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第七章 天竜国編
第9話 天竜国のダンジョン2
しおりを挟む翌日、朝食の後で、広間にダンジョンを攻略中の若い天竜が集まった。全員が人化しているのを見ても、能力の高い竜がダンジョンに挑戦しているのだろう。
昨日、長の部屋を訪れたパーティ・ポンポコリンのメンバーが一列に座っている。その前に、若い竜が、半円形を描くように座った。
どうやら、ダンジョン攻略組は、男性だけのようだ。
全員が俺達に礼をした後、まん中に座る大柄な若者が発言した。
「長からうかがっております。
ダンジョンの事をお尋ねになりたいとか」
「ええ。
真竜様にまつわるダンジョンがあるとか」
俺は、いきなり聞きたいことを尋ねた。
「はい、あります。
真竜廟のことですね?」
「真竜廟?」
「普通、ダンジョンの入り口は、ただ穴が開いているだけなんですが、ここだけは扉があるのです」
「扉?」
「ええ、入り口に金色の扉があって、我々が近づくと開くのです」
ふーん、もしかすると、竜だけが通れるようになっているのかな?
「灯りは必要ですか?」
「他のダンジョンでは必要ですが、真竜廟だけは、洞窟自体がぼんやりと光っています」
なるほど、いろいろ他のダンジョンと違うところがあるんだね。
「出てくるモンスターは、どのようなものがいますか?」
ルルが真剣な顔で尋ねる。ポータルズ世界では、ダンジョンに出る魔獣をモンスターと呼ぶ。
「一階だと、ロックバットや石人形ですね」
おいおい、一階からいきなりゴーレムですか。
「二階は、オーガや角サイが出ます」
ポルとミミが驚いている。オーガと言えば、人型のかなり強いモンスターである。
「三階は、スライムとジャイアントスネークです」
攻略が3階までしか進んでないとすると……。
「そのジャイアントスネークが強いんですね?」
「まあ、そちらも強いのですが、スライムが厄介でして。
そいつのせいで、攻略が3階止まりになっています」
「スライムは、ボクらも戦ったことがあるのですが、そんなに強いんですか?」
ポルが不思議そうに尋ねる。
「真竜廟のスライムは、少し変わっているのです。
攻撃を受けると分裂していきます。
一匹一匹は弱いのですが、小さくなり、数が増えると対処の仕様がありません」
なるほどねえ、特別なスライムか。
「ところで、真竜廟は、いつ頃からあるのですかな?」
リーヴァスさんが、一歩踏み込んだ質問をする。
「下界の竜人が使っている暦で数えて、500年以上昔からあるそうです。
それ以前は、記録が残ってなくて分からないのです」
つまり、500年以上、竜にさえクリアされていないダンジョンということか。これは、手強そうだ。
それから、俺達は、各階層のモンスターについて、攻略法を一つ一つ教わった。当然、点ちゃんノートへの記録もばっちりだ。
その後、俺達は、天竜の若者から得た情報を元に、夕刻まで打ちあわせをした。
その結果、史郎達はダンジョン攻略に挑むことを決めた。
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そして、今、史郎達の前には見上げるようなサイズの扉があった。
今朝早く天竜の洞窟を発ち、点ちゃん1号で真竜廟まで来たのだ。
ダンジョン攻略を行うメンバーは、リーヴァスさん、ルル、コルナ、ミミ、ポル、俺の六人だ。
案内役に、昨日真竜廟について説明してくれた若い天竜もついてきてくれている。俺達だけだと、目の前にある金色の扉が開かない事もあり得るからね。
試しに、ポルが一人で開けようとしてみたが、扉は全く動かなかった。
天竜の若者が扉に触れただけで、音も立てずにすーっと開く。
「それでは、私はここで失礼します。
ご健闘を祈ります」
彼はぺこりと頭を下げると、竜の姿に戻って飛びさった。
「では、打ちあわせ通りいきますぞ」
リーヴァスさんの声を合図に、開いた扉から中に入る。
洞窟っぽいものを予想していた俺は、地球の地下道に似た通路に少し驚いた。幅が5mくらいの通路は、磨かれた様に床が平らだ。なぜか、塵一つ落ちていない。
壁は通路から垂直に立ちあがっており、滑らかな表面がぼんやりと白い光を放っている。天井は、中央が少し高い、アーチ型だ。
明らかに人の手、いや、竜の手が入ってる。
通路がこの広さなら、竜の姿のままぎりぎり通れそうだが、それだと敵が出てきた時、身動きが取れないか。
俺達は、リーヴァスさんを先頭に、やや上向きの勾配がある通路を奥へと向かった。
リーヴァスさんの後ろにルル、ポル、その後ろにミミ、コルナで、俺は最後尾をついていく。
皆の靴音だけが、通路に響く。誰もしゃべらないのは、索敵の時は音を立てないよう、リーヴァスさんからアドバイスを受けているからだ。
50m程進むと、微かにパタパタという音が聞こえてきた。
斜面が終わり水平になった通路の左前方に入り口が見える。羽音は、その中からするようだ。
リーヴァスさんが、ジェスチャーで俺達を止め、一人で部屋の前に向かった。身体を低くして、部屋を覗くと、すぐに戻ってくる。
指を3本立て、両腕を上下させる。
ロックバットが、3匹いるということだろう。
史郎達は、ゆっくり音を立てないように部屋の前まで来た。
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部屋は、学校の教室くらいで、通路と同じように壁の光にぼんらり照らされていた。
三匹のモンスターが宙で羽ばたいている。
リーヴァスさんが、口で小さな音を立てる。
一番近くのモンスターがそれに気づいたらしく、こちらに向かってくる。それは、胴体がバスケットボールほどもある、大きなコウモリだった。羽毛の代わりに、石っぽいごつごつした体表をしている。
なるほど、確かに「ロックバット」だな。
リーヴァスさんが腰の剣を抜くと、一閃、ロックバットは、まっ二つになった。
ポルが前に出る。
リーヴァスさんが、また口で音を立てた。二匹目のロックバットが襲ってくる。
ポルが、白銀の剣を構えた。
ガキッ
ポルの一太刀は、ロックバットの固い体表に弾かれた。剣の腕で、ここまで違うのか。
ロックバットがポルの二太刀目をクルリと躱す。
近距離から、ポルの頭部に飛びかかった。
俺が点魔法を発動するより早く、ミミの短剣がロックバットを捉える。
完全に虚を突かれた形のモンスターが、体勢を崩す。
そこにポルの突きが決まった。今度こそ、彼の剣先がロックバットを貫いた。
戦闘音に気づいたのか、最後の一匹が、こちらに向かって来た。
後列にいたコルナに向かって飛びかかる。
近接戦闘力がほとんど無いコルナは、驚いて一歩下がった。
そこに付けいるように、ロックバットが接近する。しかし、それは、ルルが振るった剣によって阻止された。
ロックバットは、地上に落ち、少しの間バタついていたが、やがて動かなくなった。
最初リーヴァスさんが倒したロックバットは、ダンジョンの床に溶けるように消えかけていた。
なるほど、モンスターの死体は、こうやって消えていくのか。この辺が、ダンジョンでは魔獣と言わずモンスターと呼ぶ理由なのかもしれない。
「リーヴァスさん、ダンジョンのモンスターは、こうやって消えるのが普通なんですか?」
「ええ、そうです。
しかし、ここの消え方は、今まで見たどのダンジョンより早いですな」
やはり、普通のダンジョンとは違うのか。
史郎は、初めてのダンジョンに心がおどっていた。
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