちら、天竜国の洞窟で発見された、アーティファクトでございます。
  特別なお湯が生成される逸品です。また、こちらは……」

 彼が説明している間は、ナルとメルは食事ができない。

 メルは、目の前に食事を置かれたまま、話を聞くというのが堪えられなくなりつつある。堪忍袋というより、胃袋の緒が切れる直前に話が終わった。
 メルは、いそいそという感じで食事に取りかかる。

 「おいしいね、少し変な味だけど」

 食事は、確かに、今まで食べたことがない味のものが多かった。ミントのような味がする赤身とか、甘辛い草のようなものとか。今まで行った、どの世界とも違う食事である。

 史郎には、それがとても新鮮だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...